倍率地域にある土地はどう評価すべき? 計算の流れと必要な資料を不動産鑑定士が解説
亡くなった親の自宅の土地は路線価で評価するとは限りません。住んでいた地域が倍率地域なら、違う方法で評価します。どう評価するのでしょうか。また土地の計算には何が必要でしょうか。日本不動産鑑定士協会連合会が実施する「相続専門性プログラム」を修了した不動産鑑定士が解説します。
亡くなった親の自宅の土地は路線価で評価するとは限りません。住んでいた地域が倍率地域なら、違う方法で評価します。どう評価するのでしょうか。また土地の計算には何が必要でしょうか。日本不動産鑑定士協会連合会が実施する「相続専門性プログラム」を修了した不動産鑑定士が解説します。
目次
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宅地の評価方式には、路線価方式と倍率方式があります(財産評価基本通達21、以下「評基通」)。
どちらを用いるかは評価する土地の所在地で決まります。評価しようとしている土地が路線価方式で評価されるのか、あるいは倍率方式で評価されるのかについては、毎年(7月1日頃)、各国税局長が定めて公表している財産評価基準書(路線価図、評価倍率表)により確認します。財産評価基準書は、国税庁ホームページ等で閲覧できます。
倍率方式は、固定資産税評価額に地域ごとに定められた倍率を乗じて評価する方式です(評基通21)。
倍率は、国税庁が定めたもので、評価倍率表に記載があります。
以上により、倍率地域の土地の評価額を計算するためには、①固定資産税評価額と②評価倍率を把握する必要があります。①は、毎年4~5月に、1月1日時点の土地の所有者(納税者)に送られてくる「固定資産税の課税明細書」で確認します。手元にない場合は、市町村や諸税事務所で「固定資産税評価証明書」を入手します。②については、上記国税庁ホームページで確認します。
固定資産税評価額は、上で述べたように「課税明細書(土地・家屋)」で確認する方法があります。次の図の「価格」欄が固定資産税評価額になります。
評価額は土地の時価をもとに決められた価格のことですが、同課税明細書に記載のある「課税標準額」は税額計算の基礎となる金額のことを指します。農地や山林などの場合、固定資産評価額と課税標準額は同じ金額になりますが、市街地の宅地については、特例や負担調整が設定されているため、一般的に固定資産税評価額よりも課税標準額の方が低くなります。倍率地域の評価額を計算する際に採用するのは「固定資産評価額」なので(上の図では、「価格」)、注意が必要です。
手元に、「課税明細書」がない場合、市役所の税務課で「評価証明書」(図②)、「課税証明書」(図③)の交付を受ける(有料)ことにより確認することも可能です(但し、本人、同一世帯の親族、若しくは、委任状を備えた代理人である必要がある)。
「評価証明書」「課税証明書」ともに、固定資産税評価額は「評価額(円)」と表記されています。図の「評価証明書」(図②)には固定資産税評価額と地積しか表示がありませんが、「課税証明書」(図③)には、「課税明細書」同様、評価額と課税標準額が併記され、倍率地域の土地の評価計算において使用するのは、「評価額」になりますので、混同されないよう注意が必要です。
尚、「公課証明書」(図④)を徴求しても、固定資産税・都市計画税相当額(円)の記載はありますが、固定資産税評価額は記載されていません。
市町村により、表記方法が違う場合もありますので、税務課の窓口で、「固定資産評価額」が記載されている証明書を発行してほしい旨お伝え下さい。
路線価は市街地に定められるため、郊外などの農村集落地域では路線価をつけません.
路線価のない地域は倍率方式で評価するため倍率地域といいます。
市街地であれば、「路線価方式」、郊外であれば、「倍率方式」となるのが、一般的ですが、市街化調整区域を除けば、都心部・地方の県庁所在地等は比較的市街化区域の全域を「路線価方式」が網羅しているのに対し、広域合併した市町村では、都市計画域内のみとか非線引都市計画区域内のうち、用途地域指定がある中心部の一部のみにしか「路線価」区域がない場合があったり、用途地域指定のある市町村であっても、全域「倍率方式」という場合があります。
具体的には、国税局の財産評価基準書で確認していくことになります。
調べたい土地の所在地を含む都道府県をクリックします。ここでは、弊社のある岐阜県を例に解説していきます。
調べたい地域がある程度郊外(例えば、郊外の町村、広域合併市の旧町村部等)であれば、都道府県をクリックした後の目次で、評価倍率表→一般の土地等用をクリックすれば、お探しの倍率地域の評価倍率表に辿り着けます。
微妙な地域である場合は、目次で路線価図→市町村を択し、地名がわかっている場合、地名一覧(あいうえお)で該当路線価図にアクセスするか、市町村の牽引図ページから視覚的に「路線価」地域、「倍率」地域の別を判定することも可能です。
図⑤-1、図⑤-2は、岐阜市北西部郊外、岐阜大学周辺(2024年度には東海環状自動車道「(仮称)岐阜IC」開通予定地付近)の索引図ですが、市街化区域と市街化調整区域の境界付近であり、図⑤-2の「古市場高田」については、「倍率地域」であることが「路線価図」からも分かります。
このようにして、「古市場高田」が「倍率地域」であることが判明します。
あらためて、調べたい土地を含む都道府県の評価倍率表→一般の土地等用→評価倍率表の市町村別目次にアクセスし、所轄の市町村(ある程度大きな市である場合、税務署の管轄によって倍率表が分かれる)を選択します。
評価倍率表は、あいうえお順に記載されているので、調べたい土地の評価倍率を調べます。
上記の例、岐阜市古市場高田は、市道「岐阜大学線」沿いとそれ以外に分かれますが、いずれの評価倍率(宅地)も1.1倍であることがわかります。
上記の流れで、調べたい土地の「固定資産評価額」と「評価倍率」を調査し、両者を掛け合わせて相続税上の時価を把握します。
毎年、4~5月頃所有者に届く、「課税明細書」には、該当年の1月1日における固定資産税評価額が記載されています。
但し、相続税算出上の路線価は、相続開始の年のものを使う必要があります。コロナ禍で地価下落が大きい地域にあっては、相続開始の年に遡って把握する必要があります。
倍率方式により土地を評価する場合において、実際の地積が登記簿上の地積と異なる土地については、実際の地積により評価することになりますが(評基通8)、固定資産税評価額は、縄延び等のため実際の地積が登記簿上の地積と異なる場合であっても、原則、登記簿上の地積をもとに計算することになっていますので、この土地の評価額に倍率を乗じて計算したのでは適正な評価額を計算することができません。
このため、実際の地積と登記簿上の地積が異なる土地を倍率方式で評価する場合には、次の算式により評価額を計算します。
近年区画整理を実施している地域は、登記簿面積=実測面積と考えてよいですが、郊外農家集落、市街地であっても地籍調査を完了していない地域は注意が必要です。
また、分筆を伴う地積更正をした場合、従前の土地の登記簿地積と実測地積の乖離は残地に集約されていくことになります。
1.セットバックが必要な宅地
倍率地域であっても、都市計画区域内の幅員4m未満の建築基準法上の道路(建築基準法第42条2項道路)に接面する場合は、みなし道路といって、将来建替時には、道路中心線から2mセットバックする必要があります。制限がないものとした価額に対して、セットバックが必要な地積割合相当について、70%減額されます。
2. 地積規模が大きい宅地
節税効果が大きかった広大地評価の規定は平成30年1月1日以降の相続・遺贈・贈与から「地積規模の大きな宅地の評価」(評基達20-2)として生まれ変わることになりました。
従前の広大地評価の規定に準じ開発許可の必要な土地(但し、市街化調整区域〈宅地分譲可能な区域を除く〉、工業専用地域、容積400%以上、東京都特別区では容積300%以上を除く)については規模格差補正率を用いて計算することができます。
3. 都市計画道路予定地
都市計画道路予定地の地積割合に応じて、下図(評基達24-7)に定める地区区分・容積率に応じた補正率を適用することができます。
以上、倍率地域の評価額の概算方法について述べてまいりましたが、正確な評価は税理士に依頼した方が無難であることを申し添えておきます。
(記事は2021年6月1日現在の情報に基づきます)
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