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「ありがとうファイル」は家族への愛を伝えて残す「夢のバトン」 財前直見さんインタビュー(後編)
女優の財前直見さんの著書『自分で作る ありがとうファイル』(光文社)は、家族との絆を育み、自分自身も人生を楽しむ新しい人生ツールです。財前さんが作成をすすめるファイルは、死をイメージするエンディングノートを書くことには抵抗がある人でも、“今“を充実させるファイルなら気軽に始められそうです。ただ、自分や親の入院や介護や相続など、“もしも”のときの話は、なかなか切り出しにくいもの。インタビュー後編は親のファイルを作るときのアドバイスについて聞きました。
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前編の記事はこちら。家族の歴史から“もしも”の時の備えまで「ありがとうファイル」はかけがえのない財産 財前直見さんインタビュー(前編)
自分で書くことに抵抗があっても、インタビューに応じてくれた母
――ご両親はファイル作りに対してどのような反応でしたか?
自分のファイルを作ってから、両親にも「もしもの時のことを書いてよ」とお願いしたところ、父は自分で書いてくれました。ただ、母はものすごく緊張したようで「書いた後に、自分の死に対する気持ちが変わるかもしれないと思うと、なかなか書けない」と言っていました。そこで、「じゃ、インタビューならいい?」と、私が聞いておきたいことを質問するようにしました。
聞いたのは、母が小さい頃、どんな子どもだったのか、ということから始まりました。その当時好きだったものや、私にとっては祖父母である母の父母との思い出も聞きました。親に叱られたこと、楽しかったことも。そして、大人になってからの父との出会いや私たち子どものこと、今の自分、これからの夢など、母の人生についてじっくり話を聞くことができました。母と話をしていると父も加わって、あのときはこうだった、ああだったと次々に話がふくらんでいって…。普段の会話ではできなかった家族の話を聞くことができました。
当たり前ですが、親って、私が物心ついたときから大人でしょう? 大人だと思っていた両親が、若い頃にドジをした話とか、親に叱られた話は、とても興味深くて私もとても楽しかったです。両親も自分に興味を持たれるのがうれしかったようですね。
――親世代にファイル作りをスムーズに勧めるにはどうすればいいでしょう?
昔話や日常の会話の延長線上で「もし病気で入院したら、下着はどこから出せばいいの?」というように、日常の話題からだんだん“もしもの時”の話題につなげていけば、答える方の抵抗感も少ないでしょう。タイミングは、親族が集まったときに話をするのがいいと思います。私の知り合いの方でお母様のファイルを作っている人がいるのですが、お母様はもう90歳なので、葬儀はこぢんまりとしたものでいいのかなと思っていたそうなんです。でも、実際に聞いてみたところ「いや、盛大にしてほしい」って言われたそうです(笑)。こうして本人の気持ちがわかると、いざというときの指針にもなるし、迷わない。家族にとっても、「希望を叶えてあげられた」という充足感につながると思います。
親の“もしもの時”の話題をなかなか切り出せないという方は、まず自分のファイルを作ってご両親に見せるといいと思います。「お父さん、お母さんのことが知りたい、心配なんだ」という気持ちがあれば、相手に伝わると思っています。また、インタビューをするとき、その会話を録音しておけば、音声そのものがとても大切な宝物にもなりますよ。
介護や葬儀……”もしも”の時のことを話すのは、とても大切なこと
――「ありがとうファイル」を作成した後、ご両親に変化はありましたか?
私の両親は揃ってある葬儀会社の会員になっていたのですが、最近、母だけ会員を辞めたんです。どうしたのかと母に聞いてみると「私の葬儀は、とにかくお花でいっぱいにしてほしい。でも、あそこの葬儀屋さんは、花屋さんを自由に選べないみたいだから」という理由でした。自分の“もしもの時”のことも、大切なこととして考えられるようになったようです。
また、あるとき私が「介護されるときは、タオルは毎日替えてほしいな。柔軟剤の強い香りも嫌だな」という話をしたら、「私は清潔感のある介護士さんがいい」と母。また、家族で「棺桶には何を入れてほしいか」と話しあったこともあるんですが、父が「俺はゴルフバッグだな」と言うので、みんなで「そんなの大きすぎて入らないよ〜。第一、燃えないし!」と大笑いになったこともありました。最初は「ありがとうファイル」に一文字も書けなかった母ともこういう会話ができるようになったことはよかったなと思います。
――伺っていると、「ありがとうファイル」は、年齢を問わず必要なもののように感じます。
これは家族間のコミュニケーションツールでもあると思っているので、高齢の方だけのものではありません。たとえば中学2年生になる息子のファイルには、学校の入学許可証のほか通知表も入れています。そのほかにも「おつきあいリスト」には、子どもが学校に入学する時に、お祝いとして誰からいくらいただいたのかとか、お年玉をいただいた人のことを記録しています。「誰々さんからお祝いをいただいたから、これをお返ししておいたよ。受けた恩は返すんだよ」と、お返し内容をファイルしておくと、おつきあいのマナーやルールを学ぶ機会にもなります。
今後、高校、大学と進むなら、その入学金や授業料などもファイルするつもりです。そうすると、どれだけ親から愛情を受けて育てられたかわかると思うんです。すると、自分の子どもにもきっと同じようにしてくれるはず。私の場合は財前家のファイルのほかに、個人用のファイルもそれぞれ作っています。みなさんにも、私の本の通りにというだけではなく、使いやすいように、どんどんカスタマイズしてもらって、愛着のあるファイルにしてもらえたらと思っています。
――読者の方にどのように「ありがとうファイル」を使ってほしいとお考えですか?
ファイルを作るために、家族でいろんなことを話して欲しいと思っています。この「ありがとうファイル」が、家族のコミュニケーションのきっかけづくりになってくれたらうれしいですね。私自身、ファイル作りの中で、自分の過去や現在、未来、そして家族とのつながりを再確認できたことはとても有意義でした。「ありがとうファイル」は自分を知る大きなきっかけにもなりました。私の場合は「後悔しない人生を送る」ことをとても大事にしていることに気づきました。岐路に立ったときに自分で決断したことに責任を持つこと。そして決めたことに対しては人に何を言われても自信を持つこと。この考え方は父と似ていることもおもしろい発見でした。
「ありがとうファイル」は、これまでのこと、そしてこれからを楽しく生きるための大事なツール。子どもが将来、結婚するときにはファイルをコピーして、いわば“株分け”しながら、新しい家族のファイルを紡いでいってほしいと思っています。「ありがとうファイル」が、家族に愛を伝えて残す皆さんの「夢のバトンタッチ」になるのが私の夢です。
財前直見(ざいぜん・なおみ)
女優。1966年生まれ、大分県在住。1985年より女優として活動、シリアスからコメディまで幅広いジャンルのドラマ、映画に出演。主な作品は、ドラマ『お水の花道』シリーズ(1999年、2001年、CX系)、『QUIZ』(2000年、TBS)、NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』(2013年)、大河ドラマ『おんな城主 直虎』(2017年、NHK)、『サバイバル・ウェディング』(2018年、NTV系)、『刑事ゼロ』(2019年、EX系)、NHK連続テレビ小説『スカーレット』(2019年秋期)、『美食探偵 明智五郎』(2020年、NTV系)、映画『天と地と』など多数。 インスタグラム@naomi_zaizen_officialも開始。
『自分で作る ありがとうファイル』(光文社)定価:本体1,400円+税
「ありがとうファイル」特設サイト(https://arigato-file.jp/)
(記事は2020年11月1日時点の情報に基づいています)
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