目次

  1. 1. 遺産分割協議は相続人全員で行わなければならない
  2. 2. 音信不通や行方不明の相続人がいる場合の対処法
    1. 2-1. 住所や連絡先が分からない場合
    2. 2-2. 連絡しても応答してもらえない場合
    3. 2-3. 完全に行方不明の場合(不在者財産管理人の選任)
    4. 2-4. 長期間にわたって行方不明の場合(失踪宣告)
  3. 3. 不在者財産管理と失踪宣告、どちらを選ぶべき?
  4. 4. 相続人が行方不明でも相続登記できるケース
    1. 4-1. 遺言書がある場合
    2. 4-2. 法定相続分どおりに相続登記する場合
  5. 5. まとめ

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不動産に限らず相続財産の分配方法を決めるためには遺産分割協議が必要です。この遺産分割協議は法定相続人全員で行わなければならず、誰か一人でも欠けた状態で行われた協議は無効となります。相続登記においても法定相続人全員が署名(または記名)し実印にて捺印した遺産分割協議書と印鑑証明書の添付が必要です。

つまり、音信不通や行方不明の相続人がいる場合には遺産分割協議を行うことができず、特定の相続人が不動産を取得する相続登記も申請することができません。

音信不通や行方不明といってもその程度や背景は様々です。単に疎遠になっているだけの場合もありますし、ある日突然いなくなってしまい生死も分からないというケースもあるでしょう。以下、いくつかのパターンに分けて相続人が行方不明の場合の対処法を解説します。

疎遠になってしまった相続人の住所を調べる方法として、戸籍の附票の取得があります。戸籍の附票とは、本籍地の市区町村において戸籍と一緒に編成されるもので、その戸籍が作られてから現在に至るまでの住所が記録されています。法定相続人であれば他の法定相続人の戸籍の附票を取得することが可能なので、戸籍の附票で住所を調べて手紙を出すか、直接現地を訪ねてみるとよいでしょう。

また、親戚や共通の友人・知人などに連絡先を教えてもらったり、フェイスブックやインスタグラムなどのSNSで検索したりしてみるという方法もあります。

何かしらの理由で連絡しても応答してもらえない、または話し合いを拒否されてしまう場合には家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるという手段があります。調停を申し立てると家庭裁判所から呼び出し状が送達されるので、家庭裁判所で話し合いを行い、遺産分割を成立させることになります。

いきなり調停を申し立てるよりも、弁護士を代理人として内容証明郵便を送り、調停前に話し合う余地があるかどうか探ってみるほうがよい場合もあるかもしれません。トラブルに発展することのないよう、できるだけ慎重に進めることをお勧めします。

従来の住所又は居所を去り、容易に帰来する見込みのない者を「不在者」と言います。住民票や戸籍の附票に記載された住所には存在せず、どこで暮らしているかも分からず、連絡手段もない状態です。前述のとおり遺産分割協議は法定相続人全員で行う必要があるので、相続人の中に不在者がいる場合にはこれを行うことができません。

図1 行方がわからず連絡できない人がいる場合は不在者管財人を申し立てる
行方がわからず連絡できない人がいる場合は不在者管財人を申し立てる

このような場合には、不在者財産管理人選任の申立てを行います。この申立ては、利害関係人または検察官が家庭裁判所に対して行いますが、相続人の一部が不在者の場合には他の相続人が利害関係人に該当するのでこの申立てを行うことができます。

不在者財産管理人が選任されると、その管理人が不在者である相続人の代理人として他の相続人と遺産分割協議を行います。そして、管理人が最終的に協議を成立させるためには家庭裁判所の許可も必要です。ここで注意すべきことは、不在者財産管理制度は不在者の財産を保全し、不在者の利益を保護するための制度であるということです。遺産分割協議のときには、不在者の利益を保護するため法定相続分以上を取得する内容であることが必要ですし、仮に不在者の取得分が法定相続分よりも少ない場合には家庭裁判所が許可しない可能性が高いです。申立人が不動産など特定の財産を自分が取得することを目的として不在者財産管理人選任の申立てを行っても、その目的を達する内容の遺産分割協議が成立するとは限らないことを頭に入れておきましょう。

失踪宣告とは、不在者についてその生死が7年間明らかでないときに、家庭裁判所の審判によって法律上死亡したものとみなす制度です。

失踪宣告がなされると、行方不明の相続人が死亡したものとして遺産分割協議を行うことになる点が不在者財産管理制度と異なります。例えば、不動産の所有者であるAが死亡し、その法定相続人が妻B、長男C、二男Dの3人で二男Dが行方不明だったとします。Dに配偶者や子がいない場合、Dについて失踪宣告がなされて死亡したことになるとDについても相続が発生し、その法定相続人はBのみになります。つまり、Aの相続人であるDの立場をBが引き継いだことになるのです。そうなるとAの相続についてはBとCの2人で遺産分割協議を行うことが可能になります。この分割協議には不在者財産管理制度のような家庭裁判所の許可も必要ないので、BとCの2人のみで完全に有効な分割協議を行うことができます。

二男Dが行方不明で失踪宣告がされた場合、長男CはDの相続人にもなる
二男Dが行方不明で失踪宣告がされた場合、長男CはDの相続人にもなる

一方、Dに配偶者Eや子Fがいる場合には注意が必要です。この場合にDについて失踪宣告がなされるとDの法定相続人はBではなくEとFになるからです。そうなるとAの相続人であるDの立場をEとFが引き継いだことになるので、Aの相続についてB、C、E、Fの4人で分割協議を行わなければなりません。

二男Dに配偶者Eや子Fがいる場合の遺産分割協議
行方不明の二男Dに配偶者Eや子Fがいる場合

このように失踪宣告の場合には、行方不明の相続人についても相続が発生するので、親族関係によっては分割協議の当事者が増えることになる点に注意が必要です。

行方不明の相続人がいる中で相続登記をする場合、対処法に迷ったときには司法書士など専門家への相談を検討してみてください。

行方不明の相続人(不在者)がいる場合に不在者財産管理制度と失踪宣告制度どちらを利用すべきなのでしょうか。

まず、行方不明になって間もない場合や生存していることが明らかな場合には不在者財産管理制度によることになります。行方不明となってから長期間が経過しており、要件を満たしているようであれば、失踪宣告の申立てを検討したほうがよいでしょう。

前述したように不在者財産管理制度は不在者の利益を保護する制度であり、一方、失踪宣告は不在者の死亡を擬制することで相続人等の残された人たちの利益を保護する制度です。どちらの制度を使っても遺産分割協議を成立させることはできますが、必ずしも申立人の思惑通りの内容になるとは限りません。どちらの制度を利用すべきか判断に迷ったときには弁護士や司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。

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遺言書で不動産の取得者が定められている場合には、遺産分割協議を経ることなく遺言で決められた人が不動産を取得するので、相続人が行方不明であっても相続登記を申請することができます。遺言書は自筆証書遺言と公正証書遺言どちらでも構いませんが、自筆証書遺言の場合には家庭裁判所の検認手続きが必要になるので注意して下さい。
(※遺言書保管制度を利用して法務局内で保管された自筆証書遺言については検認不要です)

まだ相続は発生していないが、推定相続人(将来的に相続人になる人)の中に行方不明者がいる場合には、遺言書を作成しておけば不在者財産管理人選任や失踪宣告の申立てを行うことなくスムーズに相続登記を申請することができます。

先ほどと同じ例で、不動産の所有者であるAが死亡し、その法定相続人が妻B、長男C、二男Dの3人で二男Dが行方不明だったとします。この場合、Dが行方不明のままでは遺産分割協議をすることはできませんが、法定相続分どおりにB持分4分の2、C持分4分の1、D持分4分の1の共有名義であれば相続登記が可能です。この相続登記は共有物の保存行為に該当するためB、C、Dのいずれか1人が代表して登記申請をすることができるからです。ただし、この方法で相続登記ができたとしても、Dが行方不明のままでは売却等の処分行為ができず、問題を先送りするだけですのであまりお勧めできません。

相続人が行方不明といっても、住所や連絡先が分からないだけなのか、完全に行方不明なのか、行方不明になった背景や行方不明の期間など様々なケースがあります。対処法に迷ったときには弁護士や司法書士などの専門家に相談してみましょう。

(記事は2021年12月1日時点の情報に基づいています)

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