不動産活用をよりよい投資に 方向性示す「住生活基本計画」とは
見通しの立たない時代と言われて久しく経ちました。この様な時代にどのように未来を予測し、行動したら良いでしょうか?不動産の活用を考える上で一つのヒントになるのが、定期的に見直されている「住生活基本計画」です。立案の背景なども振り返りながら解説していきます。
見通しの立たない時代と言われて久しく経ちました。この様な時代にどのように未来を予測し、行動したら良いでしょうか?不動産の活用を考える上で一つのヒントになるのが、定期的に見直されている「住生活基本計画」です。立案の背景なども振り返りながら解説していきます。
未来を予測して行動を起こすには、2つの考え方があると思います。
一つは「自分のモノサシ」(ライフプラン)を持ち、自主的に行動することです。
もう一つは「みんなのモノサシ」(経済状況)など環境を的確に先読みし、準備をすることです。
長い人生、どうしても「世の中の流れにあらがわなければいけない」ことがあります。今回の「コロナショック」のように、避けられない事件や事故、災害などのアクシデントもあります。そのようなアクシデントに遭った場合、最悪の状況から可及的速やかに自分が望み安心できる状況に戻せるよう、日頃から生活することが大切です。
なかなか、先行きが見えない世のですが、不動産活用では予想できる未来もあります。
例えば、2020年以降、土地活用に関わる不動産分野については様々な諸制度が変わっていきそうです。その一つが、国土交通省が定期的に見直している住宅政策の「住生活基本計画」です。2021年に次の見直しを控えています。
賃貸住宅をメインに土地活用をされている方にとって、法律や税制の変更はどうしても自分でコントロールできない領域です。ですから、この様な未来の道しるべになるような計画を出来るだけ早く知り、事前に準備しておくことは、より良い投資をするためにもプラスになります。
「住生活基本計画」とは、2006年にできた「住生活基本法」という法律に基づき、5年に1回決められる住宅政策の根幹になる計画です。
それまでの日本の住宅政策は「量」的な充足を目的とした住宅供給計画でした。ただ、2010年を境に人口減少に転じることが確実になり、住生活という「質」を重視した政策にする必要があったため、新たに法律を作り、政策自体を方針転換しました。
具体的には、それまでのスクラップ&ビルドという新築を中心においた発想から、中古(既存)に補修や改修などを施して末永く使っていく発想に変わりました。実際に、2000年以降、環境問題が叫ばれ、住宅などが排出する温室効果ガスも多いと言われているため、変化が求められます。
実際、最近では気候変動による天災の多発化と激甚化が顕著になっていますから、住宅が多くなればなるほど、温室効果ガスが増えていくことになれば無視することはできません。このことを踏まえると、投資以外の観点も住宅政策では重要と言えます。
この住生活基本計画を策定する際に参考にされるのが、不動産の基幹調査である「住宅土地統計調査」です。議論は、この統計調査に基づいて進みます。実際、統計趣旨にも以下のような説明があります。
「この調査は、多様化している国民の居住状況や少子・高齢化等の社会・経済状況の変化を踏まえ、住宅のストックのみならず、少子・高齢社会を支える居住環境、耐震性・防火性といった住宅性能水準の達成度や省エネルギー性能住宅、土地の有効利用状況を明らかにすることをねらいとしています。特に住環境対策として空き家対策の重要性は年々高まっていることから、空き家を含めた住生活の実態を把握します」
前回、2016年に「住生活基本計画」が3回目の計画立案を迎えた際には、「住宅土地統計調査」を参考に、実家の空き家問題がクローズアップされ、その後の住宅政策の方向性を決定づけました。この時は、主に地方や郊外の木造一戸建ての空き家を対象にしていたので、その後、木造一戸建て住宅の不動産鑑定基準の変更やリバースモーゲージ制度の整備などにつながりました。
実は、「住生活基本計画」の方向性に影響をもたらす「住宅土地統計調査」も、5年に1度、調査が行われます。2018年に行われた調査結果が2019年以降、順次公表され、空き家率は過去最高を更新し、住宅の大規模化、高齢化が進んでいることを物語っています。
このため、2021年に新たに作成される「住生活基本計画」は、日本社会の高齢化と人口減少がより進行する中での立案になるとみられます。実際、団塊の世代が後期高齢者になる2025年を目標に、財政面の観点から社会保障制度などの改正が急がれています。
空き家問題も都市機能を維持するため、地方や郊外から都市部へ、一戸建て住宅からアパートやマンションなど集合住宅へ、それぞれ問題がシフトしつつあります。ですから、今回の基本計画では、主に都市部のアパートやマンションなど集合住宅の老朽化がクローズアップされそうです。
同時に、災害も激甚化して増加する中、災害対策の備えにも関心が寄せられそうです。現在の耐震基準(新耐震基準)は、1981年6月に建築確認申請をした建物から適用され、次期計画設定時には築40年の建物が出はじめます。つまり、建物自体の高齢化問題(老朽化)が顕在化してきます。その問題に備えるための方策・・・つまり、管理の重要性がクローズアップされます。
国土交通省の調査によると、現在、日本の住宅のうち、借家の総戸数は1,852万戸あり、総住宅数の35. 5%を占めています。また、借家のうち、共同住宅は1, 579万戸あり、総住宅数の30. 3%を占めています。
また、「今後20年の貸家の戸数は、築30年超の貸家が現在1,186万戸あるのに対し、20年後には約1.5倍の1,808万戸(622万戸増)に増加すると推測される。特に、築50年超の貸家は、20年後に約3.5倍の830万戸、築「40年超は約2.0倍の1,374万戸に増加するものと推測される」と高齢化・老朽化した集合貸家住宅が増加することを予測しています。
このような老朽化する民間賃貸住宅が増加する中、サービス付き高齢者向け住宅やシェアハウス、DIY賃貸住宅など居住者側のニーズの多様化も進み、賃貸経営をめぐる社会経済情勢は確実に変化しています。
今後、このような多様化する居住ニーズに合わない賃貸住宅は時代遅れとなり、空室率の上昇や家賃水準の引き下げを強いられる可能性が高いでしょう。そうならないためにも、土地活用を行っている大家さんには、自分自身の賃貸住宅を効率的・効果的に維持・管理していく意識がこれまで以上に求められます。
近年のサブリース問題や大手管理業者の建築違反など、賃貸管理系のトラブルは後を絶たないことから、近い将来、住宅の管理業務の適正化を図るために2011年より任意で行われている「賃貸住宅管理業者登録制度」が義務化する可能性が高いと私は考えています。
義務化が始まる備えとしては、まずは、自分自身が現時点の賃貸経営の事情や物件状況を的確に把握することから始めましょう。そして、適切な修繕の実施(計画修繕)を含め、今後の賃貸住宅経営をどのように行っていくか主体的に検討していく必要かあります。
(記事は2020年3月1日時点の情報に基づいています)