2019年12月、神奈川県庁で使われていたハードディスク(HDD)が転売されていた事件が朝日新聞で報じられ、全国で話題になりました。これを受けてか、年末年始には故人のデジタル機器の処分方法について相談を受ける機会が増えた印象があります。編集部からも次の質問を受け取りました。

質問:「亡くなった家族のノートパソコンを処分したいと思っています。中身を空っぽにすれば、情報漏洩リスクはなくなりますか?」

HDDの物理的な破壊が一番確実

パソコンのデータはHDDなどの保管装置に保存されます。中身を完全に空っぽにしてしまえば、元の持ち主の痕跡は確かになくなるでしょう。しかし、それは案外、至難の業なのです。

分かりやすく、たとえ話で説明しましょう。大きな一室を使った図書室を思い描いてみてください。何列も並ぶ書棚には、管理ラベルを貼った所蔵書がズラリと並びます。本の貸し借りや閲覧希望があったとき、司書さんは管理ラベルに従って置き場所を特定して本を利用者に渡します。HDDでデータを管理するのもこれと同じで、各データに管理ラベルを貼ることですぐにアクセスできるようにしています。

すぐに復元できることも

パソコンでデータを削除すると、この管理ラベルが剥がされます。しかし、本体は書棚にそのまま残っています。ラベルがないので、普通の方法では見つけられなくなるだけです。本体が消滅するのは、置かれた棚に新たなデータが追加された、つまり上書きされたときです。それまでは手間暇かければ、すぐに復元できてしまいます。

このため、図書館(HDD)の書棚にある本をすべて上書きしなければ、本当の意味ではデータを消去できません。専用の完全消去ソフトやプログラムを稼働させる必要があります。

さらにいうと、書棚から落ちてしまって、部屋の片隅で気づかれずにいるデータが、かすかに残っていることもあります。その消去は、上記の方法でも不可能です。

完全破砕が確実

つまるところ、一定期間使ったHDDを完全に空っぽにするのは、相当難しいのです。パソコンのリユース企業には、HDDは物理的に破壊して、新しいものに付け替える、と明言しているところも多くあります。パソコンショップの買い取り窓口でも「HDD破壊サービス」のポスターをよく見かけます。

このため、故人のノートパソコンを処分するなら、HDDの破砕を保証している信頼性の高い企業に引き取ってもらうか、HDDの破砕サービスを依頼したうえで処分を考えるのが確実だと思います。

暗号化で漏洩リスクを軽減

ほかの方法もあります。普段から暗号化を設定することです。100%ではありませんが、機器を手放した後の情報漏洩リスクは、ずいぶん抑えられます。

暗号化は、データをそのままにしておくのではなく、一定の法則で別のものに変えて保存します。「ABC」というデータを「DEF」と変換して保管して、呼び出すときは「DEF」を「ABC」に戻します。図書館の出入り口に特殊なゲートを設け、本を別のものに変えるようなイメージです。

メリットは、図書館(HDD)から本が抜き取られても、ゲートとセットでなければ、中身が見られる心配が限りなくゼロに近くなることです。

意外と簡単な暗号化

実は現行のiPhoneやAndroidは標準で暗号化されています。同じく現行のmacも暗号化機能が標準装備されていて、Windowsでも上位OS(Windows 10 Pro)なら「BitLocker」という暗号化機能が使えます。また、外付けHDDやUSBメモリーにも暗号化が可能なタイプが市販されています。

私も、手持ちのデジタル機器はほとんど暗号化しています。難しく聞こえるかもしれませんが、条件が揃えば、案外、簡単に暗号化できます。おすすめですよ。それでも個別の設定を書き出すと、とても長くなってしまうので、今回はこのあたりで。

前回コラムでは、故人の「○○ペイ」の残高について書いていますので、こちらもよろしければお読みください。

(記事は2020年1月1日時点の情報に基づいています)