目次

  1. 1. 信託業務は銀行の新たなビジネスモデルに
  2. 2. 高まる遺言信託のニーズ
  3. 3. 1人で悩まず金融機関などに相談を

「相続会議」の弁護士検索サービス

――貴協会では、ホームページでの解説記事やリーフレットを通じて、相続に関する情報提供に注力なさっています。相続において各銀行はどのような取り組みをなさっていますか?

2018年に相続に関する民法が改正されました。この改正に関し、銀行は、お客様への周知徹底やていねいな説明を心がけています。特にポイントを置いているのは、次の4つです。

  • 配偶者居住権の創設
  • 預貯金の払戻制度の創設
  • 自筆遺言証書の方式緩和
  • 遺留分制度の見直し

とりわけ、配偶者居住権の創設と自筆遺言証書の方式緩和は、多くの世帯の相続に関係します。全国の銀行に対しては、相続預金の払い戻し制度に関するリーフレット(「ご存知ですか?遺産分割前の相続預金の払戻し制度)などを案内したほか、対象になると思われるお客様に対し、わかりやすく説明するよう呼び掛けています。

また、お客様の中には将来の相続に不安を感じている方もいます。銀行は、そういう方に改正民法の内容をお伝えするだけでなく、ニーズに合った信託を提案しています。以前は信託というと信託銀行、というイメージでした。しかし最近は、都市銀行や地方銀行の中にも金融庁から信託業務の認可を得て、信託業務を行うところが増えています。

相続というステージで、銀行が「お金のかかりつけ医」の役割を果たしているのです。

――信託業務を本格化させる銀行が増えている背景には、どのようなことがあるでしょうか。

「日頃から接点を持つ銀行は誰よりも信頼できる相談相手です」と話す岡島さん
「日頃から接点を持つ銀行は誰よりも信頼できる相談相手です」と話す岡島さん

1つは超高齢化社会の到来です。子供の数が減ってご高齢の方が増えるだけでなく、認知症の問題が深刻化しています。認知症が重くなると、単独で法律行為を行えなくなるからです。放置すると、家族の生活全体に影響します。

この対策として「成年後見制度」が注目されていますが、利用者総数は201812月末で約22万人にとどまっています。銀行の実務においては、ご家族に成年後見制度の利用を促しても、月々の費用や、第三者に家族の資産を委ねることへの抵抗感等を理由に制度を利用してもらえないケースもあります。

一方、お客様の意思に沿った財産承継・管理を支援する遺言信託や遺言代用信託などは、その利便性の高さから少しずつ広まってきています。この信託に詳しく、かつ日頃から預金や借入で接点がある銀行がお手伝いすれば、お客様も安心して将来に備えることができます。お客様にとって身近であり、かつ専門性の高い銀行は、信頼できる相談相手なのです。

もう1つは銀行側の事情です。マイナス金利政策により、伝統的な銀行業だけで経営を続けるのが難しくなりました。「預金・貸出・為替」外の新たな事業を展開しなくてはなりません。この打開策の一つが「顧客基盤を見直し、新たな層を開拓すること」です。信託業務は、新たな顧客開拓と長期的な収益向上の切り口になります。

遺言信託や遺言代用信託などは、新たなお客様とのかかわりの第一歩です。信託を機にお客様と家族ぐるみでお付き合いが始まれば、いずれ子の世代の方の住宅ローンや事業の融資の相談を受けるようになるでしょう。ご家族の様々なライフステージでお手伝いできれば、銀行も新たなビジネスモデルで収益を得られるようになるはずです。

――相続や信託業務をめぐる今後の見通しについてお聞かせ下さい。

近年、遺言信託の需要が高まっています。相続の件数そのものが年々増加し、同時に親族間の相続争いも増えているからです。

国税庁の平成30年の統計を見ると、相続税の申告数は被相続人の数ベースで約15万件生じていることが分かります。一方、司法統計年報における同年の遺産分割事件数は、約1万3000件です。つまり、課税対象となる相続の約1割が家庭裁判所で争いになっています。

相続の対象になる財産は、預金や上場株式だけでなく、不動産、自社株(未公開株)といった分割しにくい財産もあります。相続は「争族」とも言われますが、できれば家族間での争いは避けたいものです。そこで、円満な相続を望むお客様から、遺言信託が求められています。

遺言の方式には大きく分けて「自筆証書遺言」「公正証書遺言」の2つがあります。「この2つがあるから何も銀行に頼らなくても」と思うかもしれませんが、一般の方が自力で遺言書を作成するのは難しいのです。自筆証書遺言はなかなか完璧に作れませんし、特定の家族を優遇する内容であったり、相続人の誰かに遺言書を預けたりすれば別の争いを生むおそれもあります。行き慣れない公証役場で公証人を前にして遺言書を作るのも、一般の方には気が重いようです。

しかし、銀行なら、お客様にとって普段から付き合いがある一方、家族と違って中立・公正な立場なので、安心して相談できます。銀行の専門スタッフの手を借りれば、公平な遺言書を書くだけでなく、遺される家族に愛情や感謝を遺言で伝えることもできます。

また、遺言書を一度作るとその後作り直したくなるものです。しかし、一人だとなかなか腰が上がりません。けれど遺言信託なら、銀行への連絡1つで専門スタッフがすぐに対応します。遺言書の管理や執行の心配もありません。

お客様の身近な存在でいながら、専門性・客観性・公平性も備えている――こういった要素を備えている銀行は、一般の方々にとって最も安心できる相談相手です。銀行に対する遺言信託のニーズは、今後もますます高まると見られます。

――相続税法や相続関連の民法の改正で、相続を取り巻く環境が大きく変わりました。銀行の相続関連業務に変化はありましたか。

先ほどお伝えした信託の需要の増加以外に、もう1つあります。それは預貯金の払戻制度を利用する方の増加です。以前は遺産分割までの間は、相続人全員の合意がなければ被相続人の預貯金からお金を引き出せませんでした。しかし民法改正により現在、家庭裁判所の判断を得なくても、各相続人が単独で1金融機関につき150万円まで払戻ができます。この改正に伴い、どの銀行でも払い戻しの態勢を整えています。

実際、いざ相続が始まると故人の病院代や葬式代の支払に追われます。そしてそういった支出は高額になりがちです。自分のお財布からではなく、故人の預金から払えれば遺された親族の負担も軽くなります。改正前は故人の預金口座の凍結で必要なお金を引き出せず、親族が立て替え払いを余儀なくされ、困る相続人がたくさんいました。しかし改正後、こういったトラブルは減少したと考えます。

――円満な相続のために必要なこと、いざとなった時に慌てないために日頃からしておいた方がよいこととは何でしょうか。

2つあります。1つは「1人で悩まないこと」、もう1つは「自分の財産を管理・把握すること」です。認知症を発症してからでは遅いことがあります。「財産をどうしたいのか」「誰にどれだけ渡したいのか」など、健康なうちに検討すれば将来の相続がスムーズになるはずです。

この場面でもっとも相談相手にふさわしいのが銀行をはじめとする金融機関です。特に、会社を経営している方なら日頃利用している銀行に相談するとよいでしょう。日常業務を通じて会社や社長個人の財産や家族の状況を把握していますし、必要に応じて一緒に信託の活用を検討したり、士業の方を交えて対策を練ったりすることができます。

生前贈与も1人で考えて行うと、何かと問題が生じがちです。しかし銀行の専門スタッフなどの第三者のアドバイスが得られれば、より安心して実行できます。心身に不安を感じてからではなく、元気なうちに銀行や士業の方に相談しながら終活を考えていただければ幸いです。

(記事は2021年4月1日現在の情報に基づきます)

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