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老人ホーム入居と相続税対策のポイント 入居費用や自宅の扱いと注意点を解説
老人ホームへの入居は相続税対策になることもありますが、費用の内容や自宅の扱いによって結果は大きく変わります(c)Getty Images
「老人ホームに入居すると相続税は安くなる」と聞いたことがある人もいるかもしれません。たしかに、入居時にまとまった費用を支払えば、相続時に残る財産が減り、結果として相続税の負担が軽くなるケースがあります。
しかし、すべての費用がそのまま節税につながるわけではありません。返還される入居一時金は相続財産に含まれることがあり、自宅の扱いによっては小規模宅地等の特例が使えなくなる場合もあります。
老人ホーム入居と相続税の関係は、費用の性質や契約内容、財産の整理状況によって大きく左右されます。入居費用の課税・非課税の考え方や、自宅・特例の注意点について、専門家監修のもとでわかりやすく解説します。
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1. 老人ホーム入居は相続税の節約に活用できることも
老人ホームへの入居は、生活環境を整えるための選択である一方、相続税の課税対象額が減る場合があります。入居に伴って発生する費用の支払い方や、その後の財産の残り方によっては、課税対象となる財産が減る場合があるためです。ただし、入居すれば自動的に節税になるわけではなく、制度の仕組みを正しく理解したうえで考える必要があります。
1-1. まとまった支出により課税対象の財産が減る
老人ホームに入居する際には、入居一時金や前払金、引っ越し費用など、まとまった支出が生じることがあります。これらの費用を現金や預貯金から支払えば、相続時点で手元に残る財産が減るため、結果として相続税の課税対象額が小さくなる可能性があります。
月々の利用料や生活費として実際に使ったお金は、相続時に残っていないため、相続税の対象にはなりません。預貯金として残すのではなく、生活のために支出した分だけ相続財産が減る、というシンプルな仕組みです。
ただし、すべての支出が無条件に相続税の軽減につながるわけではありません。たとえば、退去時に返還される可能性のある入居一時金や前払金は、相続時点で未償却分が残っていれば、「返還を受ける権利」として相続財産に含まれます。また、生活費とは言い難い高額で不自然な支出については、財産を形を変えて残したものと判断される可能性もあります。
1-2. 生前贈与や自宅の整理も行うと節税効果が高まる
老人ホーム入居をきっかけに、生前の財産整理をあわせて検討することで、相続対策としての効果が高まる場合があります。たとえば、自宅を売却して入居費用に充てたり、住まなくなった不動産の扱いを整理したりすることで、相続時の財産構成をシンプルにできます。
また、暦年贈与など、制度に沿った生前贈与を計画的に行うことで、将来の相続財産を減らすことも可能です。ただし、贈与には贈与税の問題や、相続開始前一定期間の加算ルールなど注意点も多く、安易に進めると想定どおりの効果が得られないこともあります。
老人ホーム入居はあくまで生活上の選択であり、節税のみを目的に判断すべきではありません。相続税への影響を考える場合は、入居費用の性質や財産全体のバランスを踏まえ、必要に応じて税理士などの専門家に相談しながら、無理のない形で進めることが大切です。
2. 老人ホーム費用のうち、相続税の課税対象になるのは?
老人ホームに入居すると、入居一時金や月額利用料など、さまざまな費用が発生します。これらはすべて相続税の対象になるわけではなく、費用の性質や契約内容によって扱いが異なります。相続税の課税対象になるものとならないものを区別して理解しておくことが、不要な誤解や申告漏れを防ぐうえで重要です。
2-1. 返還される入居一時金(前払金)は相続財産として扱われる
老人ホームの入居時に支払う入居一時金や前払金のうち、退去時や一定期間経過後に返還される可能性がある部分は、相続時点で残っていれば相続財産に含まれます。これは、将来返金される権利が亡くなった人(被相続人)に残っていると考えられるためです。
返還の有無や金額は施設との契約内容によって大きく異なり、全額償却型で返金されないケースもあります。相続税の扱いを判断するには、契約書に記載された償却期間や返還条件を確認しておくことが欠かせません。
2-2. 月額利用料などの消費済み費用は課税対象外
月額利用料や食費、管理費、介護サービス料など、老人ホームでの生活に伴って支払われ、すでに消費された費用は、相続時に残らないため相続税の対象にはなりません。預貯金が減っていても、その分の財産が実際に使われていれば、それ自体が問題になることはありません。
もっとも、重要なのは「生活費として使ったか」という形式的な区分ではなく、相続財産を不自然に減らす行為と評価されないかという点です。相続直前の多額の現金引き出しや、高額な物品の購入、家族への多額の資金移動など、支出の内容や時期によっては、相続税の調査で使途を確認される可能性があります。
2-3. 支出した費用が生活費と認められれば節税効果につながる
老人ホームに入居して、利用料や生活に必要な費用としてお金を使えば、その分だけ相続時に残る財産は減ります。預貯金として持ったままにするのではなく、実際に使った分だけ相続財産が減るため、結果として相続税の負担を軽くできます。
一方で、入居一時金や前払金のうち、あとから返ってくる部分がある場合は注意が必要です。その金額は、相続時点ではまだ「戻ってくるお金」として残っている扱いになるため、相続財産に含まれます。
つまり、「使って無くなったお金は対象外」「あとで戻るお金は対象になる」という点を押さえておけば十分です。
3. 債務として相続財産から控除が認められる費用とは
相続税の計算では、被相続人が亡くなった時点で確定している債務については、「債務控除」として相続財産から差し引くことができます。老人ホーム入居中に発生した費用の中にも、一定の条件を満たせば控除の対象となるものがあります。どの費用が債務として認められるのかを正しく理解しておくことが重要です。
3-1. 退去時に未払い費用がある場合
被相続人が亡くなった時点で、老人ホームの利用料や介護サービス費などの未払い分が残っている場合、その金額は相続税上の債務控除として扱われることがあります。債務控除が認められれば、課税対象となる相続財産の額が減り、相続税の負担軽減につながります。
ただし、控除を受けるためには、施設との契約内容や請求書などにより、死亡時点で支払義務が確定していることが必要です。金額や支払義務が不明確なものは、債務として認められない可能性があります。
3-2. 施設との契約により返金・清算が必要な費用がある場合
老人ホームの契約内容によっては、退去時や死亡時に入居一時金や預かり金の一部について清算が行われるケースがあります。この清算の結果、施設側へ支払うべき精算金が生じる場合には、その金額が被相続人の債務として債務控除の対象となることがあります。
重要なのは、清算義務が契約上明確に定められていることです。契約書に基づく返金・清算であることが確認できれば、相続税計算上も適切に反映させることが可能になります。
3-3. 相続人が支払義務を引き継いでいる場合
施設との契約により、死亡後の施設利用料や解約時の清算費用を相続人が支払う義務を引き継ぐと定められている場合、その支払額は相続税計算上の債務として控除できる可能性があります。あくまで、被相続人に帰属する債務を相続人が引き継いでいることが前提です。
一方で、契約に基づかず相続人が任意で支払った費用や、施設利用と直接関係のない支出については、債務控除が認められない場合があります。契約内容の確認が欠かせません。
4. 老人ホーム入居でも使える「小規模宅地等の特例」の適用条件と注意点
小規模宅地等の特例は、相続税対策として非常に効果が大きい制度ですが、老人ホームへ入居した場合の扱いは誤解されやすい分野です。入居しただけで特例が使えなくなるわけではありませんが、一定の要件を満たさない場合は適用外となります。適用できるか判断するときは、被相続人の状況や自宅の管理実態などが重要になります。
4-1. 小規模宅地等の特例とは
小規模宅地等の特例とは、被相続人が居住していた自宅の敷地などを相続した場合に、相続税評価額を最大80%減額できる制度です。対象となるのは、被相続人の「居住用宅地」や「事業用宅地」などで、居住用宅地の場合は330㎡までが減額対象となります。
ただし、誰が相続するか、相続後にその宅地をどう利用するかによって適用の可否は大きく変わります。特に、被相続人が亡くなる前に老人ホームへ入居していた場合には、居住実態がどのように評価されるかが重要な判断ポイントになります。
4-2. 要介護認定などの条件を満たせば特例適用が可能なこともある
被相続人が老人ホームに入居していた場合でも、一定の条件を満たせば小規模宅地等の特例が適用されることがあります。具体的には、被相続人が要介護・要支援認定を受けている、またはそれに準ずる状態で、老人福祉法等に基づく施設へ入居していた場合です。
この場合、自宅が売却や賃貸に出されておらず、生活の本拠として維持されていたことが重要になります。郵便物の管理や家財道具の残存状況など、実態が確認される点も実務上のポイントです。要件は細かいため、判断に迷う場合は税理士への事前相談が欠かせません。
4-3. 老人ホーム入居によって特例が使えなくなる場合がある
一方で、老人ホーム入居をきっかけに小規模宅地等の特例が使えなくなるケースもあります。たとえば、入居後に自宅を第三者に賃貸したり、事業に使ったり、売却したりすると適用が難しくなることがあります。
また、特例は「誰が相続するか」や「相続後の保有・居住の状況」などの要件にも左右されます。適用できない場合は自宅の評価額がそのまま課税対象となり、税負担が増えることがあるため注意が必要です。
5. 老人ホーム入居時の相続税対策のポイント
老人ホームへの入居は、相続税対策を考える一つのきっかけになりますが、入居しただけで自動的に税負担が軽くなるわけではありません。重要なのは、入居前後の財産の持ち方や使い方です。課税対象になりやすい財産を把握し、制度や特例を踏まえた対応を行うことで、相続時の負担やトラブルを抑えることにつながります。
5-1. 課税対象になりやすい財産は早めに整理する
相続税の課税対象となりやすいのは、預貯金や有価証券、不動産といった評価額が明確な財産です。これらを多く保有したまま相続を迎えると、相続税額が高くなる傾向があります。老人ホーム入居を機に、財産の内容や評価額を整理し、必要に応じて生前贈与や資産の組み替えを検討することが有効です。
ただし、贈与には贈与税の問題もあるため、単純に減らせばよいわけではありません。どの財産を、いつ、どの方法で整理するかが重要になります。
5-2. 不動産や預貯金の扱いを事前に検討する
老人ホーム入居後に問題になりやすいのが、自宅や預貯金の扱いです。自宅を空き家のまま放置すると、相続税評価や特例適用の面で不利になることがありますが、入居前に売却や賃貸、家族の利用などを検討しておくことで相続時の負担や管理リスクを軽減できます。
また、預貯金についても老人ホームの入居一時金や月額利用料として実際に生活費に充てた分は相続時には残りません。使途や支出の内容によって、相続税の課税対象が変わる点を意識することが大切です。
5-3. 税理士・専門家と相談して事前に方針を立てる
相続税の制度は複雑で、老人ホーム入居に関わる判断は個別事情によって大きく異なります。自己判断で進めると、特例が使えなかったり、想定外の税負担が生じたりすることもあります。
入居前後の段階で税理士などの専門家に相談し、財産の評価方法や特例の適用可否を確認しておくことで、相続時の混乱やトラブルを防ぎやすくなります。早めに方針を整理しておくことが、結果的に安心につながります。
6. 老人ホームと相続税に関連して、よくある質問
Q. 入居する老人ホームの種類によって相続税の扱いは変わる?
老人ホームの種類や契約形態によって、相続税の扱いは異なります。入居一時金を支払う有料老人ホームでは、契約内容に応じて未償却分が返還されることがあり、その返還金は相続財産として課税対象になります。一方、一時金のない特別養護老人ホームや月払い方式の施設では、相続時に返還金が発生しにくく、相続財産に含まれる金額も限定的になるのが一般的です。
Q. 自宅を売却して入居した場合、相続税対策になる?
自宅を売却して老人ホームに入居した場合、売却代金が預貯金として残っていれば相続税の課税対象になります。ただし、その資金を入居一時金や月額利用料などの生活費として実際に支出していれば、相続時の財産額は減少します。また、早めに売却しておくことで、空き家の管理負担や固定資産税の負担を避けられる点も考慮すべきポイントです。
Q. 親の老人ホーム入居費用を子が支払うと贈与税がかかる?
子が親の老人ホームの月額利用料や生活費を支払う場合、通常必要と認められる範囲であれば、扶養義務の履行として扱われ、贈与税の対象とならないのが一般的です。ただし、将来分まで含めた高額な入居一時金を子が一括で負担した場合には贈与と判断される可能性があります。支払方法や金額によって扱いが変わるため、注意が必要です。
7. まとめ 老人ホーム入居は相続税対策とあわせて考えることが重要
老人ホームへの入居は、老後の生活を支える選択であると同時に、相続税への影響も伴います。入居一時金の返還金や自宅の扱いによっては、相続財産や税額が大きく変わることもあります。費用の性質や契約内容を正しく理解し、生前から財産整理や特例の適用可否を検討しておくことが大切です。判断に迷う場合は、早めに税理士などの専門家へ相談することで、将来のトラブルや負担を抑えやすくなります。
(記事は2026年1月1日時点の情報に基づいています)
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