目次

  1. 1. 受益者に代わって受託者が借入れできる
    1. 1-1. 委託者ではなく受託者の名の下に
  2. 2. 一方で、債務は受益者(親)のものと見なされる

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信託契約において権限を付与された受託者は以下のことができます。
・信託財産の維持管理に必要な行為(例えば信託不動産たるアパートの耐震補強・外壁補修などの大規模修繕をすること)
・信託不動産たる建物の建替えをすること
・信託不動産となる建物の建設や不動産を購入すること
これらの際に、受託者が委託者より預かり、管理している信託財産たる金銭だけでは、これらの費用を賄えない場合、信託契約に基づく権限があれば金融機関から融資を受けることが可能です。

融資を受ける場合、金融機関に対する融資申込みや金銭消費貸借契約書・抵当権設定契約書等への調印手続きも、すべて受託者が「受託者」の名において(委託者の代理・代筆ではない)行うことになります。

言い換えれば、原則として受益者がそれらの契約書に押印する必要はありません。契約書の署名押印欄における住所は、受託者個人の住所を記入します。氏名欄には、必ず「委託者○○ 信託受託者△△」という、肩書付きで受託者が署名し、押印する印鑑は、受託者個人の実印が好ましいです。
金銭を貸す側(金融機関)も借りる側も信託財産の維持・管理・取得に必要な資金の融資との理解と認識が不可欠であるため、すべての書面に信託受託者としての調印であることを明記します。

信託財産を維持・管理・取得するために、受託者がその権限に基づいて借り入れた債務は、当然受託者が責任をもって返済をしていく訳ですが、その債務の税務上の取扱いは、受益者たる親の債務として扱われます。

たとえば、信託財産として受託者が購入した不動産は受益者である親の財産となる一方で、購入資金として受託者たる子が借入れた債務はその子個人の債務となるのでは、理屈として成り立ちません。

国税庁も「信託受益権の目的となっている信託財産に帰属する債務については、受益権を取得した者の債務控除に該当する」としています。

したがいまして、受託者がその権限に基づいて、信託財産を維持・管理・取得するために借り入れた債務は、受益者たる老親に相続が起きた際に、老親の借金として、相続税の申告における債務控除の対象となることになります。

前回は、損益通算の禁止について解説しました。
引き続きこの連載では、家族信託に必要な知識やトラブル予防策を読み解いていきます。

(記事は2020年8月1日時点の情報に基づいています)

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