家族信託には「契約信託」と「遺言信託」の2種類あり

「家族信託」と「遺言」の違いについて説明するには、家族信託を2つの形態に分けて比較する必要があります。
家族信託の2つの形態一つは、財産を持つ親(委託者)と管理を担う子(受託者)との間で信託契約を交わす、いわゆる「契約信託」です。これは、老親の認知症対策として生前の財産管理を主たる目的として実行するもので、家族信託の最も典型的な活用形態です。

家族信託の二つ目は、「遺言」の中で家族信託を設定する「遺言信託」という形態です(これは信託法3条2号を根拠とする法律用語としてのもので、信託銀行が提供するいわゆる“遺言信託サービス”とは全く異なるものです)。相続発生により遺言が発効するので、それと同時に信託も発効し、遺産の受取人(例えば認知症発症リスクのある高齢の配偶者や障害を持つ子、浪費家の子)のために財産管理を担うことを主たる目的とします。

「遺言信託」は家族信託と遺言のハイブリッドのような仕組みです。
「遺言信託」は家族信託と遺言のハイブリッドのような仕組みです。

以上のように、家族信託には理論上、「契約信託」と「遺言信託」の2つの形態があるので、民法が規定する通常の「遺言」との比較においては、これら三者で比較するのが最も適切かと考えます。そして、その比較は、親本人の存命中と親の相続後の場面に分けて考えていきましょう。
今回は、親本人の存命中、言い換えれば、親の老後の場面における三者の比較についてお話します。

老親のために備える事前策としては「契約信託」がおすすめ

まず、親が存命中における、「契約信託」と「遺言信託」と「遺言」との比較ですが、この三者の違いは単純明快です。

老親の生前から財産管理を担うのが「契約信託」であるのに対し、「遺言信託」も「遺言」も生前中はまだ効力が生じません。つまり、老親が将来自分で財産の管理や処分ができなくなるリスクに備える必要性があるのかどうかが、「契約信託」を活用すべきかどうかの重要なポイントです。
たとえば、老親が認知症になり判断能力に著しい低下がみられると、老親自らの判断で不動産を売ったり、多額の預金を下ろしたりすることができなくなります。もし特段の備えをしておかなければ、必要な時期に成年後見制度を使うしかありません。「遺言信託」も「遺言」も生前の財産管理や認知症対策には何ら役に立ちません。

成年後見制度を利用することによるランニングコスト(経済的負担)、後見人となった家族が負う帳簿作成義務や後見監督人等への定期報告義務(事務的負担)という長期にわたる大きな負担を回避するために、成年後見制度に代わる老親を支える仕組みを作りたいのであれば家族信託の中の「契約信託」を実行すべきといえます。

それぞれの違いを認識し、使い分けてこそ効果を発揮

まずは、親の老後をどう支えるか、親の老後における希望やリスクは何か、それを受けて家族がどう備えるか、などについて親が元気にうちに家族全員でよく話し合うことにより、「契約信託」の必要性について家族全員が納得できる結論を出すのが理想的です。

前回は、受益者の変更の仕方について解説しました。
引き続きこの連載では、家族信託に必要な知識やトラブル予防策を読み解いていきます。

(記事は2020年9月1日時点の情報に基づいています)