目次

  1. 1. 死亡退職金には相続税がかかる
    1. 1-1. 本来の相続財産
    2. 1-2. みなし相続財産
    3. 1-3. 死亡退職金として相続税がかかるものとは?
  2. 2. 死亡退職金には非課税枠がある
    1. 2-1. 死亡退職金の非課税枠はいくら?
  3. 3. 非課税枠を使えない人もいる? 課税される死亡退職金を計算してみよう
  4. 4. その他の死亡退職金の注意点

まず、相続税がかかる財産は、1-1. 本来の相続財産1-2. みなし相続財産の2つに大きく分けられます。

本来の相続財産とは、民法の規定で相続財産とされるものであり、被相続人(亡くなった人)が所有していた財産のうち、金額に換算できる経済的価値のあるものすべてを意味します。具体的には以下のような財産です。
例)現金、預貯金、有価証券(株式、投資信託等)、不動産(土地、建物等)、動産(自動車等)等

みなし相続財産とは、被相続人が所有していた財産ではないため1-1. 本来の相続財産ではありませんが、その経済的実態は本来の相続財産と同様であるため、課税の公平の観点から相続税の課税対象とされているものをいいます。

被相続人の死亡により支払われる死亡退職金は、相続人等が被相続人の勤務先から直接支払われるものです。したがって、死亡退職金は被相続人が所有していた財産ではなく、上記1-2. みなし相続財産に該当し、相続税の課税対象となります。なお、生きているときに勤務先から退職者本人に支払われる通常の退職金は退職者本人の所得税の課税対象となります。

相続税の課税対象となる死亡退職金の要件は、相続税法で規定されています。具体的には、死亡退職金のうち被相続人の死亡後3年以内に支給額が確定したものがみなし相続財産として相続税の課税対象となります。死亡後3年を経過した後に支給額が確定したものは、支払いを受けた相続人等の所得税の課税対象となります(所得の種類は『一時所得』となります)。

出典:国税庁HP「税務大学講本 相続税法(令和3年度版)(https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kohon/souzoku/mokuji.htm)」19項
出典:国税庁HP「税務大学講本 相続税法(令和3年度版)(https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kohon/souzoku/mokuji.htm)」19項

相続税の課税対象となる死亡退職金であっても、残された遺族の生活保障などの観点から、そのすべてが課税対象となるわけではありません。相続税法では死亡退職金のうち一定の金額には相続税がかからない非課税とする取り扱いがあります。

具体的に非課税となる一定の金額は以下の算式で計算します。
死亡退職金の非課税枠 = 500万円 × 法定相続人の人数

算式中の法定相続人の人数を数える際には、以下の事項に注意する必要があります。
・相続放棄した人も人数に含めます。
・被相続人に養子がいる場合、次の区分に従い、法定相続人の人数に含める養子の数が制限されます。
① 被相続人に実子がいる場合:1人まで
② 被相続人に実子がいない場合 :2人まで

この際、以下の人は実子とみなして①②の区分を判定します。

・特別養子縁組による養子となった人
・配偶者の実子で被相続人の養子となった人
・配偶者の特別養子縁組による養子となった人で被相続人の養子となったもの
・実子などの代襲相続人(本来の相続人がすでに亡くなっている場合、その相続人の子や孫などが相続人になること)

なお、被相続人が保険料を全額負担していた生命保険で、被相続人の死亡を保険事故として相続人等に支払われる『死亡保険金』も、死亡退職金と同様に『みなし相続財産』として相続税の課税対象となり、かつ、死亡退職金の算式と同様の非課税枠が相続税法で規定されています。

死亡退職金の非課税枠と死亡保険金の非課税枠はそれぞれ別々の規定であり、どちらかの非課税枠を使うと他方の非課税枠が使えなくなるというものではありません。要件さえ満たせばどちらの非課税枠も使うことができます。

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死亡退職金を受け取っても、だれでも非課税枠を使えるわけではありません。非課税枠を使えない人もいます。以下にシンプルな事例を解説します。

事例:父の死亡により、父の勤務先から退職金規定に基づいて死亡退職金1500万円が支給され、母と子がそれぞれ750万円ずつ受領した。母と子1人が相続人であるが、子は相続放棄をした。

死亡退職金1500万円が支給され、子が相続放棄した
死亡退職金1500万円が支給され、子が相続放棄した

この場合における死亡退職金の非課税枠の計算は以下の通りです。
① 非課税枠の計算
500万円 × 法定相続人の人数(2人) = 1000万円
この事例では相続放棄した子も含めて法定相続人の人数を数える点がポイントです。

② 各相続人への非課税枠の配分
上記①で計算した非課税枠を各相続人に配分することになりますが、相続放棄した人や相続権を失った人(相続欠格・相続廃除)は死亡退職金の非課税の規定の適用がないので注意が必要です。なお、相続人以外の人も死亡退職金の非課税の規定の適用はありません。

この事例では子が相続放棄しているので、子には非課税の規定の適用はなく、母が取得した死亡退職金についてのみ非課税の規定の適用があります。母の取得した死亡退職金750万円が①非課税枠1000万円の枠内なので、母の取得した死亡退職金750万円全額が非課税となります。結果、相続税の課税対象となる死亡退職金の金額は以下の通りです。

母:死亡退職金750万円 - 非課税750万円 = 相続税の課税対象となる金額はゼロ
子:死亡退職金750万円 - 非課税なし = 相続税の課税対象となる金額は750万円

被相続人の死亡に伴い勤務先から遺族へ、弔慰金、花輪代、葬祭料等(以下「弔慰金等」という)が支払われることがあります。この弔慰金等について相続税の計算の際に死亡退職金と同じように取り扱うか否かが問題となります。

相続人等が支払いを受けた弔慰金等のうち、実質的に死亡退職金に該当すると認められるものを除き、次の区分に応じ、それぞれにあげる金額を超える部分の金額を「死亡退職金として取り扱う」とされています。裏を返せば、以下記載の金額までであれば弔慰金等は相続税の課税対象とはなりません。

① 被相続人の死亡が業務上の死亡である場合:普通給与の3年分
② 被相続人の死亡が業務上の死亡でない場合:普通給与の半年分

死亡退職金が相続税の課税対象となるかどうかは、「だれがいくら取得するか」「相続放棄している人はいるか」「各人の非課税枠はいくらか」などにより異なります。また、弔慰金等の支払いがある場合も相続税の課税対象に含めなくてもよいかどうかの判定が必要です。特に会社役員だった人は死亡退職金が高額となるため、その相続税の取り扱いについては税理士に相談するのが得策でしょう。

(記事は2021年6月1日時点の情報に基づいています)