家族が滞りなく引き継ぎできる、デジタル資産の「生前整理」の方法とは
本人にもしものことがあったときに遺された家族が困らないよう、スマホやPC、ネットバンク、SNSといったデジタル資産に必要なIDやパスワードを生前から一覧的に管理することは重要です。デジタル遺品を長年取材してきたライターの古田雄介さんが取り組みやすい方法をお伝えします。
本人にもしものことがあったときに遺された家族が困らないよう、スマホやPC、ネットバンク、SNSといったデジタル資産に必要なIDやパスワードを生前から一覧的に管理することは重要です。デジタル遺品を長年取材してきたライターの古田雄介さんが取り組みやすい方法をお伝えします。
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「相続会議」の税理士検索サービスで
前々回(GDPRとは? 欧米で先行する「デジタル遺産」のルール化)に相談をいただいた50代後半の会社員男性・Aさんからは、もうひとつ質問をいただいています。今回はそちらにお答えしましょう。
「20年近く前からデジタルカメラを使っていて、10年前から趣味のブログもつけています。ネット銀行やネット証券もそれなりに利用していますし、すでにデジタル資産もそれなりのボリュームになっていると思います。
ネット銀行の口座情報などは、(自前のエンディング)ノートに書き込んでいますが、すべてのデジタル資産を網羅できていないことが不安です。何か効率的に管理する方法があれば教えてください」
デジタル資産というのは資産のうちのひとつの形態でしかないので、Aさんのように他の資産と一緒にエンディングノートに書いて整理するのは理に適っていると思います。
しかし、デジタル資産は他の資産に比べて、つかみ所がないように感じるのも確かです。
SNSのアカウントや特定の相手とのメール履歴、パソコンに保存されているファイルなど、置き場所も種類も多岐にわたるうえ、重要度は人や状況によって変わります。どこからどこまでを管理すればいいのか線引きしづらいところがあるのです。
しかも、パソコンやスマホ、携帯電話も数年で買い換える必要がありますし、愛用しているオンラインサービスが1年後には終了しているということもザラにあります。流動性が非常に高いので、いまこの瞬間のデジタル資産を網羅的に把握するのはあまり意味がないかもしれません。
ならどうするか。習慣的に管理できる分量で強引に線引きしてしまえばいいのです。
私がお勧めしているのは、万が一のときに家族に伝わらないと困りそうな項目を上から順に10個程度選んで、A4用紙1枚に記載する方法です。Aさんのようにデジタルを使いこなしている人はもっと多くの重要項目をお持ちだと思いますが、それでもあえて10個程度に絞り込むのです。
重要なのは定期的に更新するのに負担を感じない分量に抑えることです。デジタル資産は流動性が高いので、1年に1回程度のペースで書き換えるのが理想です。A4用紙1枚程度なら、年末年始や誕生日などの記念日に「まあ、やってみようか」となりませんか?
そして記載したものに記入日を書き入れ、預金通帳や実印などと一緒に保管しておけば、いざというときに家族が発見する可能性が高まります。デジタル資産特有の見えにくさが随分緩和されるわけです。
具体的な重要項目は下記が挙げられます。
・スマートフォンや携帯電話、パソコンのログイン情報
お使いのデジタル端末はデジタル資産の玄関口となります。その玄関の“鍵”をメモしておくと、いざというときに家族が中に入れず閉口する事態を防げます。
・オンライン上の金融資産の口座やアカウント
ネット銀行やネット証券の口座、○○ペイなどは、残高などよりもサービスのアカウント情報が重要です。ネット保険を契約しているならそちらも。
・SNSやブログ、端末内の重要ファイル
死後に処理を託したりしたいSNSやブログがあれば記載しましょう。端末内に重要ファイルがある場合は特記することで、見落としが防げる公算が上がります。
外せないのは、端末のログイン情報と金融資産関係の情報です。人によっては10個未満で収まる場合もあると思いますが、その場合は無理に10個に近づける必要はありません。
なお、私のホームページ「古田雄介のサイト」でも、下記の図表「デジタル資産メモ」のテンプレートを無償公開しています。
全国47都道府県対応
相続の相談が出来る税理士を探すA4用紙1枚でも習慣化が難しそうなら、名刺大のカードに端末のログイン情報だけを記載して、同じく預金通帳や実印と一緒に保管しておくという手(年始の伊勢田篤史弁護士との対談でも紹介しました)も有効です。
とりあえず、デジタル資産の玄関の扉が開けさえすれば、いざというときに家族は中身を調べる段階にすんなり入れます。しかしその扉を開けるのにてこずると、膨大な徒労を強いることになります。こちらも年に1回程度、あるいは端末の買い換えのたびに更新するのが理想です。
デジタル端末のなかでも近年はスマートフォンの存在が大きくなっているため、私はこのカードを「スマホのスペアキー」と呼んでいます。パソコンや携帯電話のログイン情報にも利用しましょう。
なお、重要情報のメモをそのままの状態で保管しておくのは危険です。パスワードなど元気なうちに見られては困る情報は、記載した部分に修正テープを走らせてマスキングしておきましょう。1回だけではうっすら透けることがあるので、2~3回重ねると安全です。
裏が透けない厚紙なら表面だけで十分ですが、照明にかざしたときに裏から筆跡が見える場合は、裏側も同様にマスキングしておけば完璧です。
万が一のときはスクラッチカードのように削って中身を確認してもらえます。逆に、元気なうちに誰かが削ったらその証拠が残るので、パスワードを変更するなどの措置がとれます。
いずれの方法を選ぶにせよ、大切なのは「デジタル資産の安全な見える化」を習慣的に維持することです。
ちなみに私は2016年の夏にスマートフォンを買い換えたときから続けていて、先日4回目の更新をしました。ものの10分で済みます。ぜひ試してみてください。
前回は、「故人が貯めていたクレカのポイントやマイルを相続できるのか」について書きました。今後もこちらのコラムで、デジタルの遺品や相続にまつわる疑問や不安にお応えしていきます。
(記事は2020年7月1日時点の情報に基づいています)
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