目次

  1. 1. 配当期待権と配当の流れを確認しよう
    1. 1-1. 配当期待権とは
    2. 1-2. 知っておきたい株式配当の流れ
  2. 2. 相続税を申告すべき配当期待権の条件
  3. 3. 配当期待権の評価方法
    1. 3-1. 評価方法
    2. 3-2. 上場株式と非上場株式で源泉徴収税率が違う
  4. 4. 「相続開始日はいつ?」で配当金の扱いが変わる
    1. 4-1. 配当基準日までに死亡:相続人の配当所得
    2. 4-2. 配当基準日の翌日から配当確定日までの間に死亡:配当期待権
    3. 4-3. 配当確定日の翌日から受取日までの間に死亡:未収配当金
    4. 4-4. 受取日の翌日以後に死亡:預貯金等
  5. 5. 配当期待権の注意点
    1. 5-1. 配当基準日や配当受取日を要チェック
    2. 5-2. 配当期待権は遺産分割の対象
  6. 6. まとめ|分からない場合は税理士に相談を

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最初に配当期待権の内容を見てみましょう。

配当期待権とは「将来発生しうる配当を受ける権利」です。

配当の基準日である決算日の翌日以後に株主が亡くなると、配当を受ける権利は相続人が引き継ぎます。そして後日、相続人は被相続人の代わりに配当を受け取ります。配当期待権は相続税の申告の対象となります。

なお、株主の死亡時期によっては、配当期待権ではなく「未収配当金」となります。この区別は後ほど解説します。

配当期待権を理解しやすくするために、まずは株式の配当の流れを押さえましょう。

1.配当基準日(決算日)

配当の元となる株式を発行している会社が決算日を迎えると、配当の金額の指標となる会社の損益が確定します。この決算日の時点で株主名簿に名前が記載されている人に、配当金を受け取る権利が与えられます。

2.配当確定日(株主総会の決議日)

会社の配当は、株主総会の決議を経て確定します。確定して初めて、配当金交付の効力が発生するのです。この後、配当金が支払われます。

3.受け取り日

株主が実際に配当金を受け取る日です。通常、配当基準日から配当の受け取り日まで、2~3カ月かかります。

なお、会社によっては半年に1回、あるいは四半期に1回、決算日を迎えます。四半期決算の会社は年に4回、3カ月ごとに配当基準日があるので注意が必要です。

配当期待権は相続税の対象となります。次の3要件すべてを満たしているものが該当します。

  1. 亡くなった人が配当の元となる株式等を所有していた
  2. 「配当基準日(決算日)の翌日以後から配当確定日(株主総会の日)まで」の間に死亡
  3. 死亡日以後に配当を受け取れる

ただし、実際の判断は少し注意が必要です。亡くなった時点で故人が株式を保有していなくても、配当期待権が生じていることがあります。

配当基準日(決算日)時点で株主なら、配当期待権が生じます。配当基準日の翌日以後に株式を売却し、その後死亡した場合、株式を持っていなくても配当を受け取れるからです。

なお、死亡時期が配当確定日以後だと、後述する未収配当金となります。いずれにせよ、「相続財産に株式が見当たらなくても、配当を受け取る権利が生じている可能性はある」ということです。

配当期待権は相続税法で評価方法が定められています。ただし、株式が上場しているかどうかで金額が変わります。

配当期待権の評価は、税引き後の受取配当金の額となります。計算式は次の通りです。

配当期待権=予想配当金額×(1-源泉徴収税率)×取得株式数

「『予想』配当」とありますが、実際に計算するときは金額が確定していることになります。

計算式の中の源泉徴収税率は、保有する株式が上場しているかどうかで変わります。次の通りです。

  • 上場…20.315%(所得税15.315%、住民税5%)
  • 非上場…20.42%(所得税のみ)

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配当期待権と似たものに「未収配当金」があります。「配当基準日の翌日以後に株主が亡くなったものが該当」「死亡後に配当が受け取れる」が要件なので、配当期待権との違いが分かりにくいのが実情です。また、被相続人の死亡後に受け取る配当金でも、相続税ではなく所得税の対象となるものがあります。

混乱しやすい配当金の扱いを、ここで整理しましょう。

配当基準日(決算日)までに株主が亡くなったら、死亡後に支払われる配当金は相続税ではなく所得税の対象です。受け取った日の翌年3月15日までに、相続人自身の配当所得として確定申告をします。

決算日時点で被相続人は株主なので配当を受ける権利はあるのですが、配当金の金額は確定していません。「今後交付されるはずの配当を受け取る権利」として相続税の対象となります。

未収配当金とは、被相続人が亡くなった時点で受領していない配当金をいいます。株主総会決議後は金額も交付も確定しているので、「期待」ではなく「まだ受け取っていないだけの配当金」として相続税の対象となります。

なお評価額は、配当期待権と同じく「受取配当金の額から源泉徴収税額を差し引いた金額」です。

死亡直前に配当金が被相続人の口座に振り込まれていることになります。そのため、被相続人の預貯金等として相続税の申告をします。

亡くなった時期により、所得税か相続税かの扱いが異なる
亡くなった時期により、所得税か相続税かの扱いが異なる

配当期待権は次の点に注意しましょう。

配当期待権の有無は、亡くなった人の郵便物や預金通帳、証券口座などを調べて確認します。亡くなる前に配当金受領証が届いている、あるいは死亡直後に配当金の振込があるなら、配当期待権か未収配当金に該当する可能性がありますが、郵便物だけで分かるとは限りません。そこで「IRバンク」というサイトで検索します。

IRバンクは、上場企業の経営状況や業績、今後の見通しや決算スケジュールの広報サイトです。ここで企業名を検索すれば、決算短信から配当の受取日を、配当推移から配当金の金額を確認することができます。

配当期待権に伴う配当金は通常、相続人の1人が代表して受け取ります。しかし、この配当期待権も株式そのものと同様、民法上の相続財産です。したがって、遺産分割協議の対象となります。

配当期待権の評価そのものは、比較的シンプルです。難しいのは「配当期待権かどうか」の判断でしょう。お伝えした3要件がすぐに分かる状況ならいいのですが、亡くなったその日に故人の証券口座に株式がなく、会社の決算や配当の情報をつかめなかったら、うっかり申告漏れとなるかもしれません。

「配当期待権があるのかどうかが分からない」「配当期待権なのか未収配当金なのかが分からない」。そう感じたら相続に強い税理士に相談するとよいでしょう。

(記事は2021年6月1日時点の情報に基づいています)

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