目次

  1. 1. 過去の贈与税申告は確実に把握される
  2. 2. 計上もれが税務調査を誘引することも
  3. 3. 贈与税の申告事績を把握するには
    1. 3-1. ご自身の申告内容の確認
    2. 3-2. 他の相続人が被相続人から受けた「相続開始前3年以内の贈与加算」や「相続時精算課税」の申告内容の確認
    3. 3-3. 注意点
  4. 4. 【まとめ】相続税の申告に必要な情報はオープンに

 相続税を計算する際、生前、被相続人から受けた贈与について、相続人の間でトラブルになることがよくあります。特に、相続が発生する前3年以内の贈与に対して、相続税の課税対象になる「相続開始前3年以内の贈与加算」や、上限2500万円の特別控除が認められていますが、相続税の課税対象となる「相続時精算課税」制度を適用した贈与財産については、相続税の申告から計上もれとなることが、よく見受けられます。

 相続税を正しく計算するためには、自分の贈与税の申告を他の相続人に明らかにしないといけない場合があります。しかし、それを知られたくないがために、上記の贈与税の申告をひた隠しにしてしまい、その後の税務調査の段階で税務署から指摘されることがあります。そうなると、相続人の間で、「何で言ってくれなかった?」とか「あなたが隠していたせいで修正申告する羽目になった」と、新たな争いの種になりかねません。

 「ただの申告もれでしょ? 指摘されたときに直せばいいよ」とお考えになる方がおられるかもしれません。しかし、実務では面倒なことになる場合があります。今回は、甘く見てはいけない「贈与金額の計上もれ」について、詳しくご説明します。

「相続開始前3年以内の贈与加算」や、2500万円までは申告すると非課税になる「相続時精算課税」を適用した贈与税の申告事績は、国税庁のデータベースで一元管理されていますので、相続税の申告でこれらが計上もれとなっていれば、確実かつ即座に把握されます。ここまでは特に問題はないのですが、その後の課税実務上の処理を気にする必要があります。

相続税の申告は、申告後、その内容に問題がないか、計算内容はもちろんのこと、税務署(国税庁)で集積している情報などを照らし合わせた上で、税務調査が必要かどうか判断し、そういったことがなければ、審査の処理が完了となります。

そこで、「相続開始前3年以内の贈与加算」や「相続時精算課税」の計上もれがあると、当然のことながら、是正の対象として処理完了とはなりません。
それなら、「さっさと申告誤りを指摘して終わればいいでしょう」と思うかもしれませんが、計算内容の審査は、税務調査が必要かどうかの判断と並行して行われます。

ここで、この税務調査について触れておきましょう。税務調査は、申告納税制度を維持するためのチェック機能として、ひいては適正公平な課税の実現に必要な手続きです。ただ、税務調査によって当初の申告を是正することに、税務調査の存在意義を見いだしているというのが現実です。確かに、是正するポイントのない申告に対して、そもそも税務調査をする必要はありません。「調査によって当初申告をどれだけ是正したのか」という結果が重視されるのは、ある意味仕方がないことかもしれません。毎年、国税庁から発表される「相続税の調査事績」で、「申告漏れ等の非違(申告誤り)件数」の数字がそれを物語っていると思います。

 そのため、是正すべきポイントが既にある申告に対しては、格別怪しい内容ではなく、「おやっ?」と思われる程度のものでも、直ちに税務調査の対象となってしまうおそれがあるのです。

その「おやっ?」と思われた部分が税務調査ですべて解明されたとしても、「相続開始前3年以内の贈与加算」や「相続時精算課税」の計上もれがあれば、その申告は必ず是正されるので、その申告は、結果的に国税庁の発表では、「調査」上で申告漏れ等の「非違」となるわけです。しかも、税務調査によって是正されると、本税に加えて加算税の負担の問題もあります。

つまり、単純な「相続開始前3年以内の贈与加算」や「相続時精算課税」の適用を受けた財産の計上もれが、税務調査を誘引するおそれがあることを否定できないのです。

そういったことから、「相続開始前3年以内の贈与加算」や「相続時精算課税」については、他の相続人であっても、当初申告の時点で、その申告内容を確実につかんでおきたいところです。

そこで、税務署には、相続税の申告に当たって、上記のような贈与税の申告事績を把握するための手続きがありますので、以下にご紹介しておきましょう。

 ご自身が過去に提出した申告書は、「申告書等閲覧サービス」を利用することで閲覧することができます。なお、閲覧した申告書を、一定の同意のもと、スマートフォンなどで撮影することが可能です。

申告書等閲覧申請書
相続税法第49条第1項の規定に基づく開示請求書

 なお、開示される内容については、贈与税の課税価格の合計額を記載した文書が送付されることになります。

 相続税の申告に当たっては、「相続開始前3年以内の贈与加算」や「相続時精算課税」について、上記の閲覧ないし開示請求が可能ですが、あくまでも贈与税の申告がある場合に限られます。

 そのため、特に「相続開始前3年以内の贈与加算」について、贈与税の基礎控除額110万円以下の贈与であったり、その額を超えていても申告をしていなかったりする場合は、把握できないことになります。ただ、税務調査でこういった贈与の事実が明らかになっても、その贈与の当事者でない相続人に対しては、その事実を知らなかったという前提であれば、「相続開始前3年以内の贈与加算」によって増加した部分の相続税額に係る加算税と延滞税が課されることはありません。

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相続税の計算においては、過去の贈与税の申告などが大きく影響します。相続開始前3年以内の贈与はもちろんのこと、とりわけ、贈与税に係る「相続時精算課税」の適用財産については、特別控除額が2500万円ですので、その申告をした当時は課税されていなくても、相続税の申告で計上もれとなると、加算する金額が大きくなることがあります。それを理由に、相続税の計算誤りなどを是正することがあれば、すべての相続人に不利益が生じることがあります。
各相続人の間において、相続税の計算に必要な情報については、自らオープンにするのが望ましいですが、それがままならない状況にあっても、適正な申告を目指して尽力する必要があります。

(記事は2019年10月1日時点の情報に基づいています)