目次

  1. 1. 遺言書と異なる遺産分割協議も可能
    1. 1-1. 遺言執行者がいる場合
  2. 2. 遺言書と異なる遺産分割協議ができない場合
    1. 2-1. 相続人以外の受遺者がいる
    2. 2-2. 受遺者がいても遺言書と異なる遺産分割協議ができる条件
    3. 2-3. 特定遺贈を放棄する方法
    4. 2-4. 包括遺贈を放棄する方法
    5. 2-5. 遺産分割が禁止されている
  3. 3. 遺言書と異なる遺産分割協議を実現する工夫
  4. 4. 遺言書の内容に納得できない場合の対処方法
  5. 5. 遺言無効確認請求訴訟
    1. 5-1. 遺留分侵害額請求
  6. 6. まとめ|迷ったら弁護士に相談を

相続人全員の同意があれば、遺言書と異なる遺産分割をすることも可能です。
遺言書の記載どおりに分割をすることが、税務上の不都合を生じさせたり、相続人間の争いを生じさせたりする場合は、遺言書が存在しても遺産分割協議をする意義があるといえます。

遺言者の死後に遺言書の内容を実現する手続きを行う人物を『遺言執行者』といいます。遺言執行者には、遺言書の内容に記載されたことを実現する権利と義務があります(民法1012条1項)。そのため、遺言執行者がいる場合に遺言と異なる遺産分割協議をするには、遺言執行者の同意が必要です。ただし、相続人全員が同意しているのに遺言執行者が反対することはほとんどありません。

次に、遺言と異なる遺産分割協議ができないケース、また相続人以外の受遺者がいても遺言書と異なる遺産分割協議ができるケースを紹介します。

相続人以外の受遺者(=遺言書によって財産をもらった人)がいる場合、相続人全員が遺言と異なる遺産分割協議をすることに合意していたとしても、認められません。受遺者の権利を相続人が一方的に奪うことはできないからです。

逆に言えば、受遺者自身が遺言書と異なる遺産分割協議をすることを了承していれば、問題はありません。具体的には受遺者が「遺贈を放棄する」ということです。遺贈には特定遺贈と包括遺贈の2種類があるので、それぞれのケースに分けて放棄の方法や期限を説明します。

特定の財産を対象とする遺贈が『特定遺贈』です。たとえば「○○銀行の預金を友人Bに遺贈する」と遺言書に書いている場合などが代表例です。
受遺者が特定遺贈を放棄したい場合は、相続人または遺言執行者に対する意思表示によって行います。のちに紛争にならないように、特定遺贈を放棄する意思は内容証明郵便で伝えるのが無難でしょう。受遺者はいつでも遺贈を放棄することができ、その時期に制限はありません(民法986条1項)

一定の割合を示してする遺贈が『包括遺贈』です。たとえば「相続財産のうち5分の1を甥Aに遺贈する」と書かれている場合などが代表例です。
包括遺贈を放棄したい際は、相続放棄と同様の方法で放棄をします。具体的には、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して遺贈放棄の申述書を提出することによって行います(民法938条・915条)。期限が短いので注意が必要です。

被相続人(遺言者)は、遺言書によって遺産分割を禁止することができます(民法908条)。遺言書で遺産分割を禁止する場合、禁止期間は最大で相続開始のときから5年です。このように、遺言書で遺産分割が禁止されていたら、相続人全員が合意しても遺言書と異なる遺産分割協議はできません。

遺言書と異なる遺産分割協議をしたいと考える場合、遺言書は特定の相続人や受遺者に利益を与える内容になっているということでしょう。その場合、遺言書によって利益を得る相続人の理解を得られるかが非常に重要なポイントです。
通常、わざわざ自分に利益となる遺言書が存在するにもかかわらず、これと異なる遺産分割協議をすることには抵抗があるでしょう。そのため、その相続人の感情を害さないように慎重に説得することが必要です。また、相続人同士の仲が円満であればともかく、仲が悪かったり疎遠だったりする場合には、合意を取り付けることは相当困難でしょう。
説得するにあたっては、必ずしも弁護士に依頼する方が良いとは限りません。弁護士を立てることで、他の相続人の感情を害する恐れもあるからです。弁護士に前面に立ってもらうことはせずに、あくまでも本人同士の交渉という形をとり、随時弁護士からアドバイスを受けることも有効でしょう。

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遺言書の内容に納得できないものの、相続人全員の合意が得られないなどで遺言書と異なる遺産分割協議ができない場合には、以下の対応を検討しましょう。

遺言が「法定の形式と違う、遺言能力が欠如していた、錯誤・詐欺・強迫により遺言が書かれた」など遺言が無効となる原因が存在すると思われる場合には、遺言確認請求訴訟を提起するなどして遺言の有効性を争うという対応が考えられます。

遺言無効確認請求訴訟とは、裁判所に対し、遺言が無効であることを認めてもらう訴訟です。遺言が無効という判決が確定した後は、遺言が存在しなかったものとして、相続人同士で遺産分割協議をすることが必要です。

なお、遺言無効確認請求訴訟は時間も費用もかかりますので、交渉で決着するにこしたことはありません。負担を軽減するために、いきなり訴訟を提起するのではなく、交渉から開始するのが良いでしょう。
なお、遺言の無効を争うとしても、予備的に遺留分侵害額請求をしておくことが大切です。そうしておかなければ、遺言の無効が認められなかった場合に、遺留分侵害額すら請求できないといった事態が生じてしまう恐れがあります。

遺言の有効性を争うことが困難な場合は、遺留分侵害額請求をするという対応が考えられます。遺留分侵害額請求とは、被相続人が遺留分を侵害する遺贈などをした場合に、財産をもらった人に対して自己の遺留分に相当する金銭の支払いを請求することをいいます。

遺留分侵害額請求権は、相続が開始したこと及び遺留分を侵害する遺贈や贈与などがあったことを遺留分権利者が知ってから1年の間に行使しないと時効により消滅してしまいます。そのため、早いうちに財産をもらった人に対して遺留分侵害額請求をする旨の通知書を配達証明付内容証明郵便で送るようにしましょう。

配達証明付内容証明郵便にする理由は、のちに「そもそも通知書なんて届いていない」「遺留分侵害額請求を行使するなど書いてなかった」などと争いになった場合に証拠として使えるからです。

遺言書の内容に納得できないとしても、他の相続人の同意がなければ遺言と異なる遺産分割協議はできません。ただし、遺言書が無効になる場合や遺留分侵害額請求ができる場合もあります。迷ったときには早めに弁護士に相談してベストな対処方法を選択しましょう。

(記事は2021年12月1日時点の情報に基づいています。)