農地に太陽光発電を設置するには? 農地転用の手続きや費用、避けたいトラブルなどを解説
農地を相続しても、遠方に暮らしていたり、本業があったりして維持管理するのが大変な人は多くいます。そこで、よく検討されているのが農地での太陽光発電です。農地で太陽光発電をするメリットや始める前に確認すべきこと、農地転用の仕方などを農地活用に詳しい行政書士が紹介します。
農地を相続しても、遠方に暮らしていたり、本業があったりして維持管理するのが大変な人は多くいます。そこで、よく検討されているのが農地での太陽光発電です。農地で太陽光発電をするメリットや始める前に確認すべきこと、農地転用の仕方などを農地活用に詳しい行政書士が紹介します。
目次
農地のような特殊な土地の場合、太陽光発電をおこなうメリットが主に三つあります。
農地は、他の土地と異なり、耕作し続けなければなりません。
農地が遠方にあったり広大であったりする場合、農地を管理するのは難しく耕作放棄地になりがちです。
耕作放棄地に一度なってしまうと、農地に戻すのに何年もかかります。太陽光発電の設置は、このように手が付けられない耕作放棄地になった(なりそうな)農地を活用できる有効な手段の一つです。
農地の中には傾斜地もあります。
傾斜地の農地は平地に比べ、農機具も使えず管理しにくいため、耕作したくてもできない場合があります。
太陽光発電は、傾斜地の土地でも設置が可能なため、このような農地を活用できます。
農地での太陽光発電で、注目されているのが「営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)」です。
営農型太陽光発電とは、耕作されている農地上に太陽光発電を設置することです。
農業での収益と太陽光発電での売電収益の二つの収益が得られ、安定した収益につながります。
農地で太陽光発電をおこなうためには「農地転用」が欠かせません。
農地転用とは、農地から農地以外に使用するための手続きのことです。日本では、優良な農地を保全して食料生産を安定させるという理由から、農地を農地以外に勝手に用いることは農地法で禁止されています。
例えば、農地から駐車場や露天資材置き場などにする場合、雑種地に転用する許可等を取らなければいけません。太陽光発電も同じように雑種地に転用する必要があります。
農地にはさまざまな規制や団体の意向などがあるため、必ずしも太陽光発電を設置できるわけではありません。
ここでは、農地転用を始める前に、太陽光発電に利用できる農地について確認しておくべき六つのポイントを紹介します。
まずは、相続した農地がある場所が、農業振興地域かどうかを確認しましょう。
農業振興地域とは、農業を維持するために農地の用途が規制されている地域のことです。相続した農地が農業振興地域内にあると、そもそも農地転用が禁止されている場合があります。
そのため、所有している農地について、農地の種類や各管理団体などを調べる必要があります。調べるときは、各市町村の農業委員会や農政室へ確認するのが一般的です。
あまり知られていませんが、農地には種類があり、農地転用できるかどうかは種類により異なります。
農地の種類は大きく分けて六つあり、農地転用の可能性は以下のようになります。
■農用地区域内農地|農地転用は原則禁止
農用地区域内農地は、都道府県知事に指定された農業振興地域整備計画の中で農業のために利用しなければならない最も規制が厳しい農地です。農地転用は原則禁止とされており、おこなうことはできません。
■甲種農地|農地転用は禁止
甲種農地は、市街化区域(市街化を促進する区域)以外において、営農するのに良好な条件がそろっている農地です。農用地区域と同様に農地転用は禁止されています。
■第1種農地|原則禁止も例外あり
第1種農地は「10ha以上の集団農地」「農業公共投資対象農地」「生産力の高い農地」を指し、農用地区域と同様に農地転用は禁止されています。ただし、農業に関するもの(直売所・農業用倉庫など)の場合、例外により可能な場合もあります。
■第2種農地|代替地がない場合は可能
第2種農地は「農業公共投資の対象ではない小集団かつ生産性が高くない農地」や「市街地として発展する可能性がある区域内の農地」です。活用目的により代替地がない場合に限り、農地転用ができます。
■第3種農地|原則、農地転用可能
第3種農地は都市的整備がされている、もしくは市街地にある農地で、原則農地転用ができます。
■生産緑地|指定解除すれば可能
生産緑地は、都市計画法によって計画的に保全していくべきとされた、市街化区域内にある農地です。生産緑地は農地転用ができますが、手続きの前に「生産緑地の指定解除」が必要です。
※「生産緑地の指定解除」については詳細後述
上記のように、農地の種類により農地転用ができるか異なります。農地の種類は農業委員会や農政室などに問い合わせて確認してみましょう。
出典:農業振興地域制度及び農地転用許可制度の概要丨農林水産省
農地転用をおこなう場合、ため池や水路、里道を管理する団体から同意を得る必要があるため、どこが管理をしているのか確認しましょう。
管理団体には、主に土地改良区、水利組合、自治会等があります。
■土地改良区
土地改良区とは、本来、行政がおこなう土地改良事業を代わりに実施している農業者の組織のことで、都道府県知事の認可団体です。土地改良区内の農地(受益地)の農家は、当然に土地改良区組合員になります。
■水利組合
農地に必要な農業用水など用排水路を地域で管理する団体で、主に地域住民による任意団体になります。
■自治会等
一定区域に住所を有する住民の地縁による任意団体で、町内会などがあります。
農地転用するためにはこれら各管理団体の同意が必要で、同意を得る際には脱退金などの費用がかかるのが一般的です。
太陽光発電を検討するときは、以下の設備の有無を確認することも重要です。
■電柱
太陽光発電に欠かせないのが電柱です。一般的に農地から50m以内にあるのが理想です。近隣に電柱がない場合、電気を売ることができません。そのため電柱の設置が必要になり、設置費用が上がります。
■ため池
太陽光発電設備の設置のため農地の形状変更や水路の払い下げ、土壌の雨水浸透の低下などにより、雨水排水が他の農地へ影響を与える場合があります。そのため、その雨水排水を一旦貯めておく「ため池」の設置が必要になる場合があります。農地面積が広い場合などは特に注意が必要です。
■里道・水路
設置予定地内に里道・水路がある場合、注意が必要です。自治体や管理団体などが所有していることが多く、地中や農地と同化している場合、払い下げ(買い取り)が必要になります。
太陽光発電で重要なのは「いかに効率よく太陽の光を受けることができるか」です。
そのため、設備の有無とあわせて、都道府県ごとの日照時間や天候の統計、農地の向き、設備の設置位置などをチェックすることも大切です。
太陽光発電をおこなう際、面積も重要です。
太陽光発電は一般的に1,000㎡以上ないと採算が合わないといわれています。そのため1,000㎡以下の場合、注意が必要です。
反対に10,000㎡以上の場合、当該の農地がある都道府県や市町村との事前協議が求められる場合があります。この事前協議は農地転用前におこなわなければならず、住民説明会の開催などが必要です。
なお、事前協議が必要な面積について、10,000㎡以下に設定している自治体もあります。
農地がある程度広い場合は、都道府県と市町村それぞれに、念のため確認を取ることをおすすめします。
農地転用は大きく分けて「農地所有者自身による農地転用(農地法4条許可)」と「第三者への権利移転を伴う農地転用(農地法5条許可)」の二つがあります。
以下、前者の手続きについて詳しく紹介します。
農地転用の手続きは、農地の所在地にあたる市町村の農業委員会が窓口になります。
まず申請者が、必要書類を農業委員会に直接持参して提出します。書類の提出期限は、毎月〇〇日までと各自治体ごとに決められています。
書類を提出すると、農地転用の審査が始まります。農地転用の審査は、農業委員会を経由して都道府県知事等でおこなわれます。審査が終了したら、農地転用許可等が、農業委員会を経由して申請者に通知されます。農地転用の審査期間はおおむね3カ月程度ですが、内容により前後する場合があります。
農地転用の許可が下りたら、申請者は農業委員会の窓口で許可書を受け取ります。
なお、市街化区域内農地または生産緑地の農地転用の場合は、農業委員会に必要書類を届出すれば農地転用が可能です。
所有している農地が生産緑地に該当する場合、農地転用手続きの前に「生産緑地の指定解除」が必要です。
「生産緑地の指定解除」とは都市計画の生産緑地地区に指定されている農地(生産緑地)を、その指定から解除する手続きをいいます。この指定解除をおこなってからでないと農地転用はできません。
指定解除するには、主に下記条件のうち、いずれか一つを満たす必要があります。
なお、生産緑地の指定解除は、近隣農地と合わせて指定解除される可能性があるため、指定範囲に注意が必要です。また、自治体ごとに細かな条件も多く、必ず農業委員会などに確認を取りましょう。
指定解除手続きは、最低でも3カ月以上かかります。手続きは、余裕をもって計画することをおすすめします。
実際に手続きをおこなうには、多くの必要書類の作成、取得する必要があります。
主なもの必要書類は以下になります。なお、自治体により異なる場合があります。
・農地転用申請書
・申請地の登記簿謄本
・転用理由書
・付近見取り図
・公図
・印鑑証明書
・設置配置図
・土地断面図
・排水計画図
・資金計画書
・工事見積書
・資金証明資料
・隣地所有者同意書
・誓約書
・関係土地改良区等意見書
・地区担当農業委員への説明確認書
・各課事前確認書
・開発不要証明書
・現況写真
・代替地検討資料(3種農地以外の場合)
・その他必要な場合に係る書類
このほか、農地面積が広い場合は「事前協議」、所有している農地が生産緑地に該当する場合は「生産緑地の指定解除」が別途必要です。
これら書類の作成や取得には時間と労力、専門知識などが求められます。また、各課や各団体などへ何度も足を運ばなければなりません。
一般の人が手続きをおこなうのは難しいため、費用はかかりますが、専門家である行政書士に依頼するのが一般的です。
ここでは設置するときの注意点について、五つ紹介します。
太陽光発電をおこなうには、農地から雑種地への地目変更をしなければいけません。雑種地へ地目変更をおこなった場合、固定資産税が上がる可能性があります。今まで非課税だった土地が課税される場合もありますので注意が必要です。
太陽光発電は管理が重要ですが、一定の手間がかかります。
例えばパネルに汚れがあると生産性が下がるため、パネル清掃は欠かせません。
また雑草刈りや水路、ため池の清掃のほか、害獣によるフェンスの損傷がないか確認が必要です。これらのメンテナンス管理を怠ると、近隣住民から苦情が出る可能性があります。
またワット数が50kw以上になる場合、「保安規程の届け出」と「電気主任技術者の選任」が必要になります。
上記の手間を考えると、設置業者など管理業者にお願いすることも考えられます。ただしその際も、管理業者がきちんと管理しているか、倒産しないかなど確認は必要です。
太陽光パネルの耐用年数は約20年といわれています。その後は廃棄処分しなければなりませんが、問題となるのが廃棄処分費用です。
2024年現在、廃棄処分の時期に入っている太陽光発電がでてきていますが、廃棄処分費用がない事業者が問題となっています。廃棄処分費用がない業者は、不法投棄をおこなったり、廃棄しなければならないパネルなどをそのまま放置したりする恐れがあります。
廃棄処分時期に廃棄費用がなく、こうした業者に依頼しないと廃棄処分できない、といった状況にならないように、廃棄処分の費用計画を立てておくことが重要です。
最近、毎年のように全国各地で自然災害が発生しています。この自然災害によりパネルが崩壊する事例があります。
自然災害が発生しても対応できるように、事前に太陽光発電設置業者や関係先の緊急連絡先、関係書類などをまとめておくことが重要です。
太陽光発電をおこなう場合、売電価格は「FIT制度」によるのが一般的です。
FIT制度とは、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法、通称FIT法による固定買取制度のことです。国から認められた太陽光発電設備の場合にこちらの制度を利用でき、安定した事業計画につながります。
2024年度の価格は、以下のとおりです。
・10kw未満(住宅用太陽光発電):16円/kwh
・10kw以上50kw未満:10円/kwh
・50kw以上:9.2円/kwh
買取価格は、制度利用した年を基準に算出されます。この価格が太陽光発電による利益を決めることになるため、設置するときにはいくらになっているのか、FIT認定開始時期と太陽光発電時期があっているのかなどを必ず確認をするようにしましょう。
農地で太陽光発電をおこなうときに必要になる主な費用には、以下が挙げられます。
・太陽光発電設備費用
太陽光発電にかかる費用です。太陽光パネルをはじめ、発電した電気を変換するパワーコンディショナー、電線、施設を囲む柵やため池などがあります。
・土地造成費用
設備を設置するため土地を盛ったり切ったりなど、土地の造成が必要な場合があります。
・農地転用などにかかる費用
上記で紹介した農地転用手続きにおいても費用がかかります。
・関係団体の脱退金費用上記で紹介した土地改良区や水利組合等への脱退金です。
・電力会社との接続費用
太陽光発電で売電する場合、電力会社と接続しなければ電気を売ることはできませんが、その際に費用が発生します。
・事業計画認定費用
太陽光発電を売電する場合、事業計画認定が必要です。認定手続きはご自身でも可能ですが、専門家にお願いする場合は別途費用が発生します。
・発電側課金
これまで小売業者などが負担してきた送配電線設備の管理費用を、2024年から新たに発電側も負担対象になるため、今後、課金発生の可能性があります。
・太陽光発電設備廃棄費用
太陽光発電設備は、利用終了後の廃棄費用も必要です。
・太陽光発電設備の保険
火災保険や施設所有管理者賠償責任保険の費用もかかります。
上記以外にも設備管理費用などもあり、太陽光発電をおこなうには多額の費用が掛かるため、しっかりと計画を立てる必要があります。
なお各費用は状況に応じて大きく変わるため、具体的な費用について詳しく知りたい場合は各事業者や専門家に問い合わせることをおすすめします。
上記のとおり、太陽光発電には多額の費用が掛かります。そのため補助金の活用が重要です。
しかし新型コロナウイルスの影響で、補助金はこれまで以上に利用目的が厳しく見られ、要件も細かくなってきています。太陽光発電単体での補助金は今のところほとんど見当たりません。
ただし、補助金は毎年予算が決まるため、国や自治体のWebサイトをこまめに見て、募集されていないか確認してみましょう。
太陽光発電をおこなうときによくあるトラブルとしては、次のようなものが挙げられます。
・近隣からクレームがくる
・設備設置の妨害をされる
・近隣所有者の妬み・ひがみなどにより悪い噂が広がる
このなかで特に注意したいのが、近隣とのトラブルです。
近隣とトラブルになると、設備を設置するときだけでなく、その後の管理にも影響を及ぼす場合があります。そのため、トラブル予防の事前対策が重要です。
例えば農地で設備を設置するときに里道などを使用する場合は事前に近隣に伝えておく、設置の時期は農作物の種まきや収穫期などの繁忙期を避ける、などをしておくとトラブル予防につながります。
現在、農業に関する法令が改正、創設されています。
特に農地については法令改正等により、耕作放棄地の活用するための地域計画の作成や利用意向調査などが実施されており、農地所有者は農地を放置することが難しくなりつつあります。
また農地自体も放っておくと耕作することが困難になり、近隣農家から苦情が入る可能性もあります。
そのほか、耕作放棄地の場合は、固定資産税が農地から雑種地へ変わり、固定資産税が上げられる可能性もあります。
農地の放置はリスクが高まるため、活用方法を考えなければなりません。
農地から太陽光発電をおこなった場合、農地に戻すのは難しいと考えられます。
それには二つの理由があります。一つは、地目を一旦、雑種地にしてしまうと農地(田・畑)に戻すことが困難なためです。
もう一つは、土壌を作り直す必要があるためです。太陽光発電を設置すると土壌を耕作しなくなりますが、長らく耕作していないと、土壌は農作物を栽培するだけの養分を失います。再び農地として活用するには土壌の作り直しが必要ですが、その作業には手間も費用も大きくかかります。
これらの理由から農地に戻すのが難しいと考えられるため、太陽光発電を始めるときは十分に検討する必要があります。
農地で太陽光発電をするときは、農地の手続きや費用、注意点、トラブルなどを把握しておくことが大切となります。この記事が少しでも参考になれば幸いです。
なお記事を読んで、太陽光発電が難しいと感じた人や太陽光発電以外での農地活用を検討したいという人には、土地活用プランを提案している不動産会社に相談するのもひとつです。
Web上には、そうしたプランを一括請求できるサービスもありますので、そちらを利用してみてもよいかもしれません。
(記事は2024年4月1日時点の情報に基づいています)