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「いくら節税できたか」よりも大切なのは心の問題

――ご著書『相続格差』の中に登場する、「お金の相続格差」と「心の相続格差」について教えてください。

「お金の相続格差」は現金や不動産などの財産の分け方による格差で、「心の相続格差」は相続によって幸せになれたか、あるいは不満が残ったかという格差です。私は「心の相続格差」を重視すべきだと考えています。

私は税理士として長年にわたり相続を担当してきました。依頼人に相続で大変だったことを聞くと「きょうだいとのゴタゴタがつらかった」など人間関係についての悩みを挙げる人がほとんどでした。

相続で多くの財産を引き継ぐことや、支払う相続税をできるだけ抑えることはもちろん大事です。しかし、依頼人の皆さんの多くは「いくら節税できたか」よりも「人間関係をうまく収めながら相続ができた」ことに感謝してくださいます。つまり、「お金」のことばかりでなく、「心」の格差もなくしていくことが良い相続の秘訣ではないかと思っています。

――富裕層だけに当てはまる問題ではないのですか。

2020年の「司法統計年報」によると、相続で揉めて裁判まで行ったケースは、遺産総額1000万円~5000万円以下が42.9%と最も高いです。これは、東京都区内に一軒家の自宅がある人など、一般的なサラリーマン家庭の多くの方が当てはまる層です。一方で、遺産総額が数億~数十億円になる資産家は、世間のイメージとは違ってそれほど揉めない印象です。代々大きな財産を相続していたり、普段から弁護士や税理士に相談したりしていて、相続に対する「意識」をもともと持っており、心の準備が整っているのだと思います。

相続で引き継ぐのは、目に見える現金や不動産だけではありません。「あの公園でよく父とキャッチボールして楽しかったな」という思い出や、「人に嘘はつくなとよく母から言われたな」といった生き方など、目に見えないものもたくさん引き継いでいるはずです。形ある財産はいつか無くなってしまいますが、その人の生き方は綿々と受け継がれていくもの。親との思い出や生き方、性格、座右の銘など、自分は親から何を引き継ぐことができたのかプラス思考で考えることが大切です。相続というのは、人生で一番大事な親からの最後の学びの場だと思っています。

『相続格差』 天野隆、税理士法人レガシィ(著) 青春出版社 1067円(税込み)

「きょうだいへの妬み」が相続格差を引き起こす

――心を重視したことで、良い相続になった事例はありますか。

「子どもが思い切り遊べる森をつくりたい」という思いから、ご自身の土地にまるで大きな森のような遊び場を作った男性がいらっしゃいました。その男性が亡くなったあとも、娘さん2人は「お父さんの思いを何とか残していきたい」と考えていました。しかし、駅近という立地の良さと敷地も大きいことから、その土地の半分を売却しなければ相続税を納められないことがわかりました。

そこで、当事務所の税理士が「子どもの森をそのまま公園として維持してくれる財団に寄付する」というアイデアを発案しました。相続税の申告期限までに、特定の公益財団法人などへ贈与による寄付をすれば、その財産は相続税が非課税となる特例があります。私たちは寄付先の財団と交渉し、「子どもの森を寄付した後で売却しない」などきちんと維持・管理してもらえるという約束のうえで、契約を結ぶお手伝いをしました。

寄付するということは手に入るはずの財産を手放すということ。駅近の広大な土地は、不動産の資産価値としてはかなり高かったのではないかと思います。それでも娘さんたちは「父の遺志を未来につないでいく」という方を選ばれました。今でもその公園では地域の子どもたちが遊んでいます。「父親はどれだけの財産を残したのか」ではなく、「父親が何のために残した財産だったのか」という思いを受け継いだ、印象に残っている事例でした。

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――一方で、「心の相続格差」で揉めるのはどういったケースが多いのですか。

心の相続格差がもっとも生まれやすいのは、きょうだい関係です。同じような環境で生まれ育ち、身近な存在で比較する相手だからこそ揉めやすい。例えば、「自分は公立の学校だったのに、兄は私立の学校だった」「妹の卒業式には出席してくれたのに、私の卒業式には来てくれなかった」といった過去に抱いていた不満が相続のときに噴出するケースはよくあります。しかし、よくよく話を聞くと勘違いや認識の違いということも多いです。

つまり、「いくら相続できるか」よりも、きょうだいへの妬みや「あのときの文句をひと言言ってやろう」という心の不幸せ感がトラブルの元になるのです。変えられない過去の出来事に固執するよりも、自分の意識をプラス思考に転換する方が建設的です。我々は依頼者の方の心のモヤモヤを早く察知して耳を傾け、寄り添うことを心がけています。

天野隆さんは、著書の中で「相続で引き継ぐのはお金だけではなく、思い出や生き方も引き継ぐ」と強調しています

その生前対策や節税は、親の気持ちに寄り添えている?

――節税テクニックの「常識」は人間関係では「非常識」ということもあるそうですね。

父親が亡くなったとき、その後母親が亡くなる二次相続のことまで考えて、一次相続で子どもに多く財産を相続させるのは有名な節税テクニックです。しかし、夫婦2人で築いてきた財産に対して、子どもからそのような提案をすることは、果たして母親の気持ちに寄り添っていると言えるでしょうか。夫を亡くして心にぽっかり穴が空いてしまっているときに、頼りの子どもから「節税になるから俺たちに多く相続してね」と言われてしまったら、どんな気持ちになるでしょう。「長男のあの一言で冷めました」と、その後の親子関係がぎくしゃくしてしまった方も実際にいらっしゃいます。

こうしたケースの場合、当事務所では「一次相続はすべて母親が相続する」ことをおすすめしています。しかし、実際には母親が全て相続したケースは5割以下。子どもから「全部お母さんが相続してね」と言われたら、お母さんも「あなたたちにもこれぐらい渡してあげるわ」と言いやすくなるんですよね。つまり、順番が大切ということです。

節税のための生前贈与も同様です。「勘定(お金)」のことばかりを念頭に置いて、「感情(心)」を無視した相続税対策は親が喜ぶものではありません。相続は残された人たちの人生が決まる出来事です。節税ばかりにこだわらず、人間関係やその後の人生の幸せも十分に加味して決めることも重要だと考えています。

――相続税対策として、子どもが主導してできることはあまりないのでしょうか。

おすすめは、親子でコミュニケーションを取ることです。例えば、ご自身の誕生日に1人で帰省して感謝の気持ちを伝える。また、スマホの設定を手伝ってあげるなど困りごとを助けてあげるのも良いでしょう。先日も、実家に電球交換に行ってきたという依頼者の方が、親御さんから「生前贈与の相談がある」と話を持ちかけられたそうです。電球交換が生前贈与につながる、とても不思議なものです。

「親の目に入るところにさりげなく相続関連の本を置く」というテクニックもあるかもしれませんが、その前にやれることはたくさんあります。下心からではなく、コミュニケーションをとって親との関係を良好にすることが、結果的に相続対策につながるのです。

――最後に、良い相続を実現するためのアドバイスをお願いします。

良い相続の鍵を握るのはお子さんたちです。兄弟姉妹は、結婚して別々の家庭になったとしても強烈な利害関係者です。遺産分割協議は相続人全員がそろって相談して決めるものなので、協議する以前から不仲でバラバラでは大変なことになります。お互いにお祝いやちょっとしたお土産を送るようにするなど、良好な関係性の維持を心がけてください。

税理士法人レガシィ

1964年創業。東京メトロ・都営地下鉄「大手町駅」が最寄り駅の大手町オフィスと、みなとみらい線「みなとみらい駅」が最寄りの横浜オフィスがある。相続専門税理士法人として、累計の相続案件の実績は2万6000件を超える。相続専門歴20年以上の税理士を多数抱え、高難度の相続にも対応できることが強み。

(記事は2023年3月1日現在の情報に基づきます)

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