エンディングノートは親子を助ける 実体験から分かる介護での活用法
エンディングノートを書くことは終活の一つとして知られていますが、介護の際にも役立つことがあります。親が考えている老後や死後の希望を事前に知っておくことで、本人の希望をできるだけ叶えられ、家族も相続の対処で悩む場面を減らすことができるからです。ここでは私の母の事例を交え、構えすぎずにできるエンディングノート活用法をご紹介します。
エンディングノートを書くことは終活の一つとして知られていますが、介護の際にも役立つことがあります。親が考えている老後や死後の希望を事前に知っておくことで、本人の希望をできるだけ叶えられ、家族も相続の対処で悩む場面を減らすことができるからです。ここでは私の母の事例を交え、構えすぎずにできるエンディングノート活用法をご紹介します。
目次
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私の母は、1931(昭和6)年生まれの90歳。現在は右半身不随で要介護3です。母は19歳で結婚し、20歳で私(一人っ子)を産みました。教師だった父をずっと専業主婦として支え、夫婦で国内・海外旅行を楽しんでいました。知人・友人との交流も積極的でした。
父が亡くなった後も一人暮らしを謳歌していたのですが、12年前に脳出血で倒れたことをきっかけに、介護が始まりました。症状が落ち着いた頃、私は、これからの希望を母親に聞き取りました。しかし、記憶が抜け落ち不正確な点もあったため、交友関係などを聴き出すことにずいぶん苦労しました。
エンディングノートに関する相談を受けた際には、こういった事態に陥らないため、親が元気なうちに情報を聞き取り、まとめておくことを提案しています。
エンディングノートを書くことは、これからの暮らしを見つめ直す機会になります。もしも、相続について思いが至り、遺言書の作成などが気になったら、弁護士への相談をお勧めします。無料で相談できる事務所もあります。
エンディングノートは、親と子どもの双方に役立ちます。まず親にとっては、今までの人生を振り返り、今の自分を知り、「これから」を考えることができます。いわば終活のシナリオが完成するのです。子どもにとっては、親の希望が分かることで、老後や死亡後の対応に悩まずに済みます。エンディングノートを開けば、そこに答えがあるという「安心感」も得られます。
「そうは言っても具体的にどう書けばいいのだろう?」と、お悩みになるかもしれませんね。そこは肩の力を抜いて考えてみてください。
書けるところから書けば、いいのです。
決して1ページ目から順番になどと考えないでください。また大雑把で、いいです。詳細がわからなくても何とかなるものです。
老後の希望として押さえておきたいのは、まず病気・介護・住まいに関することです。私の母の例を振り返ってみます。
具体的には、次の3点が考えられます。
3点目について補足します。父が生前、体調の急変から食事を口から摂れなくなったとき、母は担当医師や施設の方の勧めもあり人工栄養(胃ろう)を選択しました。どんな状態でも父に生きていて欲しかったのです。ただ、父の意思はどうであったか。ハッキリしているうちに確認していなかったので分かりません。「体にいろんな管を差し込んでまで生かされたくはない」と考えたのではないだろうかとも思いました。本当はどうだったのか、聞いておくべきだったと後悔しています。
母が介護施設に短期入所していた時のことです。同室の方が亡くなって職員の方々が片づけをしている際、居合わせた私の妻に向かって「人騒がせな」とつぶやいたことがありました。そのことを聞いた私は「いくら何でも、その言いようはない!」と、あ然としました。自分の親が非常識なことをいうのが恥ずかしく、憤りさえ覚えたものです。もしかしたら、年を重ねることで、身の回りの人への配慮が乏しくなってきたのかもしれませんでした。このように、高齢になったとはいえ、人は考えが変わっていくものです。その前に、エンディングノートを書くことも大切だと実感しました。
介護状態になっても、できるだけ自立し、できることは自分でしたい、と思う方は多いかもしれません。とは言うものの、いざとなれば人を頼ろうとするのも人情です。母は本来一人で何とかできるのに、車椅子からベッドに乗り移るとき、手助けを待っていることがあります。例えば、デイサービスに行く日の朝、家族がちょっと目を離したすきに、自分で車椅子をベッドの側に引き寄せさっさと乗り移っていることがあります。確かに一人でできるのです。
しかし、夕方の帰宅時、玄関からベッドまでの廊下に段差があるので車椅子は家族が押します。本当はできるのに、ベッドの前で手助けを待っているのです。そこで私の妻などは「あとは自分でどうぞ」と伝えることがあります。なるべく、自分の力でできることは、がんばってもらう。このことは、母の体力を衰えさせないためにも必要と考えているからです。実際、母は、柵に手をかけて立ち上がり、自力でベッドに横になることができます。いまのところ、事故もありません。もちろん、母の疲れ具合などを考え、手を貸すこともあります。
母は、要介護になってからではありますが、エンディングノートで介護について「できることは自分でしたい」と書いていました。母にとっては、理想の形だったのでしょう。エンディングノートに介護についての希望を書いてもらうことは、元気なうちから、いざ介護を迎えた時に「自分がどうありたいのか」を強く自覚してもらうことにもつながったのかもしれません。
当初、母は自宅でデイサービスを利用して、一人暮らしに挑戦しました。しかし半年で2度も、ベッドから車椅子への乗り移りに失敗しました。このままでは本人・家族とも不安なので、私の家で同居を開始し現在に至っています。デイサービスを週3日利用し、冬場(12月~翌年3月)はデイサービスで利用している施設に入所しています。コロナ禍前にはショートステイも使っていました。
ところが2021年5月、母から「この家に私が居ると迷惑をかけるから、ずっと居られる施設を探してほしい」と、突如、お願いされました。どうも紙パンツや紙おむつの使用で、たまに漏れがあるのを気にしている様子です。私は下の世話を嫌がってはいないつもりですが、母には私の心が分かるのです。反省するとともにすごく寂しい気持ちです。
現在、特別養護老人ホームの資料を取り寄せ、申込みを検討中です。母は、要介護3なのですぐの入所は無理でしょう。将来への備えです。万一、今すぐ母の症状が重くなり入所が必要になったら、デイサービス利用施設に入所できるようです。
希望が変わっても大丈夫。前もって聞いていれば、代替案を含め余裕をもって対応できます。
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相続の相談が出来る弁護士を探す葬儀や臓器提供または献体・金融資産に関する希望も聞き出すようにしました。
葬儀での写真は、「元気なときに写真館で撮影した大判の写真を遺影にしてほしい」と言われました。きっと父が亡くなったとき、相応しい写真を探すのに苦労したからこその希望です。今度は母に指定してもらったおかげで、迷うことはありません。
母より先に亡くなった父は、当時珍しいといわれたピック病(前頭側頭型認知症の一つ)を患っていました。そのため担当医師から献体の打診があったのですが、母は悩んだ末、自分の考えで拒否しました。これについても父の考えが聞きたかったです。臓器提供や献体について本人がどう考えているのかを聞いておくと、いざという時にも家族が判断しやすくなると思います。
金融資産については、私(長男)に管理してほしい、と聞いています。ただ母の記憶は不確かな部分も出てきており、自宅の書棚や届いた郵便物を確認して、どこにどんな財産があるのか手探りで調べました。3年前、母の手提げ金庫から、ゆうちょ銀行の定額貯金の通帳を見つけ、母の介護費用にあてることができました。しかし、本当はまだ分からずじまいの通帳や証書があったかもしれません。将来、相続に直面した際、金融財産を把握するのは意外と難しいです。すべての通帳を準備しておく必要はありませんが、取引している金融機関さえわかれば、負担は軽減できます。このため、取引している金融機関をメモで残すだけでも構わないので、しっかり記しておくといいでしょう。
ここまで、エンディングノートの利点について書いてきました。実は、母親にエンディングノートを書いてもらうのは平たんな道ではありませんでした。「エンディングノートを書こう」と声をかけて、私が代わりに書き取ろうとしても、あいまいな返事しか返ってこず、遅々として進みませんでした。こういった経験をされている方は多いかもしれません。
我が家の場合、昔話を聞いたことが、大きなきっかけになりました。ある日のことです。母に小さい頃のことを尋ねることがありました。ソウル生まれで一つ違いの弟と家の前でよく遊んでいたこと、2人で小学校に通ったことを懐かしそうに話してくれました。
それ以降、エンディングノートの聞き取りが前に進むようになりました。今までの人生を振り返ることで、残りの人生での生き方にも思いを寄せたのかもしれません。エンディングノートは自分の死後について考えるので、後ろ向きになることもあると思います。そういった時、無理やり書かせようとするのではなく、いろいろなことを話してみるのが、回り道に見えて、実は近道になるかもしれません。人それぞれでアプローチは違ってくるのだと思います。
(記事は2021年10月1日時点の情報に基づいています)