税理士に聞く“争族”を防ぐ生前対策 まずは「資産の棚卸し」を
2015年以降、相続税の基礎控除額が下がったことで、相続税の課税対象となる人が増えました。被相続人となる人が生前からしておくべき準備はどのようなことがあるのでしょうか。早めに税理士に相談するメリットや、2023年度の税制大綱で大きく変わる相続時精算課税制度制度について、税理士法人スーゴル(本社・東京都台東区)の代表税理士、森瀬博信さんに聞きました。
2015年以降、相続税の基礎控除額が下がったことで、相続税の課税対象となる人が増えました。被相続人となる人が生前からしておくべき準備はどのようなことがあるのでしょうか。早めに税理士に相談するメリットや、2023年度の税制大綱で大きく変わる相続時精算課税制度制度について、税理士法人スーゴル(本社・東京都台東区)の代表税理士、森瀬博信さんに聞きました。
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――2015年に相続税の基礎控除額の引き下げがありました。これにより相続税の課税対象となる人が増えたことで、相談に来る人の変化はありましたか。
税理士法人スーゴルでは都内で月1~2回無料相談会を行っています。その無料相談会に来られた方で「うちはお金持ちじゃないから相続税は関係ないだろう」と思っていた方が、よくよくお話を聞くと申告対象者だったというケースはよくあります。富裕層でなくても、都内で一戸建てを所有しているような方には関係する話になってきました。
――具体的にどのような相談が寄せられるのですか。
相続税がどれだけかかるのか、また遺産の分け方についての相談が多いです。しかし、その前提段階として、「どこにどのような資産が、どれだけあるのか」の棚卸しが必要です。自宅以外に、山林や別荘地も所有していたことを親が亡くなってから初めて知る方もいます。また、親と同居していない子どもさんは親のメインバンクすら知らず、親の死後、通帳がどこにあるかさえ検討もつかず困ってしまうケースも多いです。
実際にあったケースで、もともと県外で別々に暮らしていたものの、お母さんの病気療養をきっかけに自宅に引き取って一緒に暮らし始めたという娘さんがいらっしゃいました。その時は「一時的だから」と、お母さんの預金通帳などもすべて実家に置いたままだったのですが、数年後にお母さんは亡くなってしまいました。
その後、実家に帰ってみると、長期で不在にしていたためか空き巣が入られてしまった様子で、通帳が1冊も見当たらない。お母さんはどこに預金を預けていたのかもわからず、実家の近くにある金融機関に「母の預金はありませんか」と手当たり次第に聞いて回ったそうです。
相談に来られた子どもさんは、皆さん口をそろえて「まとめておいてくれたらよかった」「取引のある金融機関や保険会社の名前だけでも教えておいてくれたら」とおっしゃいます。ネットバンクやネット証券は通帳もなく郵送の通知が届かないことも多いため、遺族がその存在にすら気が付かない可能性もあります。自分の資産の棚卸しは、残された子どもたち(相続人)のためにもぜひ行っておいてください。
――「資産の棚卸し」はどのように行えばいいですか。また、他に被相続人となる親が生前からしておくべきことはありますか。
現在取引がある銀行や保険会社をまとめたメモを用意しておきましょう。無料相談会に来た方には、預貯金や加入している保険、株式・投資信託などを書き出しておけるエンディングノートを差し上げています。
また、残されたお子さんたちが「争族」になってしまうのを防ぐためにも、きちんと財産の棚卸しをした上で、遺言書を書くことをおすすめしています。子どもさんは、相続税対策など不安に感じていても、「親に言うと『そんなに遺産が欲しいのか』と思われてしまうのでは」と切り出しにくいものです。ぜひ親御さんの方から子どもさんを誘って、親子で一緒に相談に来てください。
――税理士事務所に相談に行くのはハードルが高いものです。どのような準備が必要でしょうか。
固定資産税の通知書などがあれば、より具体的なお話ができます。しかし書類をすべて揃える必要もなく、「どこから手を付けたらいいのかわかりません」という状態で相談に来られても全く問題ありません。むしろ「不動産を相続したからまずは名義を変えなくては」と、先に司法書士さんのもとで相続登記を終えた後、われわれ税理士のもとに相続税の相談に来られる方がいます。節税という観点では先に税理士の方に相談に来てほしかった、と思うケースもあります。
――「先に税理士に相談に来ておいた方が節税につながった」というのは、具体的にどういったケースが考えられますか。
不動産の売却益から最高3000万円まで非課税になる特例、いわゆる「3000万円控除」にまつわるケースです。親の死後、実家を売却して子ども2人で現金で分割する場合を例に挙げます。同居していた長男1人が相続して売却すれば、3000万円控除が適用されます。しかし、同居していた長男と同居していなかった次男とで、2分の1ずつの共有名義にしてから売却してしまうと、特例は住んでいた長男の方にしか適用されません。つまり、本来は控除できたはずの税金を、同居していなかった次男が払うことになってしまうのです。
その他にも、遠方の親の自宅を相続した際は、「空き家3000万円特別控除」を受けられる可能性があります。しかし、いくつかある適用要件のうちの1つに「(昭和56年5月31日以前に建築された建物については)空き家を解体して売却すること」という条件があります。この「解体して売却」という点を不動産屋さんは知らず、「こちらで壊すのでそのままでいいですよ」と言われてそのまま売却してしまった。その結果、「空き家3000万円特例」が使えないというケースもあります。
司法書士さんや不動産屋さんは税金の専門家ではないため、これらの特例の適用要件を知らない可能性もあります。「結果は同じなのに、順序やタイミングによって数百万円の税金を払うことになってしまった」ということが起こり得ます。不動産の名義変更の大筋が決まっていても、まずは実際に変更する前に税理士にご相談に来ることをおすすめします。
税理士法人スーゴルでは、税理士のほかに相続士の肩書をもつスタッフもいます。相続の専門家として年間50~60件の相続案件を手がけています。
――相続について税理士に依頼する場合、どんな視点で依頼先を決めるとよいでしょうか。
実際に会って話をして、きちんと話に耳を傾けてくれるかどうか。それが、信頼関係を築ける税理士を見極めるポイントのひとつであると思います。当事務所は、無料相談会を実施しているほか、初回の相談も無料です。
また最初に見積もりで料金を決めたら、その後は「1回の面談につき○円」といった時間制限や料金設定もありません。面談に時間制限があると「1時間ですべて話さなくては」と焦ってしまい、本当に相談したかったことが話せずに終わってしまうこともあると思います。気負わずに相談にいらしてください。
――2023年度の税制改正大綱で、「相続時精算課税制度」と「暦年課税制度」の生前贈与加算が大きく変わります。新たな相続時精算課税制度では、これまでの贈与税の特別控除(累計2500万円)に、新たに基礎控除(年110万円)が追加されます。この税制改正によって今後は相続時精算課税制度による贈与は活用しやすくなるのでしょうか。
新たな相続時精算課税制度の「年110万円までなら相続税も贈与税もかからず、贈与税の申告も不要になる」というのは大きなメリットで、使い勝手が良くなると言えるでしょう。贈与者・受贈者が直系の血族であることが条件なので、他人同士の贈与では暦年課税が残りますが、親子間は相続時精算課税制度を活用する利点はあります。また、暦年贈与では贈与税額控除でも払い過ぎた税金の還付はありませんが、相続時精算課税は返ってくるというメリットもあります。
――相続時精算課税制度の注意点はありますか。
「年110万円」は資産を移転していくにはスピードが遅いので、資産の規模によっては最適な方法とは言えない可能性もあります。
また、相続時精算課税制度で贈与された側が覚えていなかったり、心当たりがなかったりして、税務署から修正申告を指摘されることがあります。実際に複数の依頼者の方であったのが、家を建てるお金などを親から贈与してもらったものの、相続時精算課税制度を使っていることをお子さんが全く知らなかったというケースです。その後、親御さんが亡くなり相続税の申告をした際に、税務署から「相続時精算課税の部分が抜けていますよ」と指摘が入り修正申告をした依頼者がいました。
生前贈与は、お子さんではなく親御さん主導で行われることが多いので、親御さんがよかれと思って手続きも済ませていることが多いです。そのため、親御さんの死後に子どもさんが「知らなかった」というケースもあります。今回の制度改革で活用する人も多くなると思いますが、生前には親子できちんと「贈与する」「贈与を受ける」という認識をしておくことようにしてください。
1969年に浅草で「岐村会計事務所」を創業。2007年に「すばる会計事務所」と所名変更。2017年9月にスーゴルグループとして税理士法人化し、本社を台東区上野に移転。現在は、税理士6人、公認会計士1人が所属。年間50~60件の相続案件を手掛け、相続税申告や事業承継のコンサルタントに力を入れる。土地の評価にも精通し、適切な評価に基づいた相続税の節税対策を提案する。
(記事は2023年3月1日現在の情報に基づきます)
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