目次

  1. 1. 相続時精算課税制度とは
    1. 1-1. 2500万円まで贈与税がかからないが、相続税で精算する仕組み
    2. 1-2. 適用対象者
    3. 1-3. 相続時精算課税制度選択届出書など必要書類の提出が必要
    4. 1-4. 累計2500万円を超えたら20%の贈与税がかかる
  2. 2. 新しい相続時精算課税制度の変更点「110万円の基礎控除」
    1. 2-1. 【図解】年110万円の基礎控除に贈与税はかからない
    2. 2-2. 贈与税の申告が不要に
    3. 2-3. 年110万円の基礎控除なら相続税がかからない
  3. 3. 相続時精算課税制度の新旧での比較
    1. 3-1. 贈与税の計算方法
    2. 3-2. 贈与税の申告手続き
    3. 3-3. 相続財産に加算する贈与財産
  4. 4. 新しい相続時精算課税制度のメリット
    1. 4-1. 年110万円までは暦年課税のような生前贈与加算がない
    2. 4-2. 賃貸不動産を贈与すれば、収益の分だけ相続税の節税ができる
    3. 4-3. 将来値上がりが期待できる財産がある場合は、相続税を抑えられる
  5. 5. 相続時精算課税制度の注意点
    1. 5-1. 暦年課税制度には戻れない
    2. 5-2. 年110万円を超えたら贈与税申告が必要になる
    3. 5-3. 小規模宅地等の特例が使えなくなる
    4. 5-4. 判断と計算が非常に面倒
  6. 6. 暦年課税制度と新しい相続時精算課税制度、どちらを活用するのがいいの?
    1. 6-1. 暦年課税制度が向いている人
    2. 6-2. 相続時精算課税制度が向いている人
  7. 7. 相続時精算課税制度について、よくある質問
  8. 8. 相続時精算課税制度を活用するときは税理士に相談を

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改正前の相続時精算課税制度は、生前贈与する時は2500万円(特別控除)まで非課税の一方で、贈与した人が亡くなった時に、その贈与した財産を相続財産に足し戻して相続税を計算し、まとめて相続税として納める制度でした。

たとえば、1億円の財産を持っている男性が、長男に相続時精算課税制度を使い2500万円を贈与した場合、長男は贈与税を支払う必要はありません。しかし、男性が亡くなった際に、男性の遺産7500万円に、この制度で贈与した2500万円を足した1億円が相続税の対象となります。したがって、この2500万円の特別控除は税金の支払いを将来に先延ばししただけとも言え、節税につながるわけではありませんでした。

相続時精算課税制度に2024年1月から大きな変更が加わりました。特別控除の2500万円とは別に、年110万円までの基礎控除が認められ、年110万円までの贈与なら贈与税がかからず、相続税への足し戻しも不要になります(基礎控除についての説明は後述します)。

相続時精算課税制度はすべての人が選択できる制度ではありません。60歳以上の父母や祖父母(贈与者)から18歳以上(2022年3月31日以前の贈与により財産を取得した場合は20歳以上)の子や孫(受贈者)に対して財産を贈与した場合において選択できる制度です。

相続時精算課税制度を選択する場合、最初に贈与を受けた年の翌年3月15日(贈与税の申告書の提出期限)までに、相続時精算課税選択届出書及び一定の書類を贈与税の申告書に添付して税務署へ提出しなければなりません。

相続時精算課税制度は、相続時精算課税選択届出書を提出した贈与者と受贈者間の贈与財産が累計2500万円(特別控除)になるまでは贈与税がかかりません。一方で、特別控除の累計が2500万円を超えた場合は超えた部分に対して一律20%の贈与税がかかります。

今回の改正によって加わった「年110万円までの基礎控除」について詳しく説明します。

2024年1月から適用された今回の改正により、特別控除の2500万円とは別に年110万円まで基礎控除が認められました。そのため、年110万円以下の贈与であれば贈与税がかからず、かつ、累計2500万円の特別控除に含める必要がありません。

以下は、新しくなった相続時精算課税制度の図解です。控除が「2500万円」「110万円」の2つになった、と考えるといいでしょう。

新しい相続時精算課税制度(2024年1月〜)を図解。累計2500万円までの特別控除とは別に年間110万円まで基礎控除が認められます
新しい相続時精算課税制度(2024年1月〜)の図解。累計2500万円までの特別控除とは別に年間110万円まで基礎控除が認められます

改正前の相続時精算課税制度は少額の贈与でも贈与税申告が必要で、10万円など少額贈与でも常に申告しなければなりませんでした。しかし、改正によって年110万円以下の贈与については贈与税申告が不要になりました。

相続時精算課税制度では、すべての贈与財産を相続財産に加算して相続税を計算しなければなりませんでしたが、今回の改正により年110万円までの贈与財産は相続財産に加算する必要がなくなります。

以前の相続時精算課税制度と、新しくなった相続時精算課税制度の違いを整理すると、以下のようになります。

旧制度:(贈与額-2500万円)×20%
新制度:((贈与額-年110万円)-2500万円)×20%

旧制度:少額であっても、贈与の都度申告が必要
新制度:贈与の都度申告が必要だが、年110万円以下の贈与は申告不要

旧制度:相続時精算課税制度を適用したあとのすべての贈与財産
新制度:相続時精算課税制度を適用したあとのすべての贈与財産だが、年110万円の贈与財産は除くことができる

上記のように旧制度は「少額の贈与であっても申告が必要」と手続き面でハードルが高く、また節税の効果も実質的にはなかったため利用件数が増えませんでした。しかし今回の改正によって、「110万円までなら贈与税も相続税もかからず、申告もいらない」となれば、利用者側のメリットが大きくなります。

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「110万円までなら贈与税も相続税もかからず、申告もいらない」以外にも、新しい相続時精算課税制度には、多くのメリットがあります。

年110万円以下の贈与であれば非課税となる「暦年課税制度」では、相続開始前7年以内の贈与は無かったことにされ、相続財産に加算します。このことを「生前贈与加算」(※)と言います。

一方で、相続時精算課税制度は年110万円以下の贈与は期間関係なく生前贈与加算の対象になりません。相続税に影響を与えず贈与のみで完結できることは大きなメリットの一つと考えられます。

(※)これまで暦年課税制度における生前贈与加算は相続開始前3年以内の贈与が対象ですが、2024年から7年に変更されました。2024年1月1日以降の贈与については、段階的に生前贈与加算の期間が延長されていき、2031年1月1日からは完全に7年間の加算期間に移行されます。

賃貸不動産のような収益性がある財産の場合、相続時精算課税制度の2500万円の特別控除を使って早期に贈与することにより、賃料は受贈者(子や孫)が得ることになります。贈与者(親や祖父母)は賃料を得られなくなるわけですが、これによって現預金の増加を抑制することができます。現預金も贈与者が亡くなったときには相続財産になるため、収益の分だけ相続税の節税をすることができます。高配当の株式についても同様の効果があります。

相続時精算課税制度のメリットは贈与時の価格で相続財産に加算することができることです。これを利用して将来値上がりの期待できる財産を早めに贈与すれば、相続税を抑えることができます。また、一時的に暴落した株式などを贈与することも同様の効果があります。

今回の改正により相続時精算課税制度のメリットが高まる一方で、次のような注意点もあります。

  • 暦年課税制度には戻れない
  • 年110万円を超えたら贈与税申告が必要になる
  • 小規模宅地等の特例が使えなくなる
  • 判断と計算が非常に面倒

一度選択した相続時精算課税制度は暦年課税制度に戻ることはできません。年110万円までは贈与税がかからず相続税もかからないことに心惹かれ相続時精算課税制度を選択してしまうと暦年課税制度に戻れない点は認識しておきましょう。相続時精算課税制度を選択する場合は、選択する前にきちんと検討をする必要があります。

改正により年110万円の基礎控除が創設されましたが、メリットがあるのは年110万円までです。110万円を超える場合は贈与税申告が必要になり、超えた部分に対しては相続開始前の期間に関係なく必ず相続財産に加算する必要があります。

また、贈与税申告が期限後申告になると2500万円の特別控除枠を利用することができず一律20%の贈与税が課税されますので、申告期限にも注意が必要です。

相続時精算課税制度を選択して土地などを贈与した場合、その土地は小規模宅地等の特例を使うことができません。贈与税がかからなかったとしても、小規模宅地等の特例が使えないことでかえって相続税が高額になる可能性がありますので、小規模宅地等の特例が適用できそうな土地を贈与する場合は慎重に検討する必要があります。

【関連】小規模宅地等の特例とは? 適用要件から計算例、必要書類までわかりやすく解説

今回の改正によりこの制度が利用しやすくなった反面、どこまでが基礎控除の範囲でどこからが相続税の対象になるかきちんと記録していないと、いざ相続が発生したときに相続財産に加算する贈与財産の計上漏れや過大計上が生じる可能性があります。したがって、手間が増える部分もあることに注意する必要があります。

暦年課税制度と、相続時精算課税制度についてどちらを選択するほうがよいのでしょうか。個別の事情によって変わりますが、以下に事例を紹介します。

【60歳未満の人】
相続時精算課税制度を選択できるのは60歳以上の父母や祖父母との要件があるため、60歳未満であれば、暦年課税制度を選択せざるを得ません。60歳以上になった時点で、相続時精算課税制度に切り替えることもできます。

【60歳は超えたが、まだまだ元気で期間7年より時間がある人】
元気なうちから贈与を開始することで、相続開始前7年を経過した贈与は生前贈与加算の対象外になり相続税を軽減することができます。

【孫へ贈与する人】
相続財産をもらわない孫は相続開始前7年以内の贈与でも生前贈与加算の対象外になり、相続税を軽減することができます。

【余命わずかな高齢者】
長期にわたる贈与が困難な場合、いつ亡くなっても年110万円以下の贈与は相続財産に加算されない相続時精算課税制度を活用するほうがよいでしょう。

【年110万円以下でしか贈与しない人】
年110万円以下でしか贈与をする予定がない場合、生前贈与加算をする必要がない相続時精算課税制度を活用するほうがよいでしょう。

【将来値上がりしそうな不動産や株を持っている人】
相続時精算課税制度による贈与を相続財産に加算する場合は贈与時の評価額で加算するため、値上がりする前に贈与することで相続税を軽減することができます。

【特殊事情で一時的大幅に下落した資産を持っている人】
一時的に価値が下落している資産を持っている場合、そのタイミングで贈与することにより、下落時の評価額で相続税を計算することができます。

どちらが適切な選択かは、個別の事情によって変わりますので、事前に税理士に相談することをお勧めします。

Q. 相続時精算課税制度の申告を忘れたらどうなりますか?

最初に贈与を受けた年の翌年3月15日までに税務署へ一定の書類を提出しないと相続時精算課税制度が適用されません。そのため、暦年課税制度の贈与として贈与税を計算することになります。なお、最初に贈与を受けた年の贈与が110万円以下で贈与税の申告が不要な場合でも、期限までに相続時精算課税選択届出書など一定の書類の提出は必要になります。

Q. 相続時精算課税制度を利用しても、相続放棄はできますか?

相続時課税制度を利用して贈与を受けた場合でも、相続が発生した際に相続放棄をすることはできます。ただし、すでに受け取った贈与財産に係る相続税については課税されます。

今回の改正により利用しやすくなったとはいえ、相続時精算課税制度は相変わらず慎重に選択すべき制度です。

一度この制度を選択してしまうと暦年課税制度に戻ることができないうえに、年110万円の基礎控除の計算が今まで以上に複雑になります。自ら贈与税申告を行うとミスが生じる可能性があります。

そのため、相続時精算課税選択届出書を提出する前に、この制度を選択するタイミングや将来の相続のことも考えて本当に選択したほうが良いのかどうか、相続に強い税理士に相談することをお勧めします。

(記事は2024年1月1日時点の情報に基づいています)

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