前回記事は「家族信託で利益を受ける『受益者』に通知は必要? 贈与との違いを解説」。

当事者以外の家族も交えて話し合う

家族信託契約における当事者は、財産を持つ親(委託者)とその財産管理を担う子(受託者)というのが典型です。したがって、契約締結にあたり契約当事者とならない家族の同意は法律上必要ありません。また、信託契約に定められた予備的な受託者(第二受託者、第三受託者)や次順位の受益者(第二受益者や第三受益者、残余財産の帰属権者)、信託監督人なども、信託契約書に調印する必要はありません。

しかし、家族信託を委託者・受託者の二者間の問題として捉えるのはお勧めできません。家族信託の導入を検討する(老後の認知症による資産凍結対策や円満円滑な資産承継対策などの相談)にあたっては、その初期段階から、委託者である親と受託者となる子はもちろんのこと、推定相続人となる配偶者や他の子も交えた家族全員が話し合いのテーブルにつくこと、いわゆる「家族会議」で話し合うことを原則として考えるべきです。

いくらかかるのか?親の収支を家族で共有

家族全員が揃う「家族会議」では、次の2つの議題(情報)について、家族内で正確に認識(情報共有)することがとても重要です。

一つ目は、現在の「親の保有資産」や年金・不動産所得などの収入と生活費・医療費・介護費用等の支出を踏まえた「今後の収支予測」の情報です。「親の保有資産」については、相続税評価額(親が亡くなった時に相続税の申告と納税が必要になる場合のその評価算定基準)だけではなく、時価(今その財産を売却したらいくらになるか)とその時価の動向(今後値上がりするのか、値下がりするのか)を把握するのが理想的です。

「今後の収支予測」は、もし親が要介護状態になったら在宅介護をすべきか、施設に入所すべきかを踏まえ、年間収支がプラスになるかマイナスになるかの予測を立てておくと、預貯金・有価証券等の保有資産を今後どのように消費していくべきかの備えができて大変有効です。

情報格差を防ぎ、もめごとの可能性を絶つ

一つ目は、客観的な“事実”に基づく情報でしたが、二つ目は、親やその家族の“想い”に関する情報です。親が考える今後の生活の希望や財産の管理・活用・処分方針、子世代にとっては、親をどのように支えるか(親がこの先病気や認知症になった場合、誰が主体となって介護等を担えるかなど)、その先の資産承継についての要望(実家を引き継ぐ子がいなければ、親が亡くなった後は実家を売却して子世代が金銭で分けたいなど)も伝えるべきです。この親子の要望のすり合わせをしている家族は思った以上に少ないのが現状と言えます。

“事実”と“想い”について、家族内で情報格差・認識の食い違いが起きることは、家族の人間関係に将来的な憂い・確執を生みかねません。家族全員が“事実”と“想い”を情報共有し、共通認識の下、親の財産管理や将来の資産承継について「自分のこと」として当事者意識を持った話し合いを行い、そこに専門家の知恵を借りることで、将来の“争族”とは無縁の、安心の老後の財産管理と円満円滑な資産承継の理想的な形を実現することができると考えます。

(記事は2020年1月1日時点の情報に基づいています)