――東京を始めとする、都市部での相続について特徴を教えて下さい。

経験上の感覚としては、三つあります。一つは、相続する財産の価格が高いこと。次に、地方から上京した人が多い点です。きょうだいや親族と顔を合わせる機会が少なく、相続人が分散しており、相続で問題がこじれると、解決までに長い時間がかかります。地方でも関係性が濃密な分、トラブルになるかもしれませんが。最後に三つ目です。これは、あくまで私の感覚ですが、都市部の人は権利意識が高く「平等であるべき」という感覚が強いようです。それに比べ、地方だと「長男に相続させよう」という感覚が強いように思います。

遺言には遺産配分の理由も書く

――トラブルを予防するには、早く準備をすることが大切だと聴きます

「うちは大丈夫」「弟とは大丈夫」「我が子は大丈夫」と思っていても、準備しておいたほうがいいです。きょうだいの考えにズレがあるかもしれないからです。長男や長女は「弟や妹のために我慢してきた」と考えていることがあります。逆に、弟や妹は「兄貴にでかい顔されてきた」とか「姉はいつも新品を買ってもらっていた」と考えていたなど、両者には驚くほど認識の相違があります。そういった不満が相続で噴出することが多いのです。私が相談を受けた際、「どうして、ご納得されないのだろう?」と思っていると、このような双方の感じ方が要因になっていることもあります。
やはり、亡くなられる方も、相続される方も、早いうちから相続を意識したほうがいいです。例えば、被相続人が亡くなった後、財産がどこにどれぐらいあるのか全然分からないことがあります。そうなると、話し合いの前提が分からず、それだけで長引いてしまいます。元気なうちに、預金はどこの銀行にあり、「死んだら生命保険がここから出る」と伝えておくのは良い手段だと思います。
「準備しておいたほうがいい」と、よく言われるのが遺言です。しかし、注意点もあります。遺産の分割方法といった結論だけを書いた内容だと「オヤジは、なんでこんな内容にしたのだろう。オレのことをあんまり大事に考えていなかったのかな」と、相続人が思ってしまうケースがあります。わたしが携わった遺産分割協議の中には、遺言に遺産の配分のほか「○○の配分が多いのは~という理由である。●●が少ないのは生前の~を考えたからである」と理由も書いた実例がありました。「父としての子に対する思いは変わりない。そこをくんで、みんなに仲良くしてほしい」という一文があることで、非常にうまくいった例です。こういった内容を「付言事項」に書くよう工夫してもいいと思います。
遺産が多額な人ほど揉めるということはありません。郊外の小さな家で預金が少々という方でも揉めるんです。財産の多寡と、揉めるかどうかは関係しない気がします。

空き家を相続すると多くのデメリットが

――次に空き家問題についてうかがいます。世田谷区と大田区の空き家が、全国で有数と聴きますが、都市部で空き家が増えている要因はどんなことが考えられますか

いろいろな要因があります。司法書士としての認識は、昔ほど不動産の価値がなくなってきていることです。バブル景気の頃まで、不動産は手に入れたら価格が下がらないと思われていました。ところが、今は都心でも価格の下がることがあります。上がるというよりも、処分しづらい面が目立ってきたと思います。
団塊の世代では、郊外に家を建てるのが成功の証しの一つでした。しかし、その頃に生まれた団塊ジュニア世代が相続を迎えると、郊外の一戸建てはいらなくなります。郊外ではなく、より都市部のものがいいのです。また、いまの若い人が所有にこだわらなくなるなど、社会的な感覚の違いも出てきているのでしょう。
核家族化も影響しています。子どもたちが、それぞれに家を持ち、家庭があると、生まれ育った実家にわざわざ引っ越すことは少ないですよね。築年数が古いと、そのまま実家の扱いが宙に浮いてしまうのです。また、家の構造や設備が古くて使いづらい点もあります。日本では、建物の数が飽和していて、人口減少が進むにつれて、ますますその傾向が高まるのかもしれません。
建築の規制が変わり、再建築できない物件が多くなったことも背景にあると思います。再建築不可だと土地も安くなり、本来のポテンシャルの価格に届きません。行政的な緩和も解消策の一つです。23区内の物件でも、売るのではなくお金を出して引き取ってもらうケースが起きています。空き家をそのままにしておくと、近所に迷惑をかけることにもなりかねません。対応する気力・体力もなければ、一時的に取り壊すお金もなくて、困ってしまう人もいます。一般的な木造家屋でも、解体処分費が200万円近くになる場合がほとんどです。今後の行政からの補助等の支援策が課題の一つとなるでしょう。
相続した不動産は、登記を済ませておかないと、世代が進むにつれて相続人が増えていきます。これが相続登記未了問題です。小さい土地に、何十人という相続人がいる状態にもなり得ます。相続人が増えると、中には一度も会ったことのない人も出てきて、その結果、登記に協力してくれないと、訴訟するしかなくなるなど、多くのデメリットがあるのです。

相続したマンションは「負動産」になる?

――都市部はマンションが多いです。現在、所有している人が亡くなった時、相続はどうなるのでしょうか。

戸建ては木造で古いと、固定資産税は微々たるもの。しかし、マンションは鉄筋コンクリートで作られるなど、固定資産税の下がり方が比較的低いのです。そのままにしておくだけで、固定資産税を払い続けることになります。
戸建てと異なり、マンションには管理費もあります。毎月、修繕積立金も払う必要が生じます。一度大規模な修繕を終えても、その後、あらためて必要になると、各戸あたり数百万円が必要になることもあり得ます。親が住んでいた居室を相続して修繕費用を出せないと古くなり、価値が下がって負のスパイラルに陥る可能性があります。しかも、マンションは、自分の居室だけを壊せません。かといって、管理の状態が悪く物件の魅力が低下すると買い手もつきません。今の法律では、不動産を完全に放棄することはできないので、そんな事態になったら、マンションは相続人の負担になってしまうのです。問題を解決するには、将来、法律を作ったり、改正したりする必要があるでしょう。

少子高齢化が進む中、司法書士の活躍の場が広がっていることを強調する野中政志会長(右)と安藤剛史・広報部次長
少子高齢化が進む中、司法書士の活躍の場が広がっていることを強調する野中政志会長(右)と安藤剛史・広報部次長

――相続を巡ってトラブルが起きた時、司法書士は、どのように支えてくれるのでしょう。

極端なことを言えば、司法書士は相続税の申告以外、ほぼ何でもできます。「遺産分割協議の代理人は弁護士しかできない」と言われますが、これは「遺産分割協議は、弁護士しか関われない」という意味ではありません。誤解されることが多い点です。確かに、相続を巡ってトラブルになった時など、協議の代理人は弁護士しかできません。しかし、複数の相続人に、遺産の分け方やメリット・デメリットなどを説明するのは司法書士でもできるのです。相続人が納得できれば協議書を作って、署名捺印していただきます。相続は、家の中のことなので、当事者同士で話すのが、やはり一番望ましいことです。代理人を立てるのは、遺産の取り合いのようなことが起きている時で、結果的にきょうだいの縁を切るようなことにもなりかねません。遺産分割協議の進め方といった基本的な説明やアドバイスなら、司法書士が遺産分割協議書の作成から相続登記まで携われます。例えば、預金を解約して送金する手続きなど、私も頻繁にしています。相続を巡る手続きのうち、それぞれの士業しかできないことはありますが、基本的な知識は、通常のレベルの士業なら問題ありません。相続税の申告がいる場合、本人が申告するか税理士に頼むかの二択です。事実上、財産を分け終わるまで司法書士が対応できます。司法書士という名称の通り、裁判手続きの書類を作成することも可能です。

少子高齢化社会での司法書士の役割

――高齢化が進む中、成年後見制度など、司法書士の活躍の場は広がっています。今後、司法書士は、悩みに寄り添っていけるのでしょうか

あまり知られていないのですが、司法書士は、明治5(1872)年、弁護士や公証人と同時に誕生しました。日本で一番古い士業です。歴史が移り変わる中で、不動産や会社の登記業務が増えてきた経緯があります。ところが、これからは登記の量が減り、不動産の価値も下がることが予想されます。逆に、ニーズが増すのは、少子高齢化が進む中での成年後見と財産管理の二つだと思います。幅広い法律の知識が不可欠で、司法書士は最適任です。登記や成年後見の知識は、弁護士に比べて司法書士が上回っています。司法書士は、さまざまなパイプを持っています。弁護士はもちろん、税理士や土地家屋調査士など、ネットワークを広げています。そういった意味でも、相続のことは、まずは司法書士に相談してもらいたいです。

(記事は2020年10月1日時点の情報に基づいています)