家族信託で親のお金の出納記録はどう管理申告する? 銀行通帳などあるものでOK
家族信託では、親のお金を管理する受託者(子)は毎年1回、出納記録を親に報告し、税務署に申告する必要があります。会計というと難しく聞こえてしまうかも知れませんが、手持ちの銀行通帳など手持ちのツールでも十分対応できるようです。宮田浩志司法書士が詳しく解説します。
家族信託では、親のお金を管理する受託者(子)は毎年1回、出納記録を親に報告し、税務署に申告する必要があります。会計というと難しく聞こえてしまうかも知れませんが、手持ちの銀行通帳など手持ちのツールでも十分対応できるようです。宮田浩志司法書士が詳しく解説します。
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家族信託の受託者(子)は信託契約期間中、「信託財産に係る帳簿その他の書類」(以下「信託帳簿等」)を作成するとともに、「毎年1回、一定の時期」に財産目録に相当する書類(以下、「財産状況開示資料」)を作成し、原則として受益者(親)に報告しなければならないとされています。
ただし、家族信託における受託者は、商事信託の受託者とは異なり財産管理のプロではありませんので、「信託帳簿等」といっても、一般的な会計実務で要求される仕訳帳や総勘定元帳等まで作成する義務が課せられている訳ではありません。
現金管理があれば「現金出納帳」、お金の出入りが信託口口座や信託専用口座を介して行われていれば、記帳済みの預金通帳に入金・出金の内容をメモ書きしておくことで、実質的には帳簿に類する書類ができたことになります(使途不明金が生じないように、入金・出金に対応する領収書もきちんと保管する必要もあります)。
また、「財産状況開示資料」といっても、信託契約締結時に契約書の別紙として作成されることが多い「信託財産目録」がそのまま「財産状況開示資料」になるため、信託金融資産の残高など変動があった部分だけ修正すればよく、受託者が一般の方でも会計業務の負担はほとんどないといっていいでしょう。
なお、受託者から受益者への報告義務は、信託行為に別段の定めをおくことで(信託契約書にその旨の条項を設けることで)、軽減したり免除したりすることは可能です。
「毎年1回、一定の時期」に受益者に報告するということについては、受託者は、何ら特別な負担を感じる必要はないでしょう。しかし信託財産に収益を生むような財産が入っている場合、例えば信託財産に賃貸アパートが含まれる場合、信託契約後も受益者である親は、引き続き確定申告をしなければなりません。
財産管理を担う受託者は、信託財産における毎年1月1日から12月31日までの年間の収支状況を取りまとめる必要がありますが、この作業は親の税務申告のための書類作成とほぼ同じ作業になります。
親が元気なうちは、受託者が取りまとめた収支の資料を元に、従来通り親が税務申告と所得税の納付の手続きをし、親が自分で申告手続きをするのが困難になれば、実質的に受託者たる子が税務署への申告と納税も行うことになります(税務申告においては、適正な納税さえすれば、納税者自身の本人確認は求められませんので、親の名前で子が申告と納税をすることは何ら問題になりません)。
従いまして、これまで通り親の確定申告のための準備をすると思えば、受託者となったことで特別に負担感が増す訳ではないといえます。
信託銀行・信託会社が管理する商事信託と違って、信頼関係を前提とした家族・親族が財産管理を担うのが家族信託ですから、不明朗な出入金さえなければ、そして受益者が確定申告すべき場合は適正な税務申告がなされていれば、法律上・税務上の問題が生じることはまずありません。
厳格な資料作成は求められていないので、成年後見制度における後見人が家庭裁判所や後見監督人に提出する財産目録・収支状況報告書の作成よりもかなり負担は少なくなるといえます。
長期にわたり老親の財産管理と生活サポートを担う受託者の負担をいかに少なくするかというのは、家族信託の実務上非常に重要なポイントになりますので、極力現金管理は避け、振り込みや口座引き落としなど信託口口座や信託専用口座を介したお金の出入りを心がけ、預貯金通帳が簡易的な帳簿を兼ねるような対応が好ましいといえるでしょう。
前回の「家族信託では親の不動産を子が売却できる!得た代金は親の生活資金として引き続き管理」など、今後もコラムは定期的に更新します。
(記事は2020年4月1日時点の情報に基づいています)