目次

  1. 1. 不動産の共有持分はトラブルのもと
    1. 1-1. 勝手に売れない
    2. 1-2. 共有持分がさらに相続されると権利関係が複雑化する
    3. 1-3. 借入をするときなど、その共有不動産を担保にできない
    4. 1-4. 賃貸に出す場合、賃借人との契約を自由に変更できない
  2. 2. 共有の不動産を売却するには
    1. 2-1. 他の共有者と事前に相談し、十分に説得する
    2. 2-2. 良心的で、誠実な共有持分買い取り業者に相談する
  3. 3. 土地は分筆して売却することもできる
  4. 4. 持分を売却する場合に必要な書類は

不動産の「共有持分」とは、1つの不動産を複数で共有する場合のそれぞれの共有者の所有権の割合のことです。ここでいう共有持分とは、権利上のものであって、物理的なものではありません。例えば、ある土地100㎡について、共有者Aの持分割合が4分の1の場合、単純に100㎡÷4で25㎡が共有持分ではないという点に注意です。つまり、共有割合が4分の1でも、持分割合に関わらず共有物(この場合は不動産)をすべて利用できます。共有持分はトラブルの原因になることが多々あります。いくつか代表的な事例を紹介します。

不動産の売却は「変更(処分)行為」にあたり、共有者全員の合意が必要です。共有者自身だけであればまだしも、その配偶者などが口を挟むこともあります。共有者の1人が「そこに住みたい」と言い出すなど、時間が経てば経つほど互いの意見が食い違い、共有者間の話し合いが難航する可能性が高くなります。

話し合いで解決せず共有の状況の中さらに相続が発生すると、相続人の人数に応じて共有者が増加し、さらに権利関係が複雑化してしまいます。さらにひどい場合は共有者について所在が不明となるケースもゼロではありません。

担保の設定も、不動産の売却の場合と同様に「変更(処分)行為」に該当します。銀行からお金を借りたいときには、不動産を担保として提供する(抵当権を設定する)ことが想定されます。抵当権設定に係る登記手続きにおいて、その不動産全体への抵当権設定であれば、やはり共有者全員の同意が必要です。

共有不動産を賃貸に出そうとした場合、事実上物件をどなたか共有者1人が管理しているとしても、賃借人との契約内容の決定や変更は共有不動産の「管理行為」にあたり、持分の過半数の同意が必要になります。この場合の人数ではなく「持分」である点に注意が必要です。

以上のように、共有持分は、共有者がきょうだいであってもトラブルになることが多いので、可能な限り避けたほうがよいでしょう。

共有の不動産について揉めてしまった場合でも対処方法はあります。自分の共有持分のみの売却であれば、他の共有者の同意を得ることなく(伝えることもなく)、単独で売却することができます。ただし、この場合は不動産全体の売却ではなく自分の持分だけの売却です。買う側(第三者)からすると制約が多い不動産共有持分を取得することになるので、市場価格より安い価格(一般的に市場価格の50%~70%)での売却になってしまうことが多いです。
また、元々の共有者にとっては血縁関係のない第三者が共有者として入ってくるので、別のトラブルが発生することも想定されます。他の共有者となるべく揉めないようにするために、共有持分を単独で売却するポイントや注意点をみていきましょう。

法律的には共有持分のみの売却であれば、他の共有者の同意を得ることなく単独で売却することが可能です。しかし、だからと言って本当に黙って持分を売却すると後々さらに大きなトラブルになります。大切なきょうだい関係等にひびが入ってしまうことを防ぐためにも、自身の持分を売却したいことを他の共有者に伝えて、十分に説得する必要があります。

説得の際には、このようなコミュニケーションがよいのではないかと思います。「これまでほとんど不動産を活用してこなかったし、きょうだいの誰かが住む・住まないといった局面で多少のぶつかり合いになる可能性もあるから、そうであれば、きょうだい関係が良好に続いていることを大切にして、みんなの同意を得たうえで自分は共有者からはずれようと思う。」

また、売却することになった場合、業者から見積りを取って価格を事前に試算し、共有者間で共有しておくことも、誠実な対応と受け取ってもらえるでしょう。他の共有者が持っている不動産全体の価値も同時に把握できるので、その後の参考にもなります。こそこそと売却すると、「あいつはどのくらいの利益を得たんだ」と陰で思われてしまい、ご自身への不信感を募らせる原因になってしまいます。

自分だけでは説得しきれない場合もあると思います。その際は共有持分を買い取ってくれる専門の不動産仲介会社のほか、場合によっては、税理士といった専門家に相談するのが良いでしょう。そういった業者の中には悪徳な業者もあります。持分を売却してすぐに、他の共有者の元に強引な態度で「共有持分を買ってくれ」「あなたの共有持分を売ってくれ」と話を持ちかける業者です。そのような不誠実な対応をする業者ではなく、共有持分に関するご自身の状況について親身に相談に乗り、一緒に他の共有者に対して共有持分の売却に関するメリット・デメリット、その後の影響等について、誠実に説明・説得してくれる業者に相談しましょう。

一般の不動産会社ではノウハウがないことが多いので、共有持分の売買に関して明るい業者に相談するのがよいでしょう。また、万一のトラブルに備えて、弁護士や司法書士等の専門家とのネットワークがある業者のほうがより望ましいです。共有持分の単独売買は、特効薬となるような近道はそれほどありません。人として自道に誠実に説明・説得していくほかないものと思います。

共有不動産が土地で一定以上の大きさがある場合は、事前に分筆をして売却するという方法もあります。分筆とは、1つの土地を複数の土地に分割して登記し、それぞれが単独で所有することです。分筆自体に手間とコストがかかります。また、分筆をしただけでは「分筆した土地それぞれを共有している」という状態に変わりないので、それぞれを単独所有にするためには、分筆後にお互いに持分の受け渡しを行う必要があります。

このような方法は「共有物分割」と呼ばれます。各共有者はいつでも共有物の分割を請求することができますが、共有者間の協力が得られない場合は、裁判所に分割を請求することになります。なお、「共有物分割」は分筆など物理的に分割する場合(現物分割)のほか、共有物全体を売却して代金を分割する場合(代価分割)や、共有持分を他の共有者が買い取る場合(代償分割)など、いろいろなやり方があります。

共有持分を売却すると決めたら、共有持分の売買に精通した、かつ、親身になってくれる誠実な不動産仲介会社のほか、場合によっては、我々、税理士のような専門家に相談することもお勧めします。その上で、他の共有者に共有持分を売却したい理由やその後の影響について説明し、売却することについて地道に説得することが必要です。無事に他の共有者の納得も得られ共有持分を売却することとなったら、以下の必要書類を準備しましょう。

  1. 権利証(登記識別情報)
  2. 土地測量図及び境界確認書(土地の場合)
  3. 身分証明書、印鑑証明書(有効期間は3カ月です)、住民票(登記簿上の住所から転居している場合)、実印
  4. 固定資産税評価額の証明書(市町村役場の固定資産税課や都税事務所などで発行してもらえます)
  5. 委任状(必要に応じて)

共有持分の対応は、法律的な判断や解釈が難しい場面も想定されます。ぜひ税理士、弁護士、司法書士等の専門家にご相談いただければと思います。

(記事は2020年10月1日時点の情報に基づいています)

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