相続税と贈与税の一体化がなぜ改正に至らなかったのか

今年の後半、一部メディアでは「もうすぐ相続税と贈与税が一体化される」「暦年課税制度がなくなる」などと論じるようになりました。これを見て、「暦年贈与はもうできなくなるかもしれない」と考えていた人も多いようです。しかし、実際には今回の改正には至りませんでした。なぜでしょうか。

●世間から反発されるような改正はしにくい

清三津さんは「政府税制調査会(以下「政府税調」)で『相続税と贈与税の一体化』は、ほとんど議論されていなかったようです」と言います。

「確かに、今年の初め、国税庁は情報収集に当たっていたようです。実際、弊所にも、富裕層が行う生前贈与の実態に関してのヒアリングが国税庁からありました。しかしその後、政府税調で、相続税と贈与税の一体化は議題に上がらなかったようです」。

多くの人に影響が出るような内容は、改正として実行しづらいのかもしれません。実際、岸田政権以降、「金融所得課税を増やす」という話が出ましたが、批判を多く受けて取り下げになりました。

暦年課税制度も同じです。「生前贈与について110万円まで非課税」というのは広く一般に普及しています。根本から変えて「すべて課税」と言ったら反発を受けるでしょう。国が「中立的な税制」と言っても、一般の人は「増税」と受け止めるものです。

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●改正されるとしても段階的に

とはいえ、将来、相続税と贈与税の一体化の可能性がないとは言えません。今回の税制改正大綱の「基本的考え方」にも、一体化課税について触れています。国は相続税と贈与税の一体化を諦めていないのです。

「そうであったとしても、暦年課税制度の廃止や相続時精算課税制度への一本化がいきなり行われることはないでしょう。大きな改正は国民の反発を招きますので難しいのではないでしょうか」と清三津さんは言います。

「いずれ改正されるとしても、大幅な見直しでなく、生前贈与加算の対象期間の延長が現実的でないかと思います。現在、相続開始日以前3年間の贈与を相続財産に加えるわけですが、この期間を5年とか10年に延長する可能性はあるのではないでしょうか」。

【参考】亡くなる前の3年以内に受けた贈与は相続税の対象? かかるケースと注意点も確認

●「一体化=贈与できない」ではない

相続税と贈与税の一体化の話から、「生前贈与はもうできない」と感じてしまう人が多いようです。しかし、贈与は民法に定められた法律行為です。課税がされたとしても、生前贈与ができなくなるわけではありません。仮に税制改正で一体化課税が行われたとしても、これまで行ってきた生前贈与について、生前贈与加算以外で相続税を課税することは難しいでしょう。

とは言え、先行きの読めない状況だと「生前贈与をしていいのか」と迷うのが人間というものです。その不安をなだめるように、清三津さんは助言してくださいました。

「現在、生前贈与を考えているのであれば、しておいた方がいいでしょう。その時の最善の選択をすればいいのです。もし、改正などで手直しが入ったら、その時に見直しを検討するのが良いと思います。漠然とした不安にとらわれて何もできないのが一番もったいないのです」。

住宅取得等資金の贈与税の非課税措置が延長かつ縮小

身近な税制改正として「住宅取得等資金の贈与税の非課税措置」が挙げられます。この制度は本来、今年の12月末までが期限でした。しかし、改正で2年間延長、2023年12月31日までとなりました。

ただし、新築住宅の非課税枠は一部、縮小されます。来年1月1日以降、省エネ・耐震・バリアフリーのいずれかに当てはまる物件なら一律1000万円、それ以外の物件なら一律500万円が非課税限度額です。

なぜ非課税枠が縮小されたのでしょうか。清三津さんは「制度自体、経済政策の一つだったから」と言います。

「元々、恒久的に続けるつもりはなかったと見られます。最大3000万円まで非課税だった時期もありますが、これは消費税が増税された時期の措置です。10%の税率が浸透した今、過大に優遇する必要はありません。だから、非課税枠が縮小されたのでしょう」。

その一方、緩和されている要件もあります。新築の契約時期や中古の築年数です。前者は耐震・省エネ・バリアフリーの基準を、後者は新耐震基準を満たしていれば、契約時期や築年数を問われなくなりました。清三津さんは「国の意向が変更の背景にあるのでは」と言います。

「カーボンニュートラルが求められているのは、法人分野だけではありません。だからこそ、『新耐震基準に合うか』『省エネ・耐震・バリアフリー型か』を重視するような内容に変わったのではないでしょうか」。

財産債務調書制度の対象に「所得0円でも総資産10億円以上」が加わる

財産債務調書制度とは、一部の富裕層が、自身の資産と負債の内容を税務署に届け出なくてはならない制度です。未提出や記載漏れにはペナルティがあります。

現在、この調書を提出すべき人は、次の3つを満たす人となっています。

  • 所得税の確定申告書の提出義務がある
  • 所得の合計額(退職所得を除く)が2000万円を超える
  • 12月31日時点で総資産3億円以上または1億円以上の有価証券等を保有している

今回の改正で「総資産10億円以上」の人にも財産債務調書の提出が求められるようになりました。要件は資産額のみで、所得が書かれていません。つまり、所得が0円でも総資産が10億円以上なら制度の対象となるのです。

そんな人はいるのだろうか、と不思議に思っていると「たくさんいますよ」と清三津さんが例をあげて教えてくださいました。

「例えば、賃貸建物をすべて資産管理会社に持たせている地主さんです。家賃は会社に行くようにして、給料は妻が受け取るようにすれば生活には困りません。

この他、証券取引をしている人でも総資産10億円以上で所得ゼロというケースがあります。源泉徴収ありの特定口座で運用益を受け取り、申告不要を選択すれば、現行の財産債務調書制度の対象から外れるのです」。

「国としては、調書制度の対象者を広げ、相続税や贈与税、財産処分時の課税漏れをより強く防止したいのでしょう」と清三津さん。富裕層の持つ資産への課税は、今後少しずつ強まっていくのかもしれません。

(記事は2021年12月1日時点の情報に基づいています)