私道の「持分」問題で建替えや売却が困難に 訳ありの相続不動産への対策とは
相続した実家などの不動産に思わぬトラブルが発覚し、活用したり売却したりすることができなくなるという問題を、元住宅メーカー社員で現在はファイナンシャル・プランナーの橋本秋人氏が、シリーズとして解説します。今回は、持分の把握や近隣住民の同意取り付けに手間がかかる「私道」の問題を扱います。
相続した実家などの不動産に思わぬトラブルが発覚し、活用したり売却したりすることができなくなるという問題を、元住宅メーカー社員で現在はファイナンシャル・プランナーの橋本秋人氏が、シリーズとして解説します。今回は、持分の把握や近隣住民の同意取り付けに手間がかかる「私道」の問題を扱います。
目次
たとえばあなたの相続した実家が、一見何の問題もない「ちょっと狭いけど、よくある道路」に面しているとします。生前親には、「家の前の道路は私道ではあるが、相続した後に建替えや売却をすることはできるはずだ」と言われていました。
しかし、いざ建替え・売却をしようとしたときになって、「私道」であることが原因で建替えや売却がむずかしいことが発覚してしまうケースが実家をはじめ不動産の相続ではよくあります。こういった事態に巻き込まれると、自分自身のライフプランが大きく崩れてしまうリスクさえあります。
今回は、そのようなトラブルの原因、「私道の問題」について解説していきます。
道路は、「公道」と「私道」に大きく分けられます。公道とは国や地方自治体(都道府県や市町村)が管理している道路を言います。一方、私道とは、個人や民間企業(以下、まとめて個人とします)が所有・管理している道路のことです。
一般的に私道は、個人が単独で所有しているか、複数の個人が共同で所有しています。
複数で所有している形態としては以下の図のようなケースがあります。
最も多いのは、ケース1のような共有名義です。その場合、私道全体の面積のうち、〇〇〇分の〇〇というように所有権を持分で登記します。
その他に、古い分譲地などでは、私道を分筆して、宅地の所有者がそれぞれの私道部分を所有していることもあります。その場合、必ずしも自分の土地の目の前の私道部分を所有するとは限らず、ケース2のように私道部分をアトランダムに所有するケースも見られます。
公道でも私道でも、敷地が2m以上その道路に接していれば、建物の建築許可は得られます。(建築基準法43条)
ところが、法的には建築が問題なくできる敷地でも、接している私道に所有権(持分)を持っていないと、建築の工事を行うことができない場合があります。
私道では、維持管理も個人の責任と負担で行います。例えば、複数の人が共同所有している私道が傷んで路面がでこぼこになってしまったり、道路に埋設している水道管や下水管が老朽化してしまったりした場合などは、私道の所有者が共同して補修や交換をします。
そのため、私道の持分を持っていない人が、いざ建物を建替えしたり、上下水道管の引込みをしたりする場合、勝手に道路を掘削したり、工事車両を通行させることはできません。私道の持分を持っている所有者全員からの「道路掘削承諾書」や「通行承諾書」が必要になります。
私道の持分を持っている近隣の人たちとの関係が良好であれば、承諾書を得ることも可能ですが、多くの場合、多額の承諾料を要求されます。また、近隣との仲が良くないなど、様々な理由で承諾が得られないケースも少なくありません。そうなると、せっかく建築の許可を得ることができても、工事自体ができません。
建築やメンテナンスができない不動産では、売りに出しても買う人がいないということになってしまいます。
また私道に所有権を持っている場合でも、図1ケース2のように私道を分筆してそれぞれが所有しているケースは、私道の所有者全員が承諾書を持ち合っていないとトラブルになる可能性もあります。
実家を相続したAさんは、維持費を負担しながら10年以上空き家のままで所有してきましたが、Aさんには持ち家もあり今後も実家を利用することがないため、家族で話し合って実家を売却することにしました。
ところが不動産会社に相談すると、私道に持分がないので、道路掘削・通行承諾書がないと売却はむずかしいと言われてしまいました。私道に持分があると思っていたAさんはおどろいて、私道の状況について調べてみると、Aさんの持分は実家が接している私道でなく、なんと実家から離れた私道の中にあったのです。
自分の持分と思っていた実家の目の前の私道は離れた場所にあるGさんの所有でした。
Aさんが実家を売却するには、建替えができる不動産にしておく必要があります。
そのための解決方法には、
1.Bさん、Dさん、Eさん、Gさんから道路掘削承諾書・通行承諾書をもらう
2.Gさんと私道の持分を交換し、かつBさん、Dさん、Eさんから道路掘削・通行承諾書をもらう
3.隣地のBさんに土地を買ってもらう
4.Bさんの土地を購入してから、まとめて売却する
などが考えられます。
ですが、いずれもハードルが高い対処法です。
今回ご紹介した私道の持分に関する問題はけっして珍しいことではありません。
しかし最も大きな問題は、相続した子が不動産の問題を知らなかったということが多いことです。
親の代では、近隣との付き合いもあるため、このような問題があっても解決できる可能性が高くなりますが、子ども同士の代になると、近隣関係も希薄になり、かんたんに承諾してもらえないことが少なくありません。
相続した不動産の問題は、早めに把握し、解決方法を探る必要がありますが、親の生前に解決できるように、日ごろから親子のコミュニケーションを持ち、問題を共有しておくことが大切です。
特に私道の問題は、法律的に複雑で人間関係も絡んでくるため、弁護士など専門家のサポートを受けながら早期に解決を図ることをおすすめします。
前回は、訳ありの相続不動産について総論を書きました。「相続会議」では、引き続き相続と不動産土地活用について記事を執筆していきたいと思います。
(記事は2020年8月1日時点の情報に基づいています)
クランピーリアルエステートは、底地や共有持分、再建築不可物件といった、いわゆる訳あり物件を専門的に取り扱う不動産企業。これまでに培ったノウハウと、不動産専門の弁護士や税理士などの全国ネットワークを活かし、問題を解決します。
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