相続時精算課税制度の必要書類や手続きは? 【見本付き】申告方法から書き方、税理士費用まで解説
たとえば両親から住宅購入資金を援助してもらおうと考えている場合、相続時精算課税制度の利用も視野に入れましょう。2500万円まで贈与税を納めずに生前贈与を受けることができる仕組みで、2024年1月には年110万円までの贈与なら贈与税がかからない非課税枠が新たに追加されました。相続時精算課税制度の概要に加え、贈与税の申告書や相続時精算課税選択届出書の書き方などについて、税理士が解説します。
たとえば両親から住宅購入資金を援助してもらおうと考えている場合、相続時精算課税制度の利用も視野に入れましょう。2500万円まで贈与税を納めずに生前贈与を受けることができる仕組みで、2024年1月には年110万円までの贈与なら贈与税がかからない非課税枠が新たに追加されました。相続時精算課税制度の概要に加え、贈与税の申告書や相続時精算課税選択届出書の書き方などについて、税理士が解説します。
目次
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相続時精算課税制度とは、贈与者である60歳以上の父母または祖父母から、受贈者(贈与を受ける人)である18歳以上の子や孫に対して生前贈与をするとき、2500万円の特別控除を超える部分について一律20%の税率で贈与税を課税する仕組みに、年110万円の基礎控除が加わった制度です。贈与者が亡くなったときにその贈与をした財産(年110万円の基礎控除分を除く)を相続財産に加算して相続税を計算し、すでに支払った贈与税を差し引いて相続税を納める流れとなっています。
この相続時精算課税制度は、年110万円の贈与まで非課税、それを超えると贈与額に応じて10〜55%の累進課税が課される暦年課税制度のどちらかと選択することができますが、一度相続時精算課税制度を選択すると暦年課税制度に戻ることができないのが特徴です。なお、相続時精算課税制度とは異なり、暦年課税制度には贈与者にも受贈者にも年齢の制限はありません。
相続時精算課税制度を選択する場合は、最初に贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日(贈与税の申告期限)までに、受贈者が相続時精算課税選択届出書及び一定の書類を贈与税の申告書に添付して受贈者の住所地を管轄する税務署へ提出しなければなりません。
税務署への提出方法は、税務署の窓口に直接提出する方法、郵送で提出する方法、e-Taxによる電子申告で提出する方法があります。
相続時精算課税制度を選択する場合は、贈与税の申告書に以下の書類を添付して提出しなければなりません。
相続時精算課税による贈与を行った場合の申告書は第一表と第二表を作成します。なお、下記贈与税の申告書は2023年分までの贈与による申告書になります。2024年1月1日以降の相続時精算課税による贈与は年110万円の基礎控除が創設されるなど制度改正が行われたため、2024年分以降の贈与税の申告書の様式は変更される予定です。
2023年分までの贈与税の申告書は国税庁のホームページや税務署で入手することができます。「第一表」はこちらから、「第二表」はこちらからダウンロードすることが可能です。
贈与税の申告書 第一表の見本
贈与税の申告書 第一表の書き方
第一表は受贈者が贈与税の申告をする際に記入する書類です。
Ⓐ受贈者の住所地を管轄する税務署名を記入します。
Ⓑ贈与のあった年分を記入します。
Ⓒ受贈者の氏名、住所、生年月日などを記入します。
ⒹⅡは第二表で記入した金額を転記します。
ⒺⅢは暦年課税の贈与と相続時精算課税の贈与を合算して贈与税額を記入します。
贈与税の申告書 第二表の見本
贈与税の申告書 第一表の書き方
第二表は相続時精算課税の適用を受ける人が記入する申告書で、特定贈与者ごとに作成する必要があります。
Ⓐ贈与のあった年分を記入します。
Ⓑ受贈者の氏名を記入します。
Ⓒ相続時精算課税の特例で住宅取得等資金の贈与を受ける場合にチェックします。
Ⓓ贈与者の氏名、住所、生年月日、受贈者との続柄などを記入します。
Ⓔ贈与した財産の明細を記入します。
Ⓕ贈与を受けた年月日及び贈与を受けた財産の価額を記入します。
Ⓖ贈与を受けた財産の価額の合計額、特別控除(過去に特別控除がある場合にはすでに受けた特別控除の金額も記入)の明細、贈与税額を記入します。
Ⓗ受贈者について、過去に提出した相続時精算課税選択届出書に記載した住所と氏名が、過去に提出した贈与税の申告書に記載した住所と氏名と異なっている場合には、その年分の住所と氏名を記入します。
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相続の相談が出来る税理士を探す相続時精算課税制度の適用を受けようとする受贈者は、最初に贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に「相続時精算課税選択届出書」を受贈者の住所地を管轄する税務署へ提出しなければなりません。一度この届出書を提出すれば、その後同じ贈与者と受贈者間の贈与については再度提出する必要はありません。
なお、相続時精算課税選択届出書は国税庁のホームページや税務署で入手することができます。インターネット上ではこちらからダウンロードすることが可能です。
相続時精算課税選択届出書の見本
相続時精算課税選択届出書の書き方
受贈者の作成する相続時精算課税選択届出書は、一度提出すれば、その後同じ贈与者と受贈者間の贈与について再度提出する必要はありません。
Ⓐ受贈者の住所地を管轄する税務署名を記入します。
Ⓑ受贈者の氏名、住所、生年月日、贈与者との続柄などを記入します。
Ⓒ最初に相続時精算課税を選択する年を記入します。
Ⓓ贈与者の氏名、住所、生年月日を記入します。
Ⓔ年の途中で贈与者の推定相続人または孫となった場合は、その理由と推定相続人または孫となった年月日を記入します。該当しない場合は記入する必要はありません。
Ⓕ相続時精算課税選択届出書に添付する書類を準備してチェックをします。
受贈者の戸籍の謄本または抄本で次の内容を証明する書類を相続時精算課税選択届出書に添付して提出します。
なお、戸籍の謄本とは同じ戸籍内に記載されている全員の身分事項を証明するものを指します。また、戸籍の抄本とは同じ戸籍内に記載されている人のうち特定の個人の身分事項のみが記載され、それ以外の情報は省略したものを言います。
受贈者の氏名、生年月日
受贈者が18歳以上であるかなどを確認します。
受贈者が贈与者の直系卑属である推定相続人または孫であること
受贈者が贈与者の直系卑属にあたる子や孫であるかなどを確認します。なお、祖父母から孫への贈与の場合、受贈者の戸籍の謄本または抄本のみではお互いの関係が判断できない場合があります。そのときは父母または祖父母の戸籍の謄本または抄本も必要になる可能性があります。
戸籍の謄本や抄本の取得は下記の3つの方法で取得することができます。
方法1:本籍地がある市区町村役場の窓口で取得
本籍地がある市区町村役場の窓口で戸籍の謄本や抄本を取得することができます。なお、2024年3月1日に戸籍を管轄する法務省の戸籍情報連携システムを利用した「広域交付制度」が導入され、本籍地以外の市区町村役場の窓口から戸籍の謄本を取得することができるようになりました(戸籍の抄本は取得することができません)。本籍地が遠方にある人にとっては便利になりますが、戸籍の広域交付制度を通じて請求ができる人は本人に加え、配偶者や父母、子や孫に限定されており、委任状による請求や第三者による請求は対象外になります。
方法2:郵送で取得
市区町村役場の窓口に行く時間がなかったり、本籍地が遠方にあったりする場合は郵送で戸籍の謄本や抄本を取得することができます。郵送手続きは申請書、本人確認書類、手数料分の定額小為替、返信用封筒などの必要書類を事前に各市区町村のホームページなどで確認する必要があります。
方法3:コンビニで取得
戸籍の謄本や抄本は、コンビニ交付を導入している市区町村であればコンビニで取得することができます。ただし、全部の市区町村が導入しているわけではないため、導入の有無を事前に確認する必要があるでしょう。なお、マイナンバーカード(または住民基本台帳)またはスマホ用電子証明書を掲載済みのスマートフォンの準備が必要になります。コンビニ交付の取得方法については、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が運営するサイトの「本籍地の戸籍証明書取得方法」のページで確認することができます。
相続時精算課税制度は贈与者が亡くなった時点で贈与分を清算します。そして年110万円の基礎控除を除いた贈与分を相続財産に加算して相続税を計算します。すでに支払った贈与税が相続税より多い場合は差額が還付され、相続税のほうが多い場合は、すでに支払った贈与税を差し引いて差額を納付します。
相続時精算課税選択届出書を添付して贈与税の申告書を提出する場合、選択するための事前検討をしたり相続時精算課税選択届出書などの書類を作成したりするため、暦年課税による贈与税の申告書よりも手間がかかります。そのため費用が高くなる傾向があります。
事務所によって費用は異なるため、贈与税申告を税理士に依頼する場合はホームページや電話などで事前に費用を確認することをお勧めします。
相続時精算課税制度の制度改正に伴う提出書類の変更はないものの、基礎控除が創設されたことにより年110万円以下の贈与であれば、贈与税の申告書の提出は不要になりました。
ただし、最初に相続時精算課税制度を受けようとする年の贈与が110万円以下の場合は、贈与税の申告書の提出は不要ですが、相続時精算課税選択届出書及びその添付書類は贈与税の申告期限までに提出が必要になります。
相続時精算課税制度による贈与税の申告書及び相続時精算選択届出書の作成は、受贈者自身が作成しても難しくありません。
ただし、住宅取得等資金の贈与の非課税などの特例で相続時精算課税制度を適用する場合は、適用するための要件が細かく、かつ、贈与税の申告書に添付する書類が多いため、税理士に依頼したほうがスムーズに手続きを行うことができます。
また、相続時精算課税を一度選択すると暦年課税に戻ることができず、贈与者が亡くなったときに贈与財産を相続財産に加算する必要があるため、相続財産も考慮に入れて検討する必要があるなどという点で自身での対応は難しくなります。相続時精算課税を選択する場合は慎重な判断が必要になるため、判断に悩む場合は事前に専門家に相談したほうがよいでしょう。
相続時精算課税選択届出書を期限までに提出しないと相続時精算課税制度を選択したことになりません。そのため、暦年課税による贈与と判断されるため、相続時精算課税を希望する場合は、その提出期限までに必要書類を整えて提出する必要があります。
2024年1月1日以降は、1年間における110万円までの基礎控除の創設などで相続精算課税制度を選択したほうが有利になるケースが多くなる見込みです。
ただし、相続時精算課税制度は一度選択したら暦年課税制度に戻ることができない一面があり、手続きにも手間がかかります。そのため、届出書の提出前にどちらの制度が適切なのか、相続時精算課税制度を選択した場合にどの書類を準備すればよいかなど、専門家である税理士に相談することをお勧めします。
(記事は2024年5月1日時点の情報に基づいています)
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