資産家で、多くの女性との交際遍歴があることから「紀州のドン・ファン」と呼ばれていた和歌山県田辺市の会社社長(当時77)が、全財産を田辺市に寄付するという「遺言書」を残していたことが報じられました。田辺市は2019年9月、約13億円にのぼるこの寄付を受け取る方針を明らかにしました。メディアが大きく取り上げたので、ご存じの方も多いと思います。今回は、この男性のような遺言による寄付行為「遺贈」について説明します。

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遺贈への関心高く

この男性の遺言による寄付行為は「遺贈」にあたります。死後の財産は配偶者や子どもなどの相続人がおらず、寄付する相手もいなければ国庫に納められます。生涯未婚率が上昇し、相続人のいない単身者らが増えている状況もあって、遺贈への関心は高まっています。
医療・人道援助を行う特定非営利活動法人「国境なき医師団日本」が2018年8月に発表した「遺贈に関する意識調査2018」によると、20~70代の男女1200人のうち、49.8%が遺贈の意向を示し、遺贈の魅力については「どこに遺産を託すかを自分の意思で決められること」と答えた人が最多の46.1%でした。次いで「遺贈先によっては相続税の控除が受けられること」「遺言書を通じて遺贈を表明するので法的拘束力があること」という答えが多い結果となっています。
この意識調査では、遺産を人道支援や医療支援に役立てたいという回答が多く、社会貢献に対する意識の高さがうかがえます。

遺言で寄付する団体を指定

遺産を寄付するためには遺言書による意思表示が必要です。主に自分で書く「自筆証書遺言」と公証人が作成する「公正証書遺言」があります。「遺言による寄付」をするには遺言書が必要になります。身内のいない人は必須といえるでしょう。もちろん、寄付する個人や団体も決めておく必要があります。

遺贈に関する情報発信や遺贈希望者のサポートをしている一般社団法人「全国レガシーギフト協会」のホームページによると、遺言書の作成手順は預貯金や不動産などの財産(相続財産)と相続人となる人(推定相続人)を確認しておき、財産の配分を検討します。兄弟姉妹以外の法定相続人には一定割合の取り分が保証されているので、遺贈先とのバランスを考えなければならないといいます。

ホームページでは「自筆証書遺言」は比較的簡単で、無料で作成できますが、様式不備や紛失、相続時の家庭裁判所での手続きが必要といったデメリットがあることを指摘しています。これに対し、山北洋二理事は「公正証書の方が確実です」と話します。作成費用はかかっても自筆のようなリスクがないからです。遺言書の内容通りに手続きを進める「遺言執行者」も決めておいた方がよいでしょう。

「相続財産の寄付」というものもあります。故人の遺志を汲む相続人が遺産を寄付する行為を指します。例えば、自分の子どもに「自分が死んだらこの団体に100万円を寄付して」と言葉などで伝えます。実行するかしないかは相続人次第なので遺言書と違って確実性に欠けるかもしれません。

「お一人さま」と呼ばれる未婚者が、死後に飼っているペットの世話をしてもらうことを条件に遺産を寄付するケースもあります。このように遺贈先が一定の義務を履行する責任を負う遺贈を「負担付遺贈」(民法1002条)といいます。ほかには名前が付けられる「冠基金」を助成団体に設立するという寄付の形もあります。

ユニセフ基金で世界の子どもたちへ

遺贈希望者の「思い」を受け取る側が、寄付された遺産をどのように生かしているのかも気になるところだと思います。

ユニセフ(国連児童基金)の活動を支える公益財団法人「日本ユニセフ協会」(東京都港区)では、寄付された遺産を「ユニセフ募金」として預かり、支援国へのワクチンや栄養補助食品の提供、衛生施設(トイレ)の設置などに活用しています。紛争地域の子どもたちに文具や教材を贈って教育の環境を整えることや、子どもたちへの暴力をなくすための教師の育成にも注力しているそうです。

日本ユニセフ協会レガシー相談室の担当者は「寄付は家族がいる方、身寄りもない、子どももいない方とさまざまです。『教育に使ってほしい』と要望されることもあります」と話します。

知名度の高さや存在感があるだけでなく、メディアでたびたび紹介されるような団体には注目が集まるので支援の内容もイメージしやすくなります。
ひきこもりの人の就労や在住外国人の支援など茨城県の課題解決に取り組む認定NPO法人「茨城NPOセンター・コモンズ」(茨城県水戸市)は昨年度、1000万円を遺贈され、2015年9月の関東・東北豪雨による水害で甚大な被害を受けた茨城県常総市の被災者支援に役立てました。

当時の常総市は鬼怒川堤防の決壊などで約3分の1が浸水し、2人が死亡、最大で約6200人が市内外の避難所に身を寄せました。茨城NPOセンター・コモンズの一拠点が浸水被害に見舞われましたが、集まったボランティアらと連携して街の復旧や被災者支援に尽力。その様子は新聞やテレビで紹介されました。
支援活動は今でも続いています。それを知った遺贈希望者が、茨城NPOセンター・コモンズの元メンバーを通じて寄付してくれたのだそうです。

遺贈は人生の最期を迎えるにあたって取り組む身辺整理の線上にあり「財産の生かし方」だといいます。お世話になった地域に、卒業した小学校に、新聞記事に取り上げられた団体にと、自らが築いた財産を思い入れのあるところに託したいという人たちがいます。山北理事は「遺贈先で多いのは生前に応援していた団体などです」と話します。

一方で、どこに遺贈したらよいのかと迷っている人も少なくないといい、全国レガシーギフト協会には「寄付先を教えてほしい」という相談が多く寄せられます。遺贈希望者には遺産の受け取り手となる団体の情報提供を行い、両者をつなぐ役割を担っています。また、全国16団体に遺贈の相談窓口を設けたり、寄付する上で注意すべき点が多い法律や税務に詳しい専門家と連携したりして遺贈希望者をサポートしています。

「遺贈先の団体の推薦はしません」(山北理事)といい、生きた証ともいえる「財産」をどうしたいのかを最終的に決めるのはご自身です。

(記事は2019年9月1日時点の情報に基づいています)