1. 「空き家」と「特定空き家」の違いとは
空き家とは、長期間にわたり人が住まず、使用もされていない建物のことを言います。
具体的には、おおむね1年間、建物への出入りがないこと、電気、水道、ガスなどが使われていないこと、所有者の住所が異なる場所にあることなどを基準に空き家かどうかが判断されます。ただし、空き家といっても、きちんと管理され、きれいな状態に保たれていれば問題はありません。
しかし、空き家のなかには手入れもされずに放置されたため傷みが進み、お化け屋敷やゴミ屋敷などと言われるような状態になってしまった建物もあります。このような空き家は景観上だけではなく、安全上、衛生上などさまざまな問題を起こし、近隣に迷惑をかけます。
そこで、国はこのような空き家を「特定空き家」に認定し、所有者に改善を求めるための法律を制定しました。それが、2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法(以下「空き家特措法」)です。
空き家特措法では、次の4つの状態と認められる空き家を「特定空き家」と定義しています。
【特定空き家の認定基準】
- そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
- 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
空き家特措法では、規制の対象は建物だけではなく、門や塀、立木、看板なども含めているため「特定空家等」としていますが、本記事では「特定空き家」と表記します。
2. 誰が決める? 「特定空き家」認定の手順
誰が決めるのかというと、特定空き家を認定するのは市町村です。
空き家特措法に基づき、各市町村は「空家等対策計画」を作成します。現在、全国の8割以上の市町村で計画が策定され、主に以下の事項が定められています。
- 空き家の実態調査の方法
- 空き家や空き家の跡地の活用促進
- 特定空き家に対する措置
- 住民からの相談対応
各市町村は計画に基づき、空き家を調査しマッピングなどにより空き家の実態の把握を進めます。あわせて近隣からの情報や市町村自らが行う調査によって、特に問題のある空き家を見つけると特定空き家に認定します。
なお、空き家や特定空き家の調査の際に、自治体の職員は立ち入り調査もできることとなっています。
3. 特定空き家に認定されると、固定資産税が6倍になる?
通常、不動産を所有していると毎年固定資産税がかかり、さらに市街化区域内にある土地には都市計画税もかかります。
ただし、住宅など居住用の建物が建っている土地には特例措置があり、200㎡までの部分については「小規模住宅用地」として固定資産税の課税標準額が6分の1、都市計画税の課税標準額が3分の1に軽減されます。また、200㎡を超える部分についても一般住宅用地として、固定資産税、都市計画税の課税標準額の軽減があります。
しかし、特定空き家に指定され、勧告(後述)を受けると、翌年からこの特例措置がなくなってしまい、土地は「非住宅用地」として課税されることになり、固定資産税が約4倍、都市計画税も約2倍と大幅に上がってしまいます。
よく言われているような「固定資産税が6倍」ではないのは、実際には、小規模住宅用地の評価減が受けられない土地でも負担調整措置があり、課税標準額は固定資産税評価額の70%(東京23区などは65%)に軽減されているからです。そのため、固定資産税は6分の1→1(=6倍)になるのではなく、6分の1→10分の7(=約4倍)になるわけです。
4. 特定空き家認定後の流れ
特定空き家に認定された空き家については、図版「特定空き家に認定されたあとの流れ」の順序に従って措置が行われます。
4-1. 助言や指導
特定空き家に認定されると、自治体は所有者に対して空き家を適切に管理するよう助言または指導を行います。
4-2. 勧告
助言や指導によっても改善が行われない場合、自治体は勧告を行います。
勧告は書面によって行われますが、勧告を受けた空き家の敷地は、先ほど説明したように翌年から税金の特典が受けられなくなります。
4-3. 命令
勧告によっても改善が行われない場合は、勧告された対応を実施するよう命令が出されます。命令は非常に重い措置のため、市長村が命令を行う場合は、所有者に対して意見を述べる機会を設けなければなりません。
なお、命令に従わずに対応を行わなかった空き家の所有者には、50万円以下の過料が科せられます。
4-4. 行政代執行
命令によっても特定空き家の状況が改善されないときは、市町村は行政代執行を行うことができます。
行政代執行とは、市町村が特定空き家の所有者に代わって解体などの是正措置を行い、その費用を所有者から徴収することです。
なお、空き家特別措置法では行政代執行に加えて「略式代執行」も認めています。
略式代執行とは、特定空き家の所有者が不明の場合や、所有者はわかっていても連絡がとれない場合などに、市町村が特定空き家の解体などを行うことです。これは、緊急性があるにもかかわらず特定空き家の所有者がわからないために解体ができずに近隣に損害を与えることのないように行われる措置です。
実際に、国土交通省による「~空き家対策に取り組む市区町村の状況について(令和4年3月31日時点調査)~」では、2022年3月31日時点の累計で行政代執行が140件に対し、略式代執行が342件と大きく上回っています。
このように、特定空き家に認定された場合は、段階的に厳しい措置がとられることになります。空き家を相続した人にとっても、空き家を特定空き家にしないことはとても重要なことです。「年々増え続ける空き家! 空き家にしないためのポイントは? | 暮らしに役立つ情報 | 政府広報オンライン」も参考にしてみてください。
5. 特定空き家に認定されないための対策
相続した空き家が特定空き家に認定されないためには、次のような方法があります。
以下ではそれぞれのポイントを紹介します。
5-1. 住む人を探す
まずは、家族や親族のなかで空き家に住む人がいないかを確認します。空き家は、人が住んでいる建物よりも痛みが早く進みますが、人が住むことで適切に管理され、良好な状態を保つことができます。
5-2. 活用する
空き家が賃貸需要のある立地にあれば活用が考えられます。活用によって安定収入が得られれば、副収入や老後の自分年金にも充てることができ、維持管理コストをまかなうこともできます。
空き家をそのまま活用する手法としては、貸家、シェアハウス、民泊などがあります。ただし、空き家はもともと古い建物なので、活用するためには多額のリフォーム費用が必要になるケースもあります。そのため、あまり費用がかかりすぎると、リフォーム費用が回収できないリスクもあります。
最近では、DIY賃貸といった、リフォームをしない代わりに安い家賃で賃貸し、入居者が自由にリフォームやリノベーションができるような賃貸方法もあります。
5-3. 解体する
①解体後の活用方法
空き家の維持管理コストの負担が重く、活用も難しい場合には、解体も選択肢になります。空き家を解体する大きなメリットは、建物自体の管理をする必要がなくなることです。
解体後は、更地にして活用する方法と、建て替えて活用する方法があります。
更地で活用する方法には、駐車場、駐輪場、貸コンテナなどがあります。ただし、空き家を解体してしまうと、前述のように小規模住宅用地の軽減が受けられなくなり、固定資産税や都市計画税が大幅に上がってしまうため、事前に解体後の活用計画をきちんと見極める必要があります。
一方、建て替えて活用する方法には、アパートやマンション、貸店舗などがあります。建て替えにより収益が大幅に上がることも期待できますが、これらの場合も入居需要があるか、余裕をもって借入れが返済できるかなど、リスクも踏まえて事前に経営計画をきちんと立てることが重要です。
②空き家の解体費
空き家を解体するデメリットは、なんといっても解体費の負担でしょう。解体費は建物の構造や面積によって異なりますが、たとえば、木造2階建て、30坪程度の建物の解体費は120万円~200万円くらいになります。
建物の構造や面積以外に、敷地の広さや道路の幅、近隣住宅の密集度、アスベストの有無などさまざまな条件によっても大きく異なるため、複数の解体業者に見積り依頼をすることをお勧めします。
③自治体の補助金制度
空き家の解体費用の補助金制度を設けている自治体もあります。
補助金の名称は、「老朽危険家屋除却費等助成金」「老朽危険空家除却費用助成金」「空家除却補助金」などさまざまで、適用条件や補助金の額も異なります。
たとえば、東京都杉並区には「老朽危険空家除却費用の助成制度」があり、特定空き家などを対象に、解体工事費の80%かつ上限150万円を助成してくれます。
ただし、すべての自治体に助成制度があるわけではないので、あらかじめ自治体で制度の有無や適用条件を調べておくと良いでしょう。
5-4. 売却する
空き家を持ち続けていても、将来住む予定も活用する予定もない場合は、売却が有力な選択肢になります。
長年愛着のあった実家を手放すことにもなるので、さびしい思いをするかもしれませんが、空き家を持ち続けるための維持費用や労力の負担がなくなり、特定空き家になってしまうことも防げます。
6. 空き家対策の強化をめぐる流れ
年々増え続ける空き家に対応するために、国や自治体も、より強い施策を打ち出しています。
6-1. 管理不全空家等の指定
2023年度の通常国会に空き家特措法改正案が提出され、早ければ2023年度から「管理不全空家等」が指定される予定です。
管理不全空家等とは、いわば特定空き家の予備軍で、このまま放置すればいずれ特定空き家になるおそれのある空き家を指します。管理不全空家等についても、勧告を受けると固定資産税の小規模住宅用地の軽減の特例措置が適用されなくなります。
6-2. 自治体の空き家対策~京都市の空き家税「非居住用住宅利活用促進税」
京都市が2026年以降の実施予定で導入を進めているのが、「非居住用住宅利活用促進税」という、空き家に対する課税制度です。
税額は、以下の①と②の合計額になります。
①家屋価値割…家屋の固定資産税評価額×税率0.7%
②立地床面積割…敷地の1㎡あたりの固定資産税評価額×家屋の床面積×税率0.15%~0.6%(税率は建物評価額により異なる)
この税額が固定資産税や都市計画税に上乗せされるため、空き家の所有者の負担はかなり重くなります。
京都市の場合は、観光地であることや居住用物件の不足などの事情があるため、ほかの自治体で同様の税金が新設されるかはわかりませんが、空き家問題の解決策として京都市の後を追う自治体が増える可能性もあります。
7. まとめ
親から引き継いだ大切な財産が、特定空き家に認定されてしまうのはとても悲しいことです。
特定空き家に認定されないように、住む、活用する、解体する、売却するといった方法のなかでベストの選択をするために専門家のサポートを受けることをお勧めします。
(記事は2023年6月1日時点の情報に基づいています)