目次

  1. 2024年4月から相続登記が義務づけられたこと、ご存じですか?
  2. 相続した不動産の登記が後回しにされがちな理由
  3. 相続登記が義務化された理由は?
    1. 過去に相続した不動産も対象に
  4. 相続人がなんと72人に!実際にあった事例
  5. 「死んでも判を押さない」という相続人も
  6. 不動産を取得すれば遺言書は必須です

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60代男性から、こんな質問をいただきました。

田舎で暮らす親が亡くなって実家を相続することになりました。自分は家を持っているし、田舎に帰るつもりはありません。不動産会社に相談してみたら、なかなか買い手も見つかりそうにないようです。相続の登記をするのも費用ってかかりますよね?登記しなくても特に問題ないようなら、ただお金がかかるだけなので、このまましばらく放置しておこうと思っています。この考えって間違っていますか?

親御さんのお家を相続されて、登記(不動産の名義変更)するかどうか悩んでいらっしゃるのですね。

実は2024年4月から、相続登記が義務化されたんです。これからは登記をしなければ、10万円以下の過料を科される可能性があります。

また、放置すると手続きがどんどん複雑になって大変な思いをするおそれもあります。親御さんのお家など大切な不動産を相続された場合は、早めに登記手続きを済ませることが非常に重要です。

そもそも登記は、申請主義というルールがとられています。これは「自分がこの不動産の名義人である」と第三者に主張したければ自分で登記申請してくださいね、という意味です。つまり、登記するかどうかは本人の意思に任せるというルールでした。

しかし、相続登記については相続人の意思に任せていると、今回の相談者のように考えて、登記を放置する人がたくさんいました。義務化されたことで、このような考え方は通用しなくなります。

【関連】相続登記の義務化とは【4月開始】 罰則から過去の相続分の扱いまでわかりやすく解説

相続登記がこれまで放置されてきた理由、そして国が相続登記を義務化した理由を詳しく説明します。

家を購入する際には、金融機関(銀行など)からローンを組むことが一般的です。金融機関はお金を貸す際に、抵当権(住宅ローンの支払いができなくなったとき、その家と土地を取り上げることができる権利)を設定するため、必ず借り手にその不動産に登記するよう求めます。そのため、購入した不動産の登記がされないことはまずありません。

しかし、相続で取得した不動産は状況が違います。売却する予定の無い相続不動産については、

・ すでに住んでいて生活に支障はないので、わざわざ登記する必要性を感じない
・ 登記には司法書士への依頼費や登録免許税がかかるため、後回しにしてしまう
・ 近くに司法書士がいないので、手続きが面倒に感じる
・ 売る予定がないから登記しなくても問題ないと思っている
・ 相続登記しなくてもこれといったペナルティがない

ために、相続登記をしないまま放置してしまうケースが多くありました。

では、なぜ国は相続登記を義務化したのでしょうか。

日本は超少子高齢社会。親と同居する世帯も減り、子どもたちが独自に家を構えると、親が住んでいた家は必然的に空き家になります。

空き家を売却しようとすると自分が所有者であることを証明するために相続登記をする必要があります。しかし、売却できる不動産であればいいのですが、特に地方では、なかなか難しい物件もあります。そうなるとわざわざ登記費用を払ってまで、売れない家に相続登記だけをする必要性を感じなかったのでしょう。

ところが、登記というのはその不動産の持ち主が誰かということをすぐに把握できるようにするという機能もあります。相続されても登記されない不動産が増え続けた結果、気がつけば日本の国土のうち、いわゆる「持ち主不明」の土地が、なんと九州と同じ面積くらいになってしまいました。持ち主が不明だと、震災等での再開発やインフラ工事の際に誰に連絡を取っていいのか分かりません。所有者に無断で工事することはできないため、そうした行政の公共事業や民間企業の事業活動が頓挫してしまいます。

そのような理由で長年「申請主義」で相続した人の意思に任されていた不動産登記が、2024年4月1日から相続登記については義務化されることになりました。

なお、相続登記が義務化されるのは、2024年4月以降に相続した不動産だけではありません。それ以前に相続したものも対象となり、放置すれば過料が科せられる恐れがあるため注意が必要です。

もし、不動産を引き継ぐ人を明記した遺言書があれば、その人が相続登記をしないといけません。一方で遺言書がなければ、法定相続して現在の相続人全員で共有するか、相続人全員で遺産分割協議をして誰の所有とするかを決めなければなりません。

自分は関係ないなんて思わず、改めて現状を確認していただければと思います。

私が関わった中で、2011年に大変な思いをされた売主さんがいます。

夫が亡くなり、住んでいる家を売却したいと不動産会社からご相談を受けました。資料を調べていくと、土地と建物に加え土地に面した私道の一部についても所有権があることがわかりました。

ところが土地と建物はきちんと夫名義だったのに、この私道の持分の所有権が相続登記されていなかったのです。驚くことに、亡くなられた夫の曽祖父の名義のままになっていました。私道の持分がなければ、道路までの利用する権利がないため、買主の融資の承認がおりないでしょう。早急に、私道の持分についても相続登記が必要でした。

亡くなられた夫の曽祖父名義のままということは、義曽祖父の時、義祖父、義父の時と計3回の相続手続きの中で登記が漏れていたことになります。このご夫婦にはお子さんはおらず、夫は8人兄弟。さかのぼって、曽祖父からの相続人全員との分割協議が必要になってしまいました。しかも曽祖父は明治生まれ。この段階で、私は絶望感にさいなまれました。子沢山な時代だったからです。

戸籍を追っていくこと、3ヶ月ちょっと。その時点での相続人全員が、特定されました。その人数、なんと72名。最終的に依頼者が自己名義にするためには、依頼者はこの72人全員から同意を得て、なおかつ遺産分割協議書に実印の押印と印鑑証明書をもらう必要があります。

さらに調査を進めていくと、住民登録が職権消除(居住の実態が無い等の理由で削除)されている人が3名います。また住民登録はあるものの、郵便物が返送されてきてしまう人もいます。ご兄弟も何年も連絡を取っていないとのこと。誰も行方は知らないようでした。連絡がとれないということは、依頼者が不在者財産管理人(本人に代わって財産を管理する権限を裁判所から与えられた人)を選任するよう裁判所に申立てをしなきゃいけないのか……と気が遠くなります。

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相続人の中には「いろいろとお世話したのに、私たちはないがしろにされた。死んでも判を押さない」と言う人までいました。当時はまだ相続登記は義務化されておらず、永遠と曽祖父名義の責任を、数多くの親族が引き継いでいくことになるリスクがありました。相続というものは、長年の感情が大きく左右するのだなと改めて感じたものです。

ご高齢で意思が確認できない方もいました。それぞれ成年後見制度は利用されていなかったので、遺産分割協議をするためには後見人の選任申立てをしてもらう必要があります。またそうなった場合、不在者財産管理人も同様ですが、法定後見人は被後見人の財産を守るため、タダで財産を他人に譲ることはしないのが原則なので、道路のわずかな持分の所有権とはいえ依頼者が所有権を無償で取得するのは厳しそうです。

依頼者と相続人との話し合いでは解決できる見込みはなく、こうなってしまうと法的手続きを取ってもらうしか前に進めません。それも人数が多いため、何年かかるか分かりません。日々の生活にも支障が出始めた76歳の依頼者の「売却してすぐに高齢者施設に入所したい」という希望に間に合わない可能性もあります。

この時は、私道の共有者の一人から持分の譲渡の同意を得ることができました。この結果、依頼者は私道の一部ですが持分を得ることができたため、自宅を無事に売却することができました。

あれから13年以上が経ちました。依頼者の希望は叶えられたものの、あの残された共有名義はどうなっているのだろう……。司法書士として、いつも頭の片隅にモヤモヤとしたものが残されています。これを書くに当たって、登記情報を取得してみたら、やはり相続登記はなされていませんでした。

当時、半数以上が高齢者でした。今となれば、分割協議すべき相続人はもっと増えているでしょう。当然ではありますが、相続登記が義務化された現在では、この私道道路の持分も相続登記の対象なので、放置すれば過料の対象になります。

結局のところ、不動産は形がある故、羊羹のように切り分けて相続人に配るということができません。不動産を取得した人は、遺言書は必須です。遺言書は「ある程度歳をとってから」と思われがちですが、そうではありません。不動産取得と遺言書は、セットです。

子供がいない夫婦の場合には、遺言書がなければ遺された配偶者は、義理の親や義理の兄弟姉妹と遺産分割協議をしなければなりません。大切な人が亡くなったというだけでも悲しく辛い中、そのようなストレスフルな協議は遺された者にとってあまりに酷というものでしょう。

遺産分割協議はお金が絡むことに加え、感情的な対立が生じて紛糾することもあります。自分の死後に不動産を誰が相続するかを明記した遺言書はそうしたトラブルを極力減らしてくれます。

遺言書の内容は本人が後から何度でも変更できます。子供達が成人したり、家族の状況が変われば、また作り直せば良いことです。遺言書は人生の節目節目で財産を見直し、自身の生き様を考えるためのものです。だからこそ「1回作ったから終了!」ではなく、その後の見直しも必要です。

そしてできれば作成は、プロに依頼をして欲しいと思います。思いのほか、今回のように大切なことが抜け落ちていることもあります。普段使っている「あげる」「譲る」という言葉も、相続なのか遺贈なのか疑義が生じ、意図したものと違う結果になることもあり得ます。自分で気がついていないことも、プロはアドバイスしてくれるでしょう。

不動産を取得したら、家族を悲しませないために遺言書を必ず書く。

同時に、これ以上日本の国土に所有者不明土地を増やさないためにも、ひとりひとりの心がけをお願いしたいと思います。

(記事は2025年2月1日現在の情報に基づいています。質問は司法書士の実際の体験に基づいた創作です)

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