家族信託の受託者を一般社団法人にする際の注意 家族の世代交代など長期的なケアを
家族信託で親(委託者)の資産管理をする際、個人で行うよりも法人格をとった方がより安定した運営ができるといいます。なかでもおすすめなのが一般社団法人、しかし注意点があります。本末転倒にならない長期的なリスク管理のあり方を、宮田浩志司法書士が読み解きます。
家族信託で親(委託者)の資産管理をする際、個人で行うよりも法人格をとった方がより安定した運営ができるといいます。なかでもおすすめなのが一般社団法人、しかし注意点があります。本末転倒にならない長期的なリスク管理のあり方を、宮田浩志司法書士が読み解きます。
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受託者の死亡リスクを排除するため、法人を受託者とする方策があることを前回ご説明しました。ここでは、法人受託者の課題や注意点について考えてみます。
まず、受託者となる法人をどうするかという点につき、家族内で資産管理法人を既に持っているなら、それを活かす方法が考えられます。つまり、その法人(主に不動産の管理を目的とした法人であることが多い)が親の財産を「管理委託契約」に基づき管理している場合に、管理委託契約から「信託契約」に切り替える方法です。
この方法ですと、管理会社に対する「管理委託報酬」を受託者に対する「信託報酬」に実質的に名目を変えるだけで済むため、家族信託の仕組みにスムースに移行できます。
なお、前回ご説明した通り、既存の法人を受託者として活用する際には、その会社の定款の事業目的を一部変更して、信託業法の適用を明確に排除することが望まれます。
さて、受託者法人として利用するための法人を新たに設立する場合は、株式会社よりも一般社団法人が適しています。
(後述の通り、一般社団法人の運営には気を付けなければならない点もあります。)
一般社団法人の場合、家族内の複数人(=「社員」)で設立しますが、運営は原則社員が皆平等に議決権を持つことになり、社員による多数決を原則とします。そして、社員たる地位は財産的価値がなく、遺産相続とは切り離して考えることになりますので、一般社団法人を構成する社員が死亡した場合、新たに社員となる者の入社資格については、定款において決めておくことになります。
一方、株式会社は、出資金額に応じて株式を保有するため(その出資者を「株主」と言います)、出資額が多い株主が実質的に会社の経営権を握ることになります。また、その株主が死亡すれば、株式が財産的価値を持つので、誰が遺産たる株式(=株主の地位)を引き継ぐかという遺産相続の問題と会社の経営権の承継問題をセットで検討することになります。
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相続の相談が出来る司法書士を探す一般社団法人の運営は、多数決による意思決定を原則とする以上、社員の頭数が重要になります。
たとえば、委託者である親に既婚の3人の息子がいるとします。長男には4人の子、二男には2人の子、三男には1人っ子、とした場合、社員の死亡に伴う新たな社員の入社資格を単に「死亡した社員の直系卑属全員」とすると、将来的には子が多い長男家族がこの受託者法人の経営権(実質的には信託財産の管理処分方針)を掌握することになってしまいます。
つまり、法人受託者による長期的な財産管理を遂行していく中で、社員も死亡等の事由で入れ替わることを想定し、法人運営における多数決のパワーバランスも考慮して、社員の入退社の規定を定款できちんと決めておく必要があります。
先ほどの例でいうと、3兄弟の死亡後は、その後任となる社員は各3家族につき1人ずつに限定するという案も考えられます。その他、社員全員の協議により入社する者を決めるとか、様々な規定が考えられるので、個々の家族構成や人間関係を考慮した将来の法人運営を巡るトラブルを未然に防ぐ知恵が求められます。
最も避けたいのは、遺産相続とは別の法人運営というステージで兄弟間の確執・紛争(いわゆる“争族”)が勃発し、親の財産の管理運用業務がストップすることです。昨今、受託者法人として一般社団法人の活用が注目されていますが、個人を受託者とする場合と一般社団法人を受託者とする場合について、20年、30年先の財産管理を見越して、そのリスク・メリットなどをきちんと比較検討すべきです。
その上で、法人受託者にする場合は、長期にわたる財産管理もさることながら、長期に及ぶ法人の組織設計(社員の入退社規定も含め)・運営指針を家族内でしっかりと話し合っておくことが必要です。
引き続きこの連載では、家族信託に必要な知識やトラブル予防策を読み解いていきます。
(記事は2020年6月1日時点の情報に基づいています)