相続登記の義務化になる前に実家の登記情報を今すぐ確認を 神奈川県司法書士会インタビュー
2024年4月から相続登記の義務化が始まります。相続登記は一般の生活者にとってはなじみのない手続きですが、亡くなった親の名義変更をしないままでいると、ペナルティが課される可能性があります。新制度の詳細と今からできる対策について、神奈川県司法書士会(横浜市中区)の副会長で司法書士の塩﨑博一さんに聞きました。
2024年4月から相続登記の義務化が始まります。相続登記は一般の生活者にとってはなじみのない手続きですが、亡くなった親の名義変更をしないままでいると、ペナルティが課される可能性があります。新制度の詳細と今からできる対策について、神奈川県司法書士会(横浜市中区)の副会長で司法書士の塩﨑博一さんに聞きました。
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――2024年から相続登記の義務化が始まります。どのように法制度が変わるのか教えてください。
まず、新しい法制度の方向性からお話します。現在、日本の国土の中で所有者がわからない土地があちこちにある中で、水道管やガス管などのライフラインを敷設したり、公共工事をしたりするときに「誰に許可を取ったらいいのかわからない」という問題が起きています。災害発生後の復興が遅れてしまう恐れもあります。
また、草が生い茂っていて塀が倒れそうな空き家を目にしたことがある人も多いと思いますが、近隣住民にとっては防災面・安全面で脅威となる存在です。
これらの問題に対処するには、「土地の所有者をはっきりさせること」と「土地の管理をしっかりさせる」という2つがポイントです。この「所有者はっきり・管理しっかり」するための、3つの新しい制度ができます。
3つの制度のうち、まず1つ目は、2023年の4月1日から始まる「所有者不明・管理不全土地・建物管理制度」です。所有者がわからず、雑草が生えっぱなしで塀も倒れそうな空き家などの土地や建物について、裁判所がその不動産を管理する管理人を選任する制度です。
管理人には司法書士などの専門家が選任されます。これは「所有者はっきり・管理しっかり」のうち、「管理しっかり」のための制度です。
2つ目は、2023年の4月27日から始まる「相続土地国庫帰属制度」です。相続などで取得したものの「管理費もかかるし、いらないよ」という土地を、国に対して返す制度です。返す土地には一定の条件があり負担金もありますが、不要な土地を手放すことができる。これは、国に所有権を渡すということなので、「所有者はっきり・管理しっかり」のうち「所有者はっきり」のための制度です。
最後が、巷で話題にもなっている、2024年4月1日から始まる相続登記の義務化です。押さえてもらいたいのは、「3年以内」と「10万円」の2つのキーワードです。
相続が始まり、自分がその不動産の所有権を取得したことを知ったときから3年以内に相続登記をしなければなりません。具体的には、相続が開始して自分が相続人であることを知った時点や、遺言で自分が不動産の所有者になっていることを知った時点。もしくは、相続人の間で遺産分割協議をして「この土地は自分が相続する」と決まった時点です。そして、理由もなく3年以内の登記を守らなかったときは最大10万円の過料を支払わなくてはいけない可能性があります。
――これまで不動産の登記は売買などの際は気にするものの、相続の際には義務でなかったこともあり関心は低かったように思います。今すぐにでも確認するべきことはありますか。
皆さんにぜひやっていただきたいのは、ご自宅の登記情報を取ることです。例えば、実家に母親が1人で住んでいるとします。その土地・建物は当然母親の名義になっていると思ったら、5年前に亡くなった父親の名義のままというケースは多いです。もしくは、建物は亡くなった父親名義で、土地は先祖代々のひいおじいちゃんの名義のままのケースもよくあります。
この2024年4月1日から施行される相続登記義務化の法律は、昔の相続にも適用されます。昔の相続が起きたとき(父親が亡くなったとき)で自分が所有権を取得したことを知ったときから3年後か、2024年4月1日から3年後の、どちらか遅い方までに相続登記をしなければいけません。つまり、最低でも2027年4月1日までに登記をしなければ、10万円の過料の可能性があるということ。だからこそ、今すぐにでも登記情報を確認してください。
――これから亡くなる人だけでなく、不動産を持っている人なら誰しも関係してくるということですね。登記情報はどのように取得するのでしょうか。
法務局に行くか、もしくはオンラインでも取得できます。オンライン請求は窓口請求よりも手数料が安く設定されています。
――相続登記義務化により、親の生前、または相続が始まってからすべきことはどんなことでしょうか。
不動産を遺す親は、遺言をしておくことが有効です。遺言書がある場合は、原則としてその遺言どおりに相続登記を申請できるので、相続人同士が話し合いで揉めるリスクを抑えることができます。相続登記をスムーズに進めるという意味でも、遺言をしておくことが今後はより求められるようになるでしょう。
相続発生後、「3年以内に相続登記を終わらせられそうにない」「誰の名義にするか決められそうにない」という場合は、とりあえずの手続きとして法務局で「相続人申告登記」を行いましょう。これは、自分が登記名義人の法定相続人であることを法務局に申し出をすると、その旨が登記されるという制度です。
相続人申告登記に必要な書類は、例えば親が亡くなって子どもが相続人の場合、自分が亡くなった人の息子であることなどがわかる戸籍が1通あれば十分です。自分の分だけで構いませんが、他にきょうだいがいれば代わりに一緒に持って行ってあげても構いません。これはいわば仮の登記のため、相続物件の売却はできません。ただ、相続登記よりも簡単な手続きで、「10万円」の過料を回避することができます。その後、きょうだい同士の話し合いで遺産分割協議が成立したら、そこから3年以内に相続登記をしてください。
――相続登記をする場合、どの段階から司法書士の方に相談にいくべきでしょうか。
相続登記が義務化になる前から、我々司法書士は「相続登記はお早めに相談してください」とアナウンスをしてきました。そのスタンスは基本的には変わりません。ただ、遺言があるときの相続登記はとにかく早くしてください。遺言書と、亡くなった方の戸籍と、相続財産を受け取る方の戸籍などを持って、直ちに司法書士の方に相談に行くことをおすすめします。
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相続登記に強い司法書士を探す遺言書は、法定相続分以上の遺産分割が可能です。例えば、父親と、その子どもの息子(兄)と娘(妹)がいたとします。父親は娘を溺愛していて、娘に「全財産残す」と遺言をしました。娘もその遺言の存在も知っていて、父親の死後、「遺言があるからいつでも登記できるわ」と悠長に構えていました。一方の息子は、ギャンブルで消費者金融からあちこち借金を重ねていました。このようなケースで起こりうるのが、息子にお金を貸している利害関係人が、息子の代わりに法定相続分で登記を入れてしまうというケースです。
本来であれば娘が100%不動産をもらえるにもかかわらず、兄と妹で法定相続分の2分の1ずつの登記を入れられてしまう。そして、その息子の持分に、お金を貸している業者の差し押さえの登記が入っているのです。
娘は「私が遺言で全部相続できるはずなのに、おかしいから取り消して」と言っても、そのとおりの遺言があったとしても、先に登記したほうの勝ちです。つまり、遺言があっても自分の法定相続分以上のものについては早く登記しなければ、先に誰かに登記されたら負けてしまうということです。そうなってしまっては、残念ながら妹さんは後から泣いても遅い。その後、息子が自分の持ち分を業者に売却し、その業者が娘のところにも「安く売ってくれないか?」という要求をしてきて、娘が揉め事に巻き込まれる可能性も出てきます。こういったトラブルを回避するためにも、遺言があるときはまっさきに相談に来ていただきたいです。
――司法書士に相談に伺う前にしておく準備はありますか。
亡くなった人の戸籍は必要ですが、急ぎであれば何も持たなくても構いません。司法書士は職権で戸籍を取得することができます。ご自身で戸籍を取ってもいいですし、司法書士に委任しても大丈夫です。「〇〇をしなきゃいけない」「〇〇の書類を揃えなければいけない」と堅く構える必要はありません。必要な書類があれば相談時にきちんと説明しますし、大船に乗った気分でいてください。
相続は「時間との勝負」の規定が多いです。例えば、相続放棄を決める期限は3カ月以内。最低限保障された相続財産の取り分である「遺留分」をもらえていないと他の相続人に請求する遺留分侵害請求の時効は1年。そしてとうとう登記にも期限ができます。「おじいちゃんの名義のままだったけど、3年あるからまあいいや」と悠長に構えず、できるだけ早く司法書士にご相談ください。
【神奈川県司法書士会】
横浜市中区の本会のほか、神奈川県内の各所に支部を設置。司法書士約1200人、司法書士法人約90法人が登録。相続不動産の名義変更(相続登記)や、遺産分割協議書作成、遺産承継や放棄などの相続全般のサポートを行う。その他、裁判手続き、成年後見など守備範囲は広い。定期的にイベントや相談会も開催している。
(記事は2022年12月1日現在の情報に基づきます)
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