目次

  1. 1. 家系図から家族の問題を浮かび上がらせる
  2. 2. 「受け取る」のではなく「受け渡す」のが相続
  3. 3. 思いは言葉できちんと伝える
  4. 4. まとめ

「相続会議」の税理士検索サービス

――相続診断士の資格を作ろうと思われた経緯を教えてください。

税理士として、相続の相談を受け、遺産分割協議のお手伝いをしたことがありました。お父さんが亡くなられ、奥様、長男、長女の3人で遺産分割を行ったのですが、その過程で母子3人が遺産を巡って争う結果となりました。そのとき奥様がポツリと「私の人生って、いったい何だったんでしょうか」と呟かれたのです。亡くなられた昭和一桁生まれのお父さんは、私の両親と同世代。戦後の日本を支え、休みなく働いて家族を養ってきた方々です。財産は「知恵と時間と情熱」をかけて築いた命そのもの。一生懸命生きた結果として残った財産で、家族がもめるなんてこんな親不孝があってはならない。遺産相続争いは親の人生を冒涜するもっとも悲しい社会問題。こうした不幸をなくそうと思ったのがきっかけです。

――争う相続を未然に防ぐために、相続診断士はどのようなメリットがあるのでしょうか?

それまでも遺言書やエンディングノートの重要を訴求するセミナーなどを開催したりしていたのですが、税理士は一般の方々に対して影響力があまりないのです。セミナーを開いても、「専門用語ばかりで難しそう」「なんとなく敷居が高い」といったイメージがあるのか、あまり人も集まらない。我々士業の元に相談に来られるのは、相続でもめて困ってからなんです。事前に相談に来られる方はほとんどない。この後行動をなんとか前行動にできないかと考えたとき、士業だけでは限界があるという考えに至りました。そこで、生命保険業や不動産業など、近隣にお住まいであったり、顔をあわせる機会の多かったりする職業の方々が相談役となり、士業とチームを組めば理想的な遺産相続が可能になると考え、相続診断士を育成する相続診断協会を2011年12月1日に設立しました。

相続診断協会の小川実代表理事。「財産をめぐって家族がもめる不幸をなくしていきたい」

――相続診断士は具体的にどのような業務を行うのですか?

相続に重要な「民法・相続税法」など法律を正しく理解し、「正しい遺言書の書き方」「エンディングノートの普及と書き方の指導」を行います。相談の依頼があれば、まずチェックシートで「相続診断」を行います。質問項目は「相続人に長い間連絡が取れない人がいる」「分けることが難しい不動産や株式がある」「先祖名義のままになっている土地がある」「相続人の仲が悪い」「連帯保証人になっている」など30項目。その回答を元に危険度や緊急度などを含めた詳細な結果を出し、危険度を数値化します。その後、ヒアリングシートに基づいて士業と連携し「相続診断書」を作成。いきなり預貯金の話は抵抗ある方も多いので、まずは家系図を作りますが、これで相続の多くの問題点が浮かび上がってくるのです。

――どのような問題点が明確になるのでしょうか?

この方は何歳でどこにお住まいか? お仕事は何か?と話を進め、すべての方と最後に一緒に食事をしたのはいつ、どこで、誰が作ったものを食べたのか? どんな話をしたのかを尋ねます。すると「長男とは今年の正月に、自宅で長男の妻と次男の妻が一緒に作った料理を食べて孫の幼稚園の話をした」という答えならば、息子さんたちと仲が良いことがわかります。「妹とは数年前の叔父の法事で顔を合わせ、仕出し弁当を食べた。話は特にしていない。何年も連絡とってない」と言われれば、妹さんとは疎遠であることがうかがえ、誰と誰が仲が悪いのかという関係性も見えてきます。ここでじっくり時間をかけて、ご家族に対する思いを存分にお話しいただくと、相談員との間に信頼関係が生まれ、その後の不動産や株式、預貯金、生命保険などの話題にスムーズに移れます。

――診断を行った後の相続診断士のアクションは?

「自宅は長男に残したい」「相続税を少なくしたい」など、依頼者の意向を伺い、それに沿った遺産分割イメージや問題点、対策案を作成します。たとえば、税額計算をして生命保険の非課税枠が100万円空いていれば、貯金から、保険に100万円を移せば非課税にすることができます。こうした対策案、エンディングノートや遺言書の準備促進などを行い、トラブルが発生しそうな場合には、コンプライアンスに配慮しながら税理士、司法書士、弁護士、行政書士、不動産鑑定士などの必要な専門家に伝え、相続人が安心して相続を迎えられるように橋渡しをします。

――相続診断士を取得される方は、どのような業種の方が多いのでしょうか? 

保険・銀行・証券などの金融業の方が5割、不動産業の方が3割、他には郵便局勤務や住職の方など業種は様々。なかには自分の相続のために取得するという方もいます。現在、資格取得者は約4万2000人。3年前にFPと同等の高度な知識を持つ難易度の高い上級相続診断士の資格も設け、こちらが約500人です。相続診断士は合格後、翌々月1日が認定日となり、その日から活動することができます。サポートとしては、協会主催セミナーを開催していますが、全国に33の相続診断士会があり、勉強会や情報交換の場を作るなど、自主的な活動も活発です。

――相続診断士に寄せられる相談でもっとも多い事例は?

預貯金があまりなく、不動産を相続人で分けるケースです。土地は簡単に分割できないので争いにつながりやすいのです。その場合、まず不動産を取得した経緯をヒアリングします。いつ、何歳のときに、どんな思いでこの土地を買ったのか、そのためにどのような努力をしたのか。こうした不動産と家族の歴史を聞くとソリューションが見えてくるのです。歴史と思い入れのある土地は、売りたくない。土地家屋は、現在、一緒に住んでいる長男に譲り、次男にはその代わりに保険と預貯金を譲るなど、本人の思いを明確にすることが大切です。相続とは受け取るものではなく、受け渡す行為なのです。

――最近増えてきた事例など、相続の傾向に変化はありますか?

認知症にまつわる事例です。将来、自宅を売却して得たお金で介護施設に入所したいと考えていても、認知症などで判断力が低下した場合、法律行為ができなくなるので、不動産を売却することができません。もしもの場合の財産管理や契約行為にそなえて、あらかじめ民事信託を組んでおく必要があります。また、一人暮らしで法定相続人がいない方も増えています。もめることがないからと何も対策をしない方が多いのですが、この場合も認知症に備えて、遺言書に財産の民事信託を記しておくことはとても重要です。

――円満な相続のために日頃から心がけておいた方がよいこととは何でしょうか?

もめる相続のほとんどの原因がコミュニケーションエラーです。思いを伝えることが相続の第一歩。現在、70歳以上の方は、旧民法の家督相続の世代です。つまり法定相続による遺産分割という概念がDNAにないのです。それより下の世代は戦後の民法下で育っているので、3人きょうだいなら、当然3分の1の権利があると考えます。家族が争わないためにも、均等に分けることができない場合は、なぜそうなるのかということを説明し、子どもたちのことは全員同じように愛している、みんな仲良くしてほしいと思いを伝えることが大切。しかし、旧民法の世代はそういった思いを言葉にするのが苦手な世代でもあります。そこをサポートし、争わずに笑顔相続につなげていくのが相続診断士の役割なのです。

――協会としての今後の展開を教えてください。

協会のシンポジウムで行われた創作落語「天国からのラブレター」

笑って泣いて相続を考える、笑顔相続落語『天国からのラブレター』は6年間で300回開催し、約3万人の方に聴いていただき、1万人の方がエンディングノートを書いてくださいました。相続診断士の育成とともに、こうした啓蒙活動を今後も活発に行っていきたいです。同じ明日がくる確率は100%ありません。明日、不慮の事故にあう可能性もあります。相続の準備は、早すぎることはないのです。これからも笑顔相続の入り口となる相続診断士を増やし、何を大切に生きてきたか、どのような思いを受け継いでほしいかを生前に家族に伝えることの大切さをさらに広めていきたいと考えています。

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(記事は2021年2月1日現在の情報に基づいています)

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