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1. 実家を相続すると、相続税がかかる?

実家を含め、被相続人(以下、亡くなった人)から受け継いだ「遺産の総額(実家の評価額、預貯金、有価証券などを合計し、借金を含む債務などを差し引いた金額)」が「基礎控除額」を超える場合、原則として相続税がかかります。基礎控除額は相続税が課税されるかどうかのボーダーラインとなる金額であり、以下の計算式で求められます。

【基礎控除額の計算式】
基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)

たとえば、法定相続人が配偶者と子2人という合計3人の場合、基礎控除額は3000万円+(600万円×3人)で4800万円になります。遺産の総額が4800万円以下であれば相続税はかからず、申告も原則不要です。

もっとも、実家の評価額だけでこの基礎控除額を超えるケースも少なくありません。まずはどれくらいの財産があるのか全体像を把握し、基礎控除額を超えるかどうかを確認することが実家を相続する際の第一歩となります。

2. 実家を相続するときの相続税の計算方法

相続税の計算は非常に複雑ですが、おおまかな流れは以下の5つのステップで行われます。ここでは簡単な事例を交えて解説します。

  • 【STEP1】相続財産の総額を計算する
  • 【STEP2】課税遺産の総額を法定相続分に応じて按分する
  • 【STEP3】相続人ごとに相続税額を計算し、合算する
  • 【STEP4】実際の相続分に応じて相続税額を分配する
  • 【STEP5】加算や控除などを適用して、最終的な相続税額を求める

【事例(前提)】
・被相続人:父
・相続人:母、子2人(法定相続人3人)
・相続財産の総額:1億2000万円(実家|6000万円、預貯金など|6000万円)
・実際の遺産分割割合:母|1/2(6000万円)、子A|1/4(3000万円)、子B|1/4(3000万円)

2-1. 【STEP1】相続財産の総額を計算する

まず亡くなった人が遺した財産をすべて評価し、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いて「相続財産の総額」を計算します。

【プラスの財産】
土地や建物、預貯金、株式、死亡保険金(非課税枠を超える部分)、死亡退職金(非課税枠を超える部分)など

【マイナスの財産】
借入金、未払いの税金、葬式費用など

【その他(プラスの財産)】
相続時精算課税贈与財産や相続開始前3年以内の暦年贈与財産(税制改正により2024年以降段階的に期間が延長され最大7年以内)

【計算例】
相続財産の総額:実家6000万円+預貯金など6000万円=1億2000万円(債務なし)
基礎控除額:3000万円+600万円×3人=4800万円
課税遺産総額:1億2000万円-4800万円=7200万円

2-2. 【STEP2】課税遺産の総額を法定相続分に応じて按分する

【STEP1】で計算した課税遺産総額(基礎控除額を引いたあとの金額)を、法律で定められた法定相続分で分けたとして、各相続人の仮の取得金額を計算します。この段階では実際の遺産分割の内容は考慮しません。

【構成別に見る相続人の法定相続分】
相続人の構成 法定相続分
配偶者のみ 配偶者:すべて
配偶者と子 配偶者:1/2、子:1/2(複数いる場合は均等割)
配偶者と親 配偶者:2/3、親:1/3(複数いる場合は均等割)
配偶者と兄弟姉妹 配偶者:3/4、兄弟姉妹:1/4(複数いる場合は均等割)
子のみ 子:すべて(複数いる場合は均等割)
親のみ 親:すべて(複数いる場合は均等割)
兄弟姉妹のみ 兄弟姉妹:すべて(複数いる場合は均等割)

今回の事例は母と子2人であり、課税遺産総額の7200万円を法定相続分で分けます。

【計算例】
・母:7200万円×1/2=3600万円
・子A:7200万円×1/2×1/2=1800万円
・子B:7200万円×1/2×1/2=1800万円

2-3. 【STEP3】相続人ごとに相続税額を計算し、合算する

【STEP2】で計算した各相続人の仮の取得金額に下記の「相続税の税率速算表」を使って、相続人ごとの相続税額を計算します。その後、各相続人の相続税額を合算して「相続税の総額」を算出します。

【相続税の税率速算表】
法定相続分に応じた各人の取得金額 税率 控除額
1000万円以下 10%
3000万円以下 15% 50万円
5000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1700万円
3億円以下 45% 2700万円
6億円以下 50% 4200万円
6億円超 55% 7200万円

【計算例】
・母:3600万円×20%-200万円=520万円
・子A:1800万円×15%-50万円=220万円
・子B:1800万円×15%-50万円=220万円

これらを合算し、「相続税の総額」を算出すると、以下のようになります

相続税の総額:520万円+220万円+220万円=960万円

2-4. 【STEP4】実際の相続分に応じて相続税額を分配する

【STEP3】で計算した「相続税の総額」を、実際に各相続人が取得した財産の割合に応じて分配します。

なお、今回の事例では、相続財産の総額1億2000万円のうち、実際の遺産分割割合が母は1/2(6000万円)、子Aは1/4(3000万円)、子Bは1/4(3000万円)だったとします。

【計算例】
・母の相続税額:960万円×1/2=480万円
・子Aの相続税額:960万円×1/4=240万円
・子Bの相続税額:960万円×1/4=240万円

2-5. 【STEP5】加算や控除などを適用して、最終的な相続税額を求める

最後に【STEP4】で計算した各相続人の相続税額から、それぞれの事情に応じた下記の加算や控除を適用して、最終的に納付する相続税額を確定します。

【相続税額の2割加算】
亡くなった人の配偶者、子(子がすでに亡くなっている場合は、代襲した孫)、親以外が遺産を相続した場合に、その人が納める相続税が2割増しになる制度

【贈与税額控除(暦年課税贈与)】
亡くなる前3年以内(税制改正により2024年以降段階的に延長で最大7年以内)の贈与について支払った贈与税をマイナスできる制度

【贈与税額控除(相続時精算課税贈与)】
相続時精算課税贈与について支払った贈与税をマイナスできる制度

【配偶者の税額軽減】
配偶者が相続した財産が「1億6000万円」または「法定相続分」のいずれか多い金額まで相続税がかからない制度

【未成年者控除】
相続人が未成年(18歳未満)の場合に適用できる制度

【障害者控除】
相続人が障害者(85歳未満)の場合に適用できる制度

【相次相続控除】
10年以内に相次いで相続が発生した場合に適用できる制度

今回の事例では、母が「配偶者の税額軽減」を適用できます。そして、実際の相続額6000万円が法定相続分(1億2000万円×1/2=6000万円)を超えないため、母の相続税額は0円となります。

【計算例】
・母の相続税額:0円
・子Aの相続税額:240万円(ほかに控除がなければ)
・子Bの相続税額:240万円(ほかに控除がなければ)

3. 実家の土地や建物の相続税評価額はどう決まる?

相続税の計算の基礎となる実家の土地や建物の評価額は売買価格(時価)とは異なり、相続税法に基づいた特別な計算方法で算出します。

3-1. 土地の評価方法

土地の評価は、国税庁が定めた「路線価」または「倍率」を用いて計算します。路線価や倍率は、国税庁のホームページで確認できます。

【路線価方式】
市街地など道路に面する土地の1㎡あたりの価格(路線価)が定められている地域で使われます。路線価図で実家が面している道路の路線価を調べ、それに土地の面積を乗じて計算します。奥行き、間口、角地など、土地の形状によって補正計算が行われます。

計算式(簡易):土地の評価額=路線価×補正率×土地の面積

【倍率方式】
路線価が定められていない郊外や農村部などで使われます。その土地の「固定資産税評価額」に、国税庁が地域ごとに定める「倍率」を乗じて計算します。

計算式:土地の評価額=固定資産税評価額×倍率

3-2. 建物の評価方法

建物の評価は、原則として建物の「固定資産税評価額」と同額になります。固定資産税評価額は、毎年送られてくる「固定資産税の課税明細書」に記載されています。もし手元になければ、市区町村の役所で固定資産税評価明細書を取得することで確認できます。

4. 実家の相続税を抑える方法は?

実家の相続税は、特例や生前対策を活用することで負担を軽減できる可能性があります。

4-1. 小規模宅地等の特例

小規模宅地等の利用区分と限度面積、減額割合。一定の条件を満たせば、土地の評価額を80%減額できる
小規模宅地等の利用区分と限度面積、減額割合。一定の条件を満たせば、土地の評価額を80%減額できる

最も節税効果が大きいのが「小規模宅地等の特例」です。これは、亡くなった人や生計を一緒にしていた親族が住んでいた土地(特定居住用宅地等)について、330㎡を限度に評価額を80%減額できる制度です。

たとえば、路線価方式または倍率方式で6000万円と評価された土地でも、この特例が適用できれば評価額は6000万円×20%=1200万円となり、相続税を大幅に圧縮できます。

なお、適用要件は取得者によって異なります。

  • 配偶者:常に適用
  • 同居親族:相続税の申告期限までその土地を所有し、かつ居住を継続する必要がある。
  • 別居親族(家なき子):亡くなった人に配偶者や同居親族がおらず、相続開始前3年以内に持ち家に住んだことがないなどの要件を満たし、申告期限まで土地を所有する必要がある。

誰が実家を相続するかによって小規模宅地等の特例が使えるかが決まるため、遺産分割の際に非常に重要なポイントになります。

【関連】小規模宅地等の特例とは? 適用要件から計算例、必要書類までわかりやすく解説

4-2. 生前贈与をする

実家の相続税を抑えるうえでは、元気なうちに実家の名義変更を通じて生前贈与をしておく方法があります

【相続時精算課税制度】
原則60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子や孫へ贈与する際に利用できる制度です。累計2500万円までの贈与税が非課税となりますが、贈与者が亡くなった際にはこの贈与財産(贈与時の価額)を相続財産に持ち戻して相続税を計算する必要があります。将来値上がりしそうな不動産を早めに贈与する場合などに有効です。

【おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)】
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産またはその購入金額を贈与する場合、基礎控除の110万円とは別に最高2000万円まで非課税となる制度です。

相続時精算課税制度にもおしどり贈与にも節税効果があるものの、生前贈与には贈与税のほかに不動産取得税や登録免許税といったコストがかかります。相続税対策として有効かどうかは、個別の状況によるため専門家への相談が必要です。

【関連】相続時精算課税制度とは?【改正内容を図解】年110万円非課税 2500万円まで贈与税もかからない

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5. 実家の相続税が払えないとどうなる?

相続税は「相続の開始を知った日の翌日から10カ月以内」という納付期限までに現金で一括納付するのが原則です。もし期限までに支払えないと以下のような事態が発生します。

【延滞税の発生】
納付期限の翌日から納付が完了する日までの日数に応じて、利息に相当する「延滞税」が発生します。延滞税の税率は比較的高いため、放置すると負担が増えていきます。

【滞納処分(財産の差し押さえ)】
納税を催促する催促状などが送られても納付しない場合、最終的に税務署による「滞納処分」が行われます。これは、相続した実家や預貯金、給与などの財産を強制的に差し押さえ、換金して税金に充てる手続きです。

実家はあるけれど現金がないというケースは少なくありません。相続税が払えない場合は、延納(分割払い)や物納(不動産などの物で納付)といった制度もありますが、要件が厳格です。早めに税務署や税理士に相談しましょう。

6. 相続した実家を空き家のまま放置するリスク

実家を相続したものの、誰も住まずに「空き家」として放置してしまうと、税金面や管理面で多くのリスクが発生します。

6-1. 固定資産税の負担

実家に住んでいなくても、不動産を所有している限り固定資産税が毎年かかります

6-2. 老朽化や倒壊のリスク

空き家は急速に老朽化が進みます。台風で屋根が飛んだり、外壁が崩れたりして近隣に損害を与えた場合、所有者として損害賠償責任を問われる可能性があります。

6-3. 特定空家等への指定

倒壊の危険、衛生上の有害など、管理不全な状態が続くと、行政から「特定空家等」に指定されることがあります。特定空家等に指定されると住宅用地の固定資産税の優遇措置(最大で6分の1の減額)が適用されなくなり、固定資産税が増額される可能性があります。さらに、行政代執行による解体が行われ、その費用を請求されるケースもあります。

7. 実家を売却するときに利用できる節税方法

相続した実家を利用する予定がない場合、売却も選択肢の一つです。実家を売却して利益が出ると所得税と住民税がかかりますが、特例を利用して税負担を軽減できる場合があります。

7-1. マイホーム売却による3000万円控除

相続した実家に相続人が自ら居住したあとで売却する場合、一定の要件を満たせば売却益(譲渡所得)から最大3000万円を控除できます。

【主な適用要件】
・自分が住んでいる家屋、または住まなくなってから3年後の年末までに売却すること
・買い手が親子や配偶者などでないこと 

7-2. 空き家特例による3000万円控除

相続した実家を相続人が住んでいない空き家のままの状態で売却する場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から最大3000万円控除できます。

【主な適用要件】
・相続開始直前まで被相続人が一人で住んでいたこと
・1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された家屋であること
・相続開始日から3年後の年末までに売却すること
・売却代金が1億円以下であること
・家屋を耐震リフォームするか取り壊して更地にすること

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8. 実家の相続税について税理士に相談するメリット

実家の相続は、財産の評価や特例の適用判断が非常に専門的です。「相続税がかかるかどうかわからない」「計算が正しいか不安」という場合は、相続税を専門とする税理士への相談が望ましいと言えます。

税理士の支援を受けることには、主に4つのメリットがあります。

  • 正確な財産評価をしてもらえる
  • 特例について適切な判断をしてもらえる
  • 二次相続まで見据えた遺産分割のアドバイスが受けられる
  • 税務調査の対応を任せられる

8-1. 正確な財産評価をしてもらえる

土地の評価は路線価に各種補正を行う必要があり複雑です。専門家に正確な評価をしてもらうことで、相続税の過大申告や過少申告のリスクが避けられます。

8-2. 特例について適切な判断をしてもらえる

「小規模宅地等の特例」など、要件が複雑な特例を適用できるか判断してもらえます。どの特例を使うのが最も有利かシミュレーションも可能です。

8-3. 二次相続まで見据えた遺産分割のアドバイスが受けられる

直近の相続である一次相続だけでなく、次に配偶者が亡くなった場合の二次相続の税負担までを考慮した最適な遺産分割案を提案してもらえます。

8-4. 税務調査の対応を任せられる

相続税の申告後、税務署による「税務調査」が入る場合があります。税理士が関与していれば調査の対応窓口となり、論理的に申告内容を説明してくれるため安心です。

10カ月という相続税の申告期限はあっという間に過ぎてしまいます。遺産分割や評価には時間がかかるため、相続が発生したら早い段階で相談することをお勧めします。

9. 実家の相続税についてよくある質問

Q. 相続した実家を売るとどんな税金がかかる?

売却によって利益(譲渡所得)が出た場合に限り、その利益に対して「所得税」と「住民税」がかかります。譲渡所得は、「売却価格-(取得費+譲渡費用)」という計算式で計算されます。取得費が不明な場合は、売却価格の5%を取得費とすることができます。

Q. 亡くなった親が所有していた不動産のローンはどうなる?

原則として住宅ローンなどの債務も相続の対象となり、相続人が返済義務を引き継ぎます。 ただし、多くの場合、住宅ローン契約時に「団体信用生命保険(団信)」に加入しています。団信に加入していれば、契約者が亡くなった際に保険金でローンが完済されるため、相続人が返済を引き継ぐ必要はありません。そのため、団信に加入している場合は債務の対象になりません。まずはローンの契約内容と団信の加入状況を確認してみましょう。

Q. 実家の相続税はいつまでに支払う必要がある?

相続税の申告と納付は、どちらも「相続の開始を知った日の翌日から10カ月以内」に行う必要があります。たとえば、1月10日に亡くなったことを知った場合、その年の11月10日が期限になります。

10. まとめ 実家を相続した際は税理士への早期相談がカギとなる

実家の相続は多くの人にとって初めての経験であり、相続財産に占める不動産の割合が大きいほど相続税の不安も大きくなります。

まずは相続財産の全体を把握し、「3000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除額を超えるかどうか確認しましょう。超える場合は実家の土地や建物の評価額を算出し、相続税の総額を計算する必要があります。

特に一定の条件を満たせば、土地の評価額を80%下げられる「小規模宅地等の特例」は、適用できれば相続税額を大きく減額できる可能性がありますが、要件が非常に複雑です。

相続税の申告・納付期限は10カ月と短いため、手続きをスムーズに進め、最適な節税対策を講じるためには相続専門の税理士への早期相談がカギとなります。

(記事は2025年12月1日時点の情報に基づいています)

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