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1. 公正証書遺言とは? 公正証書をつくっても「もめる」のはなぜ?
公正証書遺言とは、証人2人以上の立会いのもと、公証人が遺言者の意思を確認しながら作成する遺言書です。遺言者が自書する自筆証書遺言とは異なり、形式不備で無効になるリスクが低く、公証役場に原本が保管されるため偽造や紛失の心配もありません。遺言書の中でも最も信頼性が高い形式とされています。
しかし、公正証書遺言を作成したからといって、相続トラブルが完全に防げるわけではありません。遺言書が有効かどうかをめぐる争いに発展するケースや、遺言の内容が特定の相続人の権利を侵害しているケース、遺言に書かれていない財産をめぐって協議が長引くケースなど、「公正証書遺言があるのにもめる」事態は珍しくありません。
遺言の内容や作成時の状況、相続人同士の事情によっては、公正証書遺言がかえって争いの火種になることもあります。
2. 公正証書遺言でもめやすいケース7選
公正証書遺言は法的な信頼性が高く、相続トラブルを防ぐ効果が期待できます。しかし、遺言の内容や家族関係によっては、相続人同士の対立や遺留分請求、遺言無効の争いに発展することがあります。
公正証書遺言があっても相続でもめやすい代表的な7つのケースを紹介します。
- 特定の相続人に財産を集中させている
- 生前贈与や介護の負担(寄与分)が考慮されていない
- 生前に口頭で聞いていた内容と大きく違う
- 再婚家庭で前妻・前夫の子どもがいる
- 生前に認知症になっており、遺言作成時の「判断能力」に疑問がある
- 遺言書に記載がない財産が見つかった
- 相続税への配慮がなく、節税の特例が使えない
2-1. 特定の相続人に財産を集中させている
「全財産を妻に相続させる」というように、特定の相続人に財産を集中させる内容の遺言は、遺留分を侵害している可能性があります。遺留分とは、一定の相続人(亡くなった人の配偶者・子・親などの直系尊属)に法律上保障された最低限の取り分のことです。なお、被相続人(亡くなった人)の兄弟姉妹には遺留分はありません。
遺言書に法的効力があっても、遺留分を侵害された相続人は「遺留分侵害額請求権」を行使して金銭の支払いを求めることができます。
たとえば、被相続人に妻と2人の子がいる場合、子の遺留分は法定相続分(各4分の1)のさらに2分の1、つまり全財産の8分の1ずつとなります。したがって、遺言書に「全財産を妻に相続させる」と書かれていた場合でも、2人の子はそれぞれ全財産の8分の1の取り分を主張できます。
遺言書があることで問題が解決するどころか、遺留分侵害額請求をめぐって争いが長期化するケースは多くあります。
なお、公証人が遺留分侵害によるトラブルの可能性を指摘してくれることもありますが、個別の状況によるため、必ずしも注意喚起があるとは限りません。
2-2. 生前贈与や介護の負担(寄与分)が考慮されていない
被相続人の生前に、特定の相続人が多額の生前贈与を受けていた場合や、長期間にわたって介護や生活支援を担っていた場合に、遺言書がその事実を反映していないとトラブルになりやすいです。
生前贈与を受けた相続人がいる場合、その贈与は「特別受益」として相続財産に持ち戻したうえで遺産分割を行います。また、介護など財産の維持・増加に貢献した場合は「寄与分」として評価され、法定相続分よりも多くの遺産を受け取れる可能性があります。
遺言書がこれらを無視した内容であると、相続人から不公平だという主張が出やすく、話し合いが長引く原因になります。
2-3. 生前に口頭で聞いていた内容と大きく違う
「自分には家を残してくれると聞いていた」「事業は自分が継ぐ約束だった」など、被相続人が生前に相続人に対して口頭で伝えていた内容と、実際の遺言書の記載が大きく異なるケースでもトラブルになりやすいです。
法的には遺言書の記載内容が優先されますが、「信じていたのに裏切られた」という感情的な反発が強く、他の相続人との関係が破綻することもあります。
口頭での約束に法的拘束力はないものの、感情的なもつれが調停や訴訟に発展するきっかけになることは少なくありません。
2-4. 再婚家庭で前妻・前夫の子どもがいる
被相続人が再婚しており、前婚で生まれた子どもがいる場合、その子どもも法定相続人に含まれます。遺言書で現在の配偶者や現在の家庭の子どもに財産を集中させると、前婚の子どもの遺留分を侵害することになります。
前婚の子どもと現在の家庭との間にはもともと交流がない場合も多く、遺留分侵害額請求をきっかけに感情的な対立が生じやすい構図です。また、被相続人が「前婚の子どもの存在を現在の家族に伝えていなかった」という場合には、相続が発生することで初めて存在が明らかになり、混乱を招くこともあります。
2-5. 生前に認知症になっており、遺言作成時の「判断能力」に疑問がある
遺言を作成するには「遺言能力」、すなわち遺言の内容や効果を理解できるだけの判断能力が必要です。
遺言作成時に認知症を患っていたことが疑われる場合、一部の相続人が「遺言を作成した当時、判断能力がなかったはずだ」として遺言の無効を主張することがあります。公正証書遺言であっても公証人が遺言能力を法的に保証するわけではなく、争いになった場合は当時の診断書・カルテ・介護記録などが証拠として争点になります。
認知症の診断を受けた後に作成された遺言書は、特にトラブルになりやすいケースです。
2-6. 遺言書に記載がない財産が見つかった
遺言書に記載されていない財産が相続発生後に見つかった場合、その財産については相続人全員で話し合い(遺産分割協議)をして分け方を決める必要があります。協議がまとまらなければ調停・審判に移行することもあります。
こうした事態を防ぐには、遺言書に「この遺言書に記載のない財産については〇〇に相続させる」といった包括条項を設けておくことが有効です。自分の財産を十分に把握しないまま遺言書を作成すると、遺言書があるにもかかわらず別途の協議が必要になり、トラブルのリスクが残ります。
2-7. 相続税への配慮がなく、節税の特例が使えない
遺言書の内容によっては、本来利用できたはずの相続税の特例が使えなくなり、相続人の税負担が大きくなることがあります。
たとえば「小規模宅地等の特例」は、自宅の土地を配偶者や同居していた親族が相続した場合などに、その土地の評価額を最大80%減額できる制度です。しかし、遺言書で別の相続人にその土地を相続させる内容になっていると、この特例が適用できなくなることがあります。
その結果、想定よりも高額な相続税が発生し、「もっと税金が少なくなる分け方があったのではないか」と相続人の不満につながるケースもあります。遺言書を作成する際は、財産の分け方だけでなく、相続税への影響も考慮することが大切です。
3. 【相続人向け】 公正証書遺言でもめた場合の対処法
公正証書遺言があっても、その内容に納得できなかったり、遺言の有効性に疑問があったりする場合は、適切な対応を検討する必要があります。
ここでは、公正証書遺言でもめた場合の対処法を紹介します。
3-1. 遺言書の内容や有効性を確認する
まず、遺言書の全文を確認し、財産の分け方・遺言執行者の指定・付言事項など記載内容を正確に把握します。あわせて、作成日時・証人の署名・公証人の記名押印など形式面の確認も必要です。
遺言作成時に遺言者の判断能力に問題があったと疑われる場合は、当時の診断書・介護記録・カルテなどを収集し、有効性を争う根拠があるかどうかを検討します。
3-2. 相続人同士で話し合いを行う|合意があれば遺言と異なる分け方ができる
法的に有効な遺言書があっても、相続人全員が合意すれば遺言書の内容と異なる分け方をすることは可能です。遺言書を最終的な結論として受け入れるのではなく、全員が納得できる内容で合意できるかどうかを話し合うことが、解決への第一歩になります。
ただし、感情的な対立が深い場合や、当事者だけでは合意形成が難しい場合は、弁護士が代理人として交渉を行うことで、冷静な協議が進みやすくなります。
3-3. 遺留分侵害額請求を検討する
遺言書の内容が自分の遺留分を侵害している場合、遺留分侵害額請求権を行使して、侵害された額に相当する金銭の支払いを求めることができます。この権利には期限があり、「相続の開始および遺留分を侵害する遺贈等があったことを知ったときから1年以内」または「相続開始から10年以内」に行使しなければなりません。
まずは内容証明郵便で遺留分侵害額請求の意思を示し、相手が任意に支払いに応じない場合は、家庭裁判所への調停申立て、または地方裁判所への訴訟提起を検討します。
3-4. 判断能力に疑いがある場合は「遺言無効確認調停・訴訟」を起こす
遺言作成時の判断能力に問題があったと考えられる場合や、遺言の形式・手続きに不備があると疑われる場合には、遺言の無効を主張する法的手続きを取ることができます。
まず家庭裁判所に「遺言無効確認調停」を申し立て、調停での合意が成立しない場合は地方裁判所での「遺言無効確認訴訟」に移行します。
遺言の無効が認められた場合は、遺言書のない状態で法定相続分に従った遺産分割を行うことになります。立証は容易ではなく、医療記録や当時の状況を示す証拠の収集が重要になります。
3-5. 弁護士へ相談・依頼する
相続トラブルが発生した場合、早期に弁護士へ相談することが解決への近道です。弁護士は遺言書の有効性の判断、遺留分侵害額の計算、交渉・調停・訴訟の代理など、幅広い場面でサポートを行います。
相続人同士で直接交渉することが感情的に難しい場合でも、弁護士が間に入ることで冷静な話し合いが進みやすくなります。費用や手続きについて、まずは初回相談を利用して見通しを確認することをお勧めします。
4. もめない公正証書遺言を作成するポイント
公正証書遺言は相続トラブルの予防に有効ですが、作成方法によってはかえって争いの原因になることもあります。相続人が納得しやすい遺言にするためには、遺留分への配慮や財産の明確な記載など、いくつかのポイントを押さえておくことが重要です。
4-1. 遺留分に配慮した内容にする
特定の相続人を優遇する内容であっても、他の相続人の遺留分を侵害しないよう配慮することが、トラブル防止の基本です。遺留分を侵害した場合、遺言書が有効であっても遺留分侵害額請求が行われる可能性があります。
どうしても遺留分を侵害せざるを得ない場合は、その理由を付言事項(後述)として記載し、感情的な反発を和らげる工夫が重要です。また、生命保険の受取人指定を活用する方法もあります。多くの財産を相続する人が、他の相続人から遺留分侵害額を請求された際に支払うための金銭(代償金)を、生命保険金や不動産の売却資金などで準備しておくことなどが考えられます。
4-2. 財産の分け方や割合を明確に記載する
「財産の一部を長男に相続させる」といった曖昧な記載は、解釈をめぐる争いの原因になります。不動産については所在地・地番・家屋番号まで正確に記載し、預貯金は金融機関名・支店名・口座番号まで特定することが重要です。
また、遺言作成後に新たに取得した財産や、記載漏れがあった財産について争いが生じないよう「この遺言書に記載のない財産はすべて〇〇に相続させる」という包括条項を設けておくと安心です。
4-3. 遺言を作成した理由や想いを残しておく(付言事項)
遺言書には法的効力を持つ「遺言事項」のほかに、「付言事項」として遺言者のメッセージを記載することができます。
「次男家族には長年にわたって支えてもらったことへの感謝の気持ちを込めて、多めに財産を渡したい」「長男にはこれまでの贈与があったため、遺産の取り分が少なくなることを理解してほしい」など、分け方の理由や家族への思いを言葉にして残すことで、遺言書に対する感情的な反発を和らげる効果が期待できます。
付言事項に法的拘束力はありませんが、遺族の納得感を高めるうえで重要な役割を果たします。
4-4. 遺言の内容を確実に実行する「遺言執行者」を指定する
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続き(不動産の名義変更、金融機関での払戻しなど)を行う権限を持つ人です。遺言執行者を指定しておかないと、相続人全員の協力が必要になり、手続きが滞る原因になります。
弁護士などの専門家を遺言執行者に指定することで、相続人同士の感情的な対立に左右されず、遺言内容を円滑に実行することができます。
4-5. 定期的に遺言内容を見直す
家族構成の変化(子どもの結婚・離婚・死亡など)、財産状況の変化(不動産の売却・新たな取得など)、法改正などによって、作成時の遺言内容が実情に合わなくなることがあります。公正証書遺言は、新たに遺言を作成することで撤回・変更が可能です。
作成日の新しい遺言が優先されるため、定期的に内容を見直し、必要に応じて書き直すことが、遺言者の意思を正確に実現するうえで重要です。
5. 公正証書遺言の作成の流れ
公正証書遺言は、公証人の関与のもとで作成するため、自筆証書遺言よりも手続きが複雑です。とはいえ、作成手順はそれほど難しくありません。一般的には、次のような手順で作成を進めます。
【① 遺言の内容を整理する】
誰にどの財産を相続させるのかを整理し、希望する遺言内容をまとめます。
【② 公証役場へ相談・予約する】
最寄りの公証役場に連絡し、公証人との相談日を予約します。
【③ 公証人と遺言内容の打ち合わせをする】
遺言の内容や財産の状況を公証人に説明し、公正証書遺言の案を作成してもらいます。
【④ 必要書類を準備・提出する】
戸籍謄本や印鑑登録証明書、不動産の登記事項証明書など、必要な書類を提出します。
【⑤ 証人2名を準備する】
公正証書遺言には証人2名が必要です。証人は知人にお願いするほか、専門家に依頼することもできます。推定相続人や受遺者(遺言によって贈与を受ける人)、未成年者などは証人になれません。
【⑥ 公証役場で遺言書を作成する】
予約日に公証役場へ出向き、公証人が遺言内容を確認します。内容に問題がなければ、遺言者・証人・公証人が署名押印して完成です。
【⑦ 正本・謄本を受け取り、原本は公証役場で保管される】
作成後、遺言者には正本と謄本が交付され、原本は公証役場で保管されます。
なお、公正証書遺言の制度はデジタル化が進められており、一部の手続きについてはオンライン対応が可能となっています。最新の運用状況については、公証役場や専門家に確認するとよいでしょう。
6. 公正証書遺言でめもる、に関してよくある質問
Q. 公正証書遺言の撤回や書き直しはできる?
いつでも撤回や書き直しが可能です。新たに遺言を作成することで、以前の遺言を全部または一部撤回することができます。作成日の新しい遺言が優先されます。公正証書遺言で作成し直すのが安心ですが、自筆証書遺言で撤回することも可能です。
Q. 公正証書遺言を書き直したが、新しい遺言が無効だった場合、古い遺言には効力がある?
新しい遺言が無効であれば、古い遺言はそのまま有効です。新しい遺言によって撤回の効力が生じるのは、新しい遺言が有効に成立している場合に限られます。
Q. 公正証書遺言と遺留分はどちらが優先される?
公正証書遺言があっても、遺留分を侵害された相続人は遺留分侵害額請求権を行使できます。もっとも、公正証書遺言が直ちに無効になるわけではなく、遺言自体は原則として有効です。
そのため、遺留分を侵害する内容の公正証書遺言があった場合は、まず遺言の内容が効力を持ち、その上で、遺留分を侵害された相続人が権利を行使したときに限り、侵害額に相当する金銭の支払いを求めることができます。
7. まとめ 公正証書遺言があっても相続トラブルを防ぐ工夫が重要
公正証書遺言は法的な信頼性が高い遺言書ですが、遺留分の侵害や相続人間の不公平感、遺言能力への疑問などから相続争いに発展することがあります。特に再婚家庭や生前贈与があるケースでは注意が必要です。
相続人としては、まず遺言書の内容や有効性を確認し、必要に応じて遺留分侵害額請求や遺言無効確認調停の手続きを検討しましょう。また、遺言を作成する側は、遺留分への配慮や付言事項の活用、定期的な見直しを行うことで、将来の相続トラブルを未然に防ぎやすくなります。
弁護士に相談すれば、将来のトラブルを見据えた遺言内容のアドバイスを受けられます。また、すでにトラブルが発生している場合には、交渉・調停・訴訟の代理など幅広いサポートにより早期解決をめざせます。相続トラブルの予防や解決をしたいのであれば、早い段階で弁護士に相談しましょう。
(記事は2026年7月1日時点の情報に基づいています)
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