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珍しい姓を引き継いでくれた娘の夫にも財産を渡したい

幹夫さん(63歳)は、妻と一人娘の麗華さん(28歳)の3人家族。数年前から体調を崩すことが増えてきました。そんな幹夫さんの楽しみは、2カ月後に控えた麗華さんの結婚式です。ただ、幹夫さんには一つだけ気がかりなことがありました。

幹夫さんは非常に珍しい姓を持っています。先祖代々の土地もあり、以前から自分の姓を後世に残したいと思っていました。しかし、麗華さん以外に姓を引き継ぐ人がいません。麗華さんもそんな幹夫さんの気持ちを尊重して姓を継承したいと考えています。

3週間後に結婚式が迫った自宅での食事会で、麗華さんは婚約者の圭吾さん(30歳)に切り出しました。

「圭吾さんが私の姓を選んで欲しいの」

2人のやり取りを聞いていた幹夫さんも、圭吾さんへ頭を下げて頼み込みました。

「珍しい名字を後世に残したいんだ。ぶしつけなお願いだと重々承知しているが、私たちのわがままを聞いてはもらえないだろうか」

圭吾さんは全く想定していなかった話に驚きますが、後日、両親とも話し合い、最終的には麗華さんの姓を選択することでまとまりました。幹夫さんは、圭吾さんが姓を引き継いでくれることを心から喜びました。

そして、無事に娘の結婚式も終わり、ホッと安堵した幹夫さんは自分の相続について考えるようになりました。

「妻と娘だけでなく、自分の姓を引き継いでくれた圭吾くんにも感謝の気持ちを込めて財産を渡せないだろうか」

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生命保険金の非課税枠を利用した節税をしない手はない

被相続人(亡くなった人)から財産を引き継いだ人が、被相続人が亡くなる直前3年間に贈与を受けた場合、相続税を計算する際に、その3年間に受け取った贈与財産を相続財産に持ち戻して計算するきまりがあります(2024年からは順次延長され、最長で7年の持ち戻しとなります)。

相続税の対策として、幹夫さんはこれまで麗華さんに毎年100万円前後ずつ、暦年贈与の基礎控除である110万円以内に収まる形で贈与してきました。しかし、現状の自分の体調を考えると、このまま麗華さんへ贈与を続けた場合、法定相続人となる麗華さんは相続財産を引き継ぐため、3年以内の持ち戻しが必要になるかもしれません。

一方、圭吾さんは、幹夫さんの姓に変更しただけで養子縁組はしていないため、法定相続人ではありません。そのため、幹夫さんから圭吾さんへ贈与をし、その後、幹夫さんに万が一のことが3年以内にあったとしても、相続財産への持ち戻しは不要となります。

幹夫さんは、圭吾さんと養子縁組をすることも考えてはいますが、結婚したばかりで孫も生まれておらず、今後どうなるか分かりません。姓を変更した上に、養子縁組までするとなると、圭吾さんのご両親は、圭吾さんを取られてしまったと思うのではないかと、養子縁組にはさすがに気が引けました。

そこで、自分の姓を引き継いでもらった感謝の気持ちも込めて、圭吾さんへ500万円という、高額の贈与をすることにしたのです。

厳しい夏の暑さも和らいだある日、幹夫さんはたまたま区役所の広報誌で見かけた相続税の対策セミナーに参加することにしました。そのセミナーで、生命保険金には「500万円×法定相続人の数」までは相続税がかからない非課税枠があることを知りました。預貯金として手元に置いておくよりも、生命保険金に形を変えて財産を渡す方が節税になります。幹夫さんは「これをやらない手はない」と考え、さっそく終身保険に加入し、受取人を麗華さんにすることにしました。

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「持ち戻し」に生命保険金を受け取った人も含まれると知らず

それから3年半が経過したある日、幹夫さんは亡くなりました。相続財産は東京23区内にある150坪の自宅をはじめ、経営をしていたアパートなど、相続財産額は4億円にも上るため、確実に相続税の申告が必要です。

相続税の申告をする場合、通常は現金や預貯金、不動産などの財産、借金や葬式費用などの債務をすべて洗い出し、過去5年分の通帳の入出金を確認します。このとき、幹夫さんが亡くなる直前3年にわたって合計3回、500万円ずつ圭吾さんへ贈与していることが見つかりましたが、贈与税の申告をしており、さらに圭吾さんは法定相続人でないため、相続財産に持ち戻す必要はないはずです。

しかし、なぜか相続税の申告を請け負った税理士は「圭吾さんが受け取った生前贈与1,500万円を相続財産に持ち戻す必要がある」と言います。「どうしてなのか?」と圭吾さんが尋ねると、圭吾さんが受取人となっている生命保険契約があるというのです。幹夫さんは、相続税の対策セミナーで聞いた情報をそのまま実践していました。麗華さんを受取人とする生命保険契約をした後、程なくして圭吾さんを受取人とする500万円の終身保険契約も結んでいたのです。

相続開始前3年以内の持ち戻しは、法定相続人に限ったものではありません。法定相続人でなくても、遺贈によって財産を取得したり、被相続人が亡くなったことによってみなし相続財産である生命保険金を受け取ったりした人も含まれます。幹夫さんは、そのことを知らなかったようでした。

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方法を間違うとかえって税金の負担を増やすことに

今回のケースでは、圭吾さんへの生前贈与1,500万円と生命保険金500万円(みなし相続財産)の合計2,000万円に相続税が課されます。圭吾さんは法定相続人ではないため、みなし相続財産の非課税枠の適用はなく、全額に相続税がかかることになります。さらに、被相続人の一親等の血族または配偶者に該当しないため、相続税の2割加算の対象にもなります。

これまでに納めた贈与税額159万円は、相続税666万円から控除することができますが、500万円以上も税負担が増えています。生前贈与も生命保険契約も、相続税の対策どころか、逆に納める税金が高くなってしまったのです。

一般的に「生前贈与をする」「生命保険契約をする」などの行為は相続税の対策になるといわれていますが、方法を間違うとかえって税金の負担を増やすことにもなりかねません。残念ながら、幹夫さんは生命保険契約をするのではなく、圭吾さんと養子縁組をした方が相続税の対策になったのです。

財産を相続人以外へ渡すときや家族関係が変わるときは注意

今回ご紹介した子どもの配偶者への贈与だけでなく、養子縁組していない孫への贈与や生命保険契約も、生前贈与においてご相談が多い内容です。3年以内の持ち戻しがないため、孫へ暦年贈与をしていたが、孫を生命保険の受取人にもしていて、孫が死亡保険金を受け取るといったケースです。3年以内の持ち戻しは法定相続人のみに生じるものではなく、相続や遺贈によって財産を取得した人が、相続開始前3年以内(2024年からは7年以内)に被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合です。一方、法定相続人であっても、相続や遺贈によって財産を取得しなければ、贈与財産を持ち戻す必要はありません。

財産を法定相続人以外の孫などへ渡すときや、家族関係が変わるときなどは、出来る限り税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

(物語は2023年10月1日現在の情報と税理士の実際の体験に基づいた創作です)

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