相続税申告書の書面添付を税理士に依頼するメリットとは?
相続税申告の際に書面添付制度を利用すると「税務調査が入る可能性が下がる」なんてことを聞いたことがありませんか? 果たして本当なのでしょうか。制度の仕組みから、書面添付のメリットとデメリットを元国税調査官の税理士が解説します。
相続税申告の際に書面添付制度を利用すると「税務調査が入る可能性が下がる」なんてことを聞いたことがありませんか? 果たして本当なのでしょうか。制度の仕組みから、書面添付のメリットとデメリットを元国税調査官の税理士が解説します。
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書面添付制度とは、税理士法第33条の2に規定する書面添付制度と法第35条に規定する意見聴取制度を総称したものです。簡単にいうと、申告書を作成した税理士が、以下のような内容を記載した『書面』を添付して提出する事です(税務代理権限書税理士法第30条と共に提出します)。
税理士が「この申告書は私がこれだけ調べて作成したから信頼してください。」と税務署に対して所見表明するのです。いわば、税理士だけが作成できる申告書の品質保証書とも言えるでしょう。
通常、税務調査が実施される場合には、まず、税務署から納税者(税理士が関与している場合は税理士)に対して、電話連絡が入り、調査日程等の打合せを行うことになります。そして、調査の日程調整後に、「事前通知」という手続きを経て、調査が実施されます。
しかし、この書面の添付がある申告書に係る納税者に税務調査を行う場合、調査の前段階で税理士が税務署に呼び出され、書面に記載された事項や申告書の疑問点について、税理士が意見を述べる機会(意見聴取)が与えられます。調査官やその上司である統括官が税理士に対して質問し、税理士が回答意見を述べ、税理士が調査官の疑問を晴らすことができた場合、調査の短縮や省略になる場合があります(意見聴取は、税理士にだけ認められた権利です)。
つまり、税務署側からすると一旦意見聴取手続きを経ないと税務調査できないことから、納税者税理士サイドから見ると書面添付は、税務調査をけん制する効果があるのではと言われています。果たしてそうなのでしょうか?
元国税調査官の税理士の立場からしますと、「相続税申告の場合、書面添付制度を利用する税理士を選んだ方がいい」というのが私の経験則から導き出した結論です。一方、書面添付が税務調査をけん制できる効果があるのかについては、税理士の中でも否定的な意見もあります。私が相続税の書面添付肯定の結論に至る理由について、まずは税務署という組織を知るための前提知識について言及いたします。税務署の調査部門には、大きく「個人課税部門」「法人課税部門」「資産課税部門」に分かれます。以下が、各々の所掌税目となります。
「法人課税部門」法人に対する税務調査(法人税及び消費税)
「個人課税部門」個人事業者に対する税務調査(所得税及び消費税)
「資産課税部門」相続税、贈与税の税務調査、譲渡所得(不動産売買や株式等の売買)、山林所得に対する税務調査
法人・個人課税部門では、法人税・所得税等を取り扱い、それは日々の取引を会計帳簿に記帳し、証拠書類に基づいて収入経費等を計算した結果の申告書が正しいかどうか確認する部署です。一方、資産課税部門では、主として、相続税を取り扱い、そこでは日記帳や家計簿のような日々の記録がなく、証拠書類の保管状況等もそろってないことが多い状態の財産状況についての申告書が正しいかどうか確認する部署です。つまり、資産課税部門では、会計帳簿のようなよりどころがない状態の申告書を確認するため、他の部署よりも税理士の作成した書面添付をより重視しているのです。
相続税の書面添付率が多いのは、このような理由からだと思いますが、国税の調査現場に長年携わっていた私の経験則からしますと、書面添付をすることで以下のようなメリットがあるからだと考えます。
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相続の相談が出来る税理士を探すまず、相続税申告の書面添付の効果は意見聴取を防ぐ意味があります。手許現金や預金を精査した過程を記載する、小規模宅地の特例については判断に至った経緯、内容を詳細に記載しておくことで、税理士の意見聴取自体を免れることがあり、効果的といえます。
次に、相続税の調査は、意見聴取の前に、税務署が被相続人や相続人等の預金調査をある程度行っていることがあります。本来、意見聴取は、税理士が意見する場であるので、税務署が積極的に意見することはないはずですが、実は、意見聴取の段階ですでに要調査項目が決まっているため、その際に調査項目が税務署側から税理士へ伝えられることがあります。
例えば、税務署が一部の相続人名義の預金を問題としている、一部の不明な出金の使途解明を要すると考えているケースです。そのような場合、要調査項目を税理士側で解明していると、調査は行われないことが多くあります。私の経験でも、書面添付制度を活用するのはいつも同じ税理士(又は税理士法人)である印象でした。特に、相続税申告や、都市部以外の法人税申告などは、同じ税理士(又は税理士法人)と何度も意見聴取や調査の場面でやり取りする場面がありました。関与税理士(税理士法人)の評判も税務署内で共有されていることがあり、「この先生は手堅く、しっかり丁寧に記載している」とその税理士自身への心証・信用に寄与している部分も少なからずあります(都市部以外の税務署ほど顕著な傾向にあります)。
遺産総額が大きい場合、元々調査選定されており、意見聴取は実質通過儀礼であり、無意味なケースもありました。相続税調査は、現金や預金調査を主とした調査になりやすく、財産評価等について、詳細に記載しすぎると「やぶへび」状態になる可能性もあります。
また、調査官は、公文書の作成者として、調査の処理経過を文章で作成報告するため、申告書の計算書類よりも文章の細かな表現にこだわる傾向があるため、記載方法によっては納税者に不利に働く場合が存在します。税理士によっては、添付書面の内容がテンプレートのような記載しかなく、書面添付の意味をなさない申告書を提出してくる者も残念ながらいます。書面添付制度は、普通の税理士であれば書面作成に作業工数がかかり、オプション料を追加で請求されるケースが多いものの、中には、高額なオプション料を支払ったにもかかわらず、まったく意味をなさない書面を添付してくる税理士(税理士法人)も少なからず存在します。
本当に税務調査をけん制する効果がある書面添付をしてくれる税理士かどうかは、上記のメリット・デメリット等を踏まえた説明を行ってくれる税理士を選ぶのが正しい選択でしょう。相続税申告は、亡くなった家族の最後の申告となることから、その税理士に本当にそのような手続きを任せてよいかどうかを、相続税申告の実績・著書・ブログ・SNSなどから垣間見える人柄や相性、評判なども総合して吟味するのがよいでしょう。
(この記事は2021年1月1日現在の情報に基づきます)
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