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相続の手続き依頼のタイミングは四十九日が目安

――相続の専門家というと、司法書士のほか弁護士や税理士などがいますが、どんな場合に司法書士に相談すればいいでしょうか?

相続が発生して最初に気になるのは相続税でしょう。申告の期限は相続開始から10カ月と短いので、相続税の基礎控除額を超える財産を残されて亡くなったのであれば、税理士を入り口にするのが一番いいのかと思います。

また、相続人同士で折り合いが悪く、紛争が予想されるのであれば、最初から弁護士に相談した方がいいと思います。相続で紛争があった場合、代理人として他の相続人と交渉できる士業は弁護士だけだからです。

遺産は基礎控除内で、紛争の心配もないならば、司法書士がいいでしょう。戸籍集めや遺産分割協議書の作成など、ご遺族の話を聞き、相続手続きの道筋を立てながら伴走することができます。

――どんなタイミングで専門家に相談するのがいいでしょうか?

相続税の申告がありそうならば、なるべく早めにスタートを切った方がいいと思います。もし申告がなさそうであれば、目安としては四十九日の法要が終わったあたりがいいのではないでしょうか。

大切なご家族が亡くなった直後に、「実家は誰が引き継ぐのか」とか「名義変更はどうする」みたいなことを相続人同士で話すのはかなりのストレスです。何より、故人をしのぶ期間は必要でしょう。四十九日が済んだあたりで、相続人の全員で話し合って、相続の方向性を決めるというのが一番いいタイミングだと思います。

――逆に、相続税申告がありそうな人たちは、少しでも早く相談したほうがいいということですね?

相続税がどれだけかかるかによって、状況も大きく変わってきます。たとえば、相続財産が不動産ばかりのケースでは、すぐに現金化できないことも考えられますし、そうなると納税資金を相続人が自分の財布から出さなければいけないということもあり得ます。このため、相続税がかかりそうな場合は、できるだけ早く税理士に相談して、まずはざっくり税金がいくらかかるかを試算してもらった上で、細かい話をしていくのがいいと思います。

一方で、亡くなった人に借金がたくさんありそうな場合、相続放棄の申述は3カ月以内と短いので、四十九日は待っていられません。一刻も早く信用調査機関に照会をかけて、どこにどれぐらいの借金があるのかを把握し、明らかにマイナスが多いのであれば、すぐに相続放棄の手続きを進めるのがいいと思います。司法書士に相談するのもいいですし、もちろん弁護士でもかまいません。

「相続手続き全般を一から十まで担う遺産承継業務にも力を入れています」と話す司法書士の細井勇樹さん。
「相続手続き全般を一から十まで担う遺産承継業務にも力を入れています」と話す司法書士の細井勇樹さん

手間のかかる相続登記手続きは司法書士に依頼した方が確実

――相続した不動産の名義変更(相続登記)は、司法書士が担う代表的な業務の一つですが、自分でやってみようという人もいるかと思います。自分でやることのメリットやデメリット、司法書士に頼んだ方がいい場合などを教えてください。

相続人の人数も少なく権利関係が複雑でないケースであれば、ご自身でも可能かと思います。ただ、戸籍集めだけで挫折してしまう人も少なくありません。遠方の役所から郵送で戸籍を取り寄せてみたら、別のところに転籍していて、「もうそこで心が折れました」と相談に来る方もいます。だいたい、配偶者の結婚前の本籍がどこにあったかは、生きているときにあまり意識されませんよね。

申請書の書き方にも細かいルールがあり、その通りに書かれていないと訂正が必要になってしまいます。いまはネットで相続登記のやり方が解説されていますが、実務で必要とされている細かいルールの説明までは書いてありません。ネットを見て「簡単にできそうだ」とやってみたけれど、実際は違ったということになりかねません。

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さらに、登記する物件が漏れてしまうことがよくあります。たとえば、実家の前面の道路が私道で、周りに住む人たちでその土地の持分を持ち合っている場合や、分譲住宅地のごみ置き場などの共用スペースを近隣住民で持ち合っている場合などがあります。道路や面積の小さい共有スペースは固定資産税が非課税になっていることが多いので、毎年役所から送られてくる課税明細書にも載っていません。こうしたケースでは、相続の際に共有持分を忘れてしまっていたり、そもそも知らなかったりして、共有持分を漏らして相続登記してしまうということが少なくありません。

相続した実家を売却したり建て替えたりするときに、私道の持分について相続登記が漏れていることが発覚した場合には、契約の前提として相続登記を済ませるように求められるでしょう。そうなると、もう何年も前に終わらせて一安心と思っていた手続きをやり直すことになり、場合によっては、遺産分割協議をもう一度やらなくてはいけないということにもなりかねません。ほかの相続人と連絡が取りづらく、結局売却や建て替えができないということになるかもしれません。

相続登記にかかる手間や時間だけでなく登記漏れなどのリスクを考えると、費用は多少かかっても、司法書士に依頼した方が確実だと言えます。

相続登記義務化を前に課税明細書や権利証で確認を

――2024年4月から相続登記の義務化が始まります。義務化が始まる前に、不動産を持っている人がやっておいた方がいいことはありますか?

まずは所有する不動産を把握し、権利関係を確認しておく必要があります。固定資産税の課税明細書や権利証(登記済証)で物件を特定して登記簿(登記事項証明書)を取得するといいでしょう。もしかしたら、長い間相続登記がされずに祖父や曽祖父の名義のままになっているかもしれません。

自宅とは別に遠方の山林や原野を所有している場合には注意が必要です。こうした土地は固定資産税が発生せず、課税明細書にも載らないということが多い。権利証もなくしてしまっていると、その土地を持っていることを知っているのは買った本人だけという状態になります。このような場合に、その本人が亡くなってしまうと、その土地は相続登記もされずに、いずれは所有者不明土地になってしまいます。

所有者不明土地が公共事業の妨げになったり、相続登記もされないまま長年放置され老朽化した家屋が近隣に危険を及ぼしたりしたことが社会的問題となり、相続登記義務化につながったという背景があります。

――相続登記義務化が始まった後、相続登記しないとペナルティーがあるんでしょうか?

相続によって不動産を取得した相続人が3年間以内に正当な理由なく相続登記を行わないと10万円以下の過料が科せられます。ただ、「正当な理由」なく登記しなかった場合ということで、正当な理由が何にあたるのかについては、運用が始まってみないとはっきりしません。遺言や遺産について相続人間で争いがある場合や相続人の人数が多すぎて合意するのに長い時間を要する場合などが正当な理由になると思われます。そうなると実際に過料を科せられるのは限定的なケースになるのではないかと推測しています。

司法書士を選ぶポイントは、費用と専門性と相性

――司法書士を選ぶ際には、どんなことに重視すればいいでしょうか?

みなさんが最初に気になるのは、まずは費用でしょう。事務所ごとに報酬は違うので、サイトで確認したり見積もりをとったりしましょう。二つ目は専門性。相続関連の業務を中心に行っている事務所のほうが迅速に対応してくれるでしょう。最後はやはり相性です。無料相談などを利用してみて、どうしても話がかみ合わなかったり、高圧的な態度を取られたりということであれば、その司法書士への依頼はやめた方がいい。親身に話を聞いてくれる、気の合う司法書士を探してみましょう。

――遠方の実家の相続登記を司法書士に依頼したいという場合、実家の近くの司法書士に依頼するのがいいのでしょうか?

オンラインで全国どこの法務局にも登記申請できるので、ご自身の自宅に近い司法書士や、お知り合いの司法書士にお願いするのがいいでしょう。遠方の物件だからといって割増料金がかかることは、ほぼないと思います。

司法書士法人リーガル・フェイス

不動産登記業務を中心に、相続手続きや商業・法人登記業務サービスを新宿・横浜・さいたま・名古屋・大阪・福岡の6拠点で提供している。司法書士の在籍数は業界トップクラス。行政書士、土地家屋調査士、測量士及び宅建免許を持つ株式会社が同じグループ内に所属し、相続登記だけでなく測量や分筆登記、換価のための売却手続きなどがワンストップで対応可能。

(記事は2023年3月1日現在の情報に基づきます)

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