空き家相続で100人超の相続人がいたケースも

――近年増えている相続トラブルは。

突然、自治体から「倒壊の危険がある空き家の管理をしてほしい」「未払いの税金を払ってほしい」などと書面が届いたが、どうすればよいのかわからないという相談です。自治体は、管理者がわからない空き家は、戸籍などを調べて法律上の相続人に管理を依頼します。その結果、面識のない親戚の家にも関わらず、まわりまわって自分や高齢の親に連絡が来てしまうのです。自分が相続人であることすら知らなかった、まさに寝耳に水の事態ですが、誰にでも起こる可能性があります。

――このようなケースで弁護士に相談した場合、どのような対応をするのですか。

まず、相続人確定といって、戸籍を全て調べて誰が相続人なのかを洗い出します。また、不動産の処分には相続人全員の同意が必要なので、全員分の居場所を調べて印鑑を集める必要もあります。相続放棄をするにしても、次の相続人が見つかるまで管理責任は残るため注意が必要です。

相続人を調査した結果、自分と自分の兄弟だけというシンプルなケースであれば良いですが、不動産の所有者の死後、名義変更をしないまま法定相続人(=法律上の相続人)が亡くなり、新たな相続人が枝分かれして増加していることもあります。登記が3世代前の人の名義で長年放置されたままのケースでは、相続人が100人を超えていたことも私が担当したもので実際にありました。相続人の中に所在がわからない人がいる、所在はわかっていても高齢で認知症を患い手続きに参加するための意思能力に不安がある人がいることもあります。空き家の処分を話し合う前段である、「そもそも一体誰と誰との間で取り決めをすればよいのか」という第0段階から問題を解きほぐしていく必要があります。

――このような通知が来た際はどうすればいいのですか。

2024年から相続登記が義務化されます。違反すれば罰則のおそれがあり放置していると自分自身の責任になりかねません。届いた書面などを一読してもよくわからない場合、「面倒くさそう」「放っておいても大丈夫」と安直に判断せず、弁護士にご相談ください。

故人の不動産の評価方法については、不動産を相続する相続人(故人と同居していた親族が多い)と代償金を受け取る側の相続人とでは、当然利害が異なってくる。評価額を低く設定したい相続人と、高くしたい相続人。“争族”となる前に専門家である弁護士の力を借りて円満な着地点を見つけたい

不動産評価額の対立は「もし裁判所に持ち込んだら……」から考える

――相続は「争族」とも言われるように、揉めることが珍しくありません。弁護士が入ることでスムーズに解決に進んだケースを教えてください。

きょうだい間で揉めやすいポイントの一例が、不動産評価での対立です。不動産の価格の評価には、いわゆる「時価」のほかに路線価、固定資産税評価額など様々なものがあり、また、時価の求め方にしても不動産鑑定士による鑑定評価や、不動産業者による査定など、複数の方法が存在しています。

当然どの評価方法を採用するかによって有利・不利が分かれます。例えば、不動産を相続する長男はできる限り低い評価額にしたい一方で、不動産評価額に対応した分の代償金が欲しい次男としては、少しでも高い評価額にしたい・・という構図は、実際の相続でもよく起こります。

このようなケースでは、まず「そもそもどの方法や数字を基準とするか」という前提から争いがおきてしまいます。そしてその他の問題とも絡んでお互いに感情的になってしまった結果、話し合い全体が全く進まない状態になっているとしてご相談に来られるパターンが少なくありません。そこで、解決に向けて大きな威力を発揮するのが(逆説的ですが、裁判所までいかなくとも解決できるようにするためにこそ)「もし仮に、裁判所の手続きまで持ち込んだらどのような判断がなされるのか」という点から遡って考えるということです。

裁判所における調停や審判手続では、裁判所が自動的に「公平な金額」を提案してくれるわけではありません。お互いの評価方法や評価額に合意ができない場合は、裁判所が選任する不動産鑑定士に鑑定評価を依頼することになります。問題なのは、基本的に鑑定評価で示された時価の評価が“ほぼ絶対”となる一方で、結果として想定外の納得できない評価が出る可能性もあるということです。また当然、鑑定費用は当事者が支払わなければならず、評価対象となる不動産の数や状態によっては、鑑定費用だけで100万以上かかる事も珍しくありません。

つまり、高い鑑定費用を支払う必要があるうえに、自分の希望する評価額にはならない可能性があるということですが、「そこまでは知らなかった」と皆さん口にされます。実際問題として、そもそもお互いの主張している評価額の差が、想定される鑑定費用と大差ないというケースもあります。それならばと、複数の業者から査定を得てその平均値を採用したり、あるいは路線価は時価の8割、固定資産税評価額は7割を目安に設定されている事を踏まえ、それぞれ0.8や0.7で割り戻すことで算出した疑似的な時価で折り合うといった手法を探すほうが安価かつ楽だと気が付かれます。

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改めていうまでもないことですが、もともと裁判所での手続きや法律的な処理が全てというわけではなく、これらはあくまで解決方法の一つであり、考慮要素の一つに過ぎないということです。感情面も含めて争いが大きくなってしまう前に、できるだけ早い段階でご相談いただければ、「裁判所に持ち込んだらこうなる」ということも現実的な考慮要素として加えて頂くことができ、より合理的かつ前向きに話し合いをすることが出来るようになります。

「弁護士を入れる」というと、あたかも宣戦布告を意味するように捉える方もいらっしゃるようですが、私たち弁護士は決して争いを推奨するわけではありません。円満に着地するための解決法を提示し、演出することも弁護士の大事な役割だと考えています。

「遺産相続で家族で揉めないようにするためには、自分自身が元気で頭もはっきりしているうちに遺言書を作成しておくことが肝心です。また遺言書の内容やその前提となる考え方などについて家族で生前話し合っておけば、遺言書の解釈を巡って争いになることも防げます」という保坂弁護士

遺言書、信託などの生前対策の相談も弁護士へ

――帰省シーズンで家族と会う機会が増えますが、遺産相続について被相続人となる親が生前からしておくと良いことや、親子で話し合っておくべきことはありますか。

まず大前提として、自分自身がお元気で頭もはっきりしているうちに、遺言書を作っておくことをおすすめします。決して堅苦しく考える必要はなく、法律上必要とされている要件(全文自筆、作成日付、自書押印など)さえ守っていただければ、自筆証書遺言として自由なスタイルで書くことが可能ですし、便箋1枚に書くのでも構いません。もちろん何度でも新たに書き直すことができます。

その上で、可能であれば、遺言書の内容だけでなく、そこに込めた想いについて生きているうちに家族に伝えることも大きな意味があります。遺言の文字だけでは自分の想いを伝えきれず、その趣旨や解釈を巡って子どもたちが争いになってしまうこともあるからです。早めに遺言書を作成し、その上で自分の意図や前提になった考え方などもきちんと伝えることで、余計な紛争を予防することができます。

――生前対策の相談も多いのですか。

はい。弁護士というと、既に相続や紛争が発生している事件を扱うようなイメージもあるかもしれません。しかし私も含めて当事務所が重視しているのは、むしろ生前の対策です。具体的には、遺言書の文案作成というゴールだけでなく、遺産相続の最初の方針決定や相続対策の前提となる法的アドバイスをしたり、遺言よりも柔軟に財産承継ができる可能性を秘めたシステムである信託(家族信託)や、死後事務委任契約などの周辺対策のご提案をしています。ご本人の希望を可能な限り実現するためのお手伝いをさせていただいています。

【アルファ総合法律事務所】

所沢市(埼玉)と国分寺市(東京)にオフィスを構える。所属弁護士やスタッフ数は所沢市内では最大規模。相続人間で紛争になっている場合の調停や訴訟の対応だけでなく、相続人調査や遺産分割協議書の作成の支援、事業承継も含めた相続対策コンサルにも対応。代表弁護士の保坂光彦氏は税理士としても登録しており、税務面を踏まえたアドバイスも可能。

(記事は2022年12月1日現在の情報に基づきます)