タイ国境に近いラオス国内に2015年11月、建設された中学校があります。埼玉県行田市の社会保険労務士、井上文子さん(67)が、父・田島清作さんからの相続財産1200万円を公益財団法人「民際センター」に寄付して完成しました。
井上さんは「完成して2年後に訪問したら、父の名前が刻まれた校庭の看板の下が花壇になっていたんです。なんだかうれしくて、とても誇らしくて。たとえ遠くても、この同じ空の下に父の生きた証しがあり、人の役に立っている。『お父さん、やったね!』という気分なんです」と、うれしそうに話してくれます。

背中を押した言葉

田島さんは1927年、7人きょうだいの次男として生まれました。家は貧しく、高等小学校を出て働いたそうです。戦後は魚の行商から財を成し、2006年に亡くなりました。遺産は井上さんら子ども3人で相続。そのとき井上さんの夫、一博さんが「自分たちで働いたお金で暮らしていくのが本当の自分たちの生活だから、遺産には手をつけたくない」と言ってくれたことが寄付行為への背中を押してくれました。

田島さんには口癖があったそうです。「たとえ泥棒でも、学力や勉強したことは盗めない。しっかり勉強しなさい」。その思いを考えれば、教育関係に活かしたい。そこで、井上さんが思いついたのは、以前から寄付をしていた民際センター。アジアの子どもたちの教育支援を1987年から継続している民際センターを通じ、学校建設を実現してもらうことにしました。
「なにより、私がとても幸せな気持ちになりました。私も遺産の半分ぐらいは子どもたちに、残りはどこかに寄付するように遺言を書きたいと思っています。父親のお金が社会の役に立てば、子どもたちにもきっと幸せが連鎖していくと思いますから」と井上さんは笑顔で話します。

経済的困難を抱える子どもたちを支援

次に挙げるのは、同じように父親の財産を寄付した女性です。寄付を受けたのは、公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン(CFC)」。経済的に困難を抱える小学生から高校生を対象に、塾や習い事に使える「スタディクーポン」を提供する活動を2009年から続けています。約1100教室・事業所のクーポン取扱事業者から、自分で学びたい分野を選んで利用する仕組みです。これまでに延べ4500人ほどの子どもたちにクーポンを提供してきました。

そんなCFCに、亡くなった父親からの相続財産の一部50万円を寄付した兵庫県の60代女性は、「せっかくのお金は全てを自分のために使うより、少しでも子どもたちの未来への道を広げる役に立てた方がいい」と考えました。CFCの活動は以前から知っていたので選んだそうです。「父も喜んでくれる有効な使い方ができたと思っています」と女性は満足げに話してくれました。

最近、葬儀でいただいた香典をNPOなどに寄付する人も増えているといいます。「ご芳志の一部を故人の供養を兼ねて〇〇へ寄付させていただきました」など、香典返しの品の代わりに礼状をもらうケースもあります。これも故人を思っての寄付という点では、相続財産からの寄付と根は同じといえるかもしれません。

寄付は満足を得られる「自利」

寄付は利他的な行為だと思われがちです。でも、寄付することで満足が得られる「自利」でもあります。相続財産寄付の場合、故人への供養にもなり、グリーフ(悲嘆)からの回復につながるかもしれません。故人を思い、社会や未来を思う。大切な人を喪ったせめてもの代償に、相続財産寄付という選択肢があることを知っていただければと思います。

次回からは、遺贈寄付を受ける側である様々な団体を紹介していきたいと思います。

(記事は2020年11月1日現在の情報に基づきます)