目次

  1. 家族信託にお手軽な「ひな型」なし
    1. 条文数が40条前後、またはそれ以上ある契約書
    2. 必要のない項目がある

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「家族信託契約の“ひな型”はありますか?」

以前から、このような質問を数多くの法律専門職から受けます。一方で、問題の多い契
約書の“ひな型”的な書式例が書籍やインターネット等で出回っているのも事実です。

結論から申し上げますと、家族信託の契約書には、“ひな型”、いわゆるテンプレートというものは存在しません。書籍やインターネット等で出回っている信託契約書は、「こういう事例を想定した場合に、こういう信託契約書を作成することが一例として考えられますよ」というあくまで“回答例”に過ぎません。委託者となる親の保有資産の規模・内容、家族構成とそれぞれの年齢・健康状態・居住地、親側の想い・子側の想いが異なれば、設計が変わってくるのは当然のことです。

しかし、法律専門職の中には、書籍やインターネット等で表面的な情報しか収集していない人が見受けられます。こうした人たちは、その“回答例”に従って、個々のお客様の当事者情報を当てはめれば、信託契約書ができると勘違いしているようです。つまり、「家族会議」において、家族が揃った中で、親側の想い・希望と、それを踏まえた子側の希望・覚悟をすり合わせる作業を経ずに、短絡的に信託契約書を作ってしまうケースが散見されます。
このようないい加減な法律専門職が関与して作成した“危ない信託契約書”が、この先大きなトラブルを巻き起こさないか、非常に心配です。

今回から2回に分けて、どういうものが“危ない信託契約書”か、その代表的なものをご紹介します。

条文数にして60条以上ある「商事信託」(※信託銀行や信託会社に費用を支払って管理や運用をお願いする信託の形態のこと)の信託契約書をベースとして、その条文をできる限り削って、40条前後に体裁を整えた信託契約書を散見します。条文が少なければ良いというわけではありませんが、家族信託の契約書と信託業法で制約を受ける商事信託の契約書とでは、根本的な考え方が異なることをまず理解しなければなりません。

「商事信託」の契約書は、金融庁の監督下に置かれている信託銀行・信託会社がお客さんとのトラブルを起こさないために、受託者の権限と責任の範囲を明確にすることを主眼として、事細かに規定が盛り込まれています。それに対し、「家族信託」の契約書は、家族間の信頼関係を前提とした上で、委託者たる親側の“想い”を実現するために、それを支えてくれる子にどんな権限を与え、何をしてもらうかを明確にすることを主眼としています。

書籍やインターネット等で見られる“回答例”たる信託契約書には、「信託監督人」や「受益者代理人」などの契約当事者以外の信託関係人が記載されているケースが多いです。そうすると、家族構成やそのニーズによっては、本来置く必要のないこれらの信託関係人についても、家族の誰かを当てはめて無理に置くケースも散見されます。信託契約書は、原則オーダーメイド(自由設計)という考え方を前提とするので、すべての条項について、それを置く意味あるいは置かない意味を、作成に関与した法律専門職はきちんと説明できなければなりません。「“回答例”に記載されていたから」は、理由になりませんので、家族皆が理解できるような説明を専門職に対して求めましょう。

次回も引き続き「危ない」契約書の見分け方について解説します。

さらに家族信託を知りたいという方には、前回のコラム「家族信託は当事者以外の相続人に承諾を 家族会議でもめごと防ぐ」などバックナンバーもあります。

(記事は2020年2月1日時点の情報に基づいています)

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