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大掃除は心の片付け —— 新しい年を迎えるための終活習慣【未来へつなぐ 人生のしまいかた】
終活コーディネーターの吉原友美さんが終活について語ります
終活コーディネーターの吉原友美さんが終活について語る連載「未来へつなぐ 人生のしまいかた」。年の瀬が近づくと、なんとなく部屋の隅々が気になり始めませんか。押し入れの奥、引き出しの中、クローゼットに詰め込まれた服――。「また来年でいいか」と先送りにしてきたものが、心の隅にずっと引っかかっている感覚を、多くの人が経験しているのではないでしょうか。
それは、モノが多いからではありません。整理されていない「思い出」や「決断」が、心に積もっているからです。
大掃除とは、モノを減らすことではなく、「心の中の"ありがとう"を見つける時間」です。
一つ片付けるたびに、心に風が通っていくような爽快感があります。50代、60代、70代と年齢を重ねた今だからこそ、大掃除を「心を整える終活」として捉え直してみませんか。
なぜ「片付け」が心を軽くするのか
私が主催する「お片付けセミナー」では、累計950回以上の開催を通じて、延べ2万5千人の方々とお会いしてきました。2024年度のアンケートでは、セミナー満足度94%という評価をいただいています。
中でも印象的だったのは、こんな声です。
・「気持ちが軽くなった」88%
・「家族との会話が増えた」76%
なぜ、モノを片付けるだけで、気持ちが軽くなり、家族との時間が増えるのでしょうか。
それは、片付けが「モノ」だけでなく「記憶」や「関係」と向き合う行為だからです。古いアルバム、子どもの作品、家族の形見。それらを手に取るたびに、忘れかけていた感謝や愛情が、ふわりと心に戻ってきます。
ある70代の女性は、こう語ってくれました。
夫を亡くして3年。遺品をそのままにしていた書斎を整理しました。一つひとつ手に取りながら、「ありがとう」と声に出して言えたんです。涙も出たけれど、心が落ち着きました。
片付けとは、過去を整理することで、未来への扉を開く作業なのです。
「10分片付け」から始める心の終活
「終活」というと重いテーマを想像するかもしれません。でも、終活の本質は「自分らしい人生を、最後まで自分で選ぶこと」です。その第一歩が「心の片付け」です。
私がセミナーでおすすめしているのは、「10分片付け」という習慣です。
【10分片付けの3ステップ】
1. タイマーを10分セットする
時間を区切ることで、「終わりがある」という安心感が生まれます。
2. 一つの場所に集中する
引き出し一つ、棚一段だけ。小さな範囲から始めましょう。
3. 3分類法で決断する
「残す」「迷う」「手放す」の3つに分けます。迷うものは箱に入れて、3カ月後に見直せばOKです。
セミナーに参加された55歳の女性は、こう話してくれました。
娘たちが家を出てから、子ども部屋には学生服や教科書がそのまま。押し入れにはベビーカーまで保管していました。「思い出だから」と手をつけられずにいたんです。「10分片付け」で娘の机から始めると、「これ、誰のため?」って思いました。「子育てしていた頃の私」を手放したくなかっただけなんだと気づいて、涙が出ました。
その様子を見ていた夫が「手伝おうか。俺もガレージ片付けようと思ってた」。定年が近づいて、夫なりに考えることがあったようです。それから土曜の朝、夫婦で10分ずつ片付けるのが習慣になりました。夫は仕事の資料や工具を整理しながら、「これは息子にやるか」と独り言を言っていて、夫も人生を整理しているんだなと感じました。片付けながら、昔の写真が出てくると「あの時は大変だったね」って自然に話すように。今は、夫婦二人の暮らしが心地よくて。モノを減らしたら、心にゆとりができたんです。
10分という時間は、誰にでも作れる長さです。夫婦で過ごすその時間が、これからの人生を豊かにします。
掃除道具ひとつで変わる、片付けの景色
片付けを始めるとき、道具選びも大切です。
私がセミナーでよくご紹介するのは、マイクロファイバークロスです。ふわりと軽く、水だけで汚れが落ちるこのクロスはシニアの方にも扱いやすく、掃除のハードルを下げてくれます。窓を拭くと、部屋が明るくなります。棚を拭くと、ホコリと一緒に心のもやもやも消えていきます。
タイマーもおすすめです。時間を区切ることで、「完璧にやらなきゃ」というプレッシャーから解放されます。
掃除が終わったら、深呼吸をしてみてください。きれいになった空間で吸い込む空気は、清々しく感じるはずです。部屋が明るくなると、心も軽くなるのです。
家族との会話が生まれる、片付けの魔法
片付けをすると、家族との会話が増えます。
娘が一緒に古いアルバムを整理しながら「この服、お母さんが作ってくれたやつだ!」って言ってくれて。私自身も忘れていたことを、娘が覚えていてくれたんです。片付けながら、たくさん笑いました。(60代女性)
モノには、記憶が宿っています。それを家族と共有することで、感謝や愛情が言葉になり、絆が深まるのです。
心を整えることは、人生をやさしく見つめ直すこと
私は、セミナーでいつもこうお伝えしています。
「モノと向き合うことは、心を整えること。片付けは、人生をやさしく見つめ直す時間です。」
50代、60代、70代。人生の折り返し地点を過ぎたとき、私たちは「これからどう生きよう」と考え始めます。終活とは、その問いに向き合うための準備です。
大掃除という年末の習慣は、その終活を始める絶好のタイミング。新しい年を迎える前に、部屋の中を見渡してみてください。そこにあるモノたちは、あなたの人生の証です。一つひとつに「ありがとう」と声をかけながら、本当に大切なものを選び取っていく。
片付けた後の空間で深呼吸をすると、心にすっと風が通ります。それは、新しい自分に出会う瞬間です。大掃除は、年末だけのイベントではありません。毎日10分、週に一度でもいい。少しずつ、心を整える時間を持つこと。終活は、自分らしく、心地よく生きるための活動です。
新しい年を、軽やかな心で迎えるために。今日から、小さな一歩を踏み出してみませんか。
(記事は2025年12月1日時点の情報に基づいています)