目次

  1. 1. 管理は信託口口座が理想
    1. 1-1. 【信託口口座の口座名義記載例】
  2. 2. 信託契約文案はリーガルチェックを
  3. 3. 信託口口座が作成できる金融機関は10%程度

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家族信託の受託者には「分別管理義務」(信託法34条)があるため、受託者固有の財産と委託者から託された信託財産は、明確に分けて管理する必要があります。不動産であれば登記簿に受託者の名前が記載されるので、分別管理は明快です。しかし、お金となるとそう簡単ではありません。

もし、親から託された現金を受託者が普段使っている銀行口座に入金したら、親と子の資産が区別できなくなるうえ、場合によっては贈与や貸付、横領だと指摘されかねません。

現金は、手提げ金庫等に入れて現金出納帳で分別管理することも可能です。しかし、家族信託に基づく金銭管理は、親を看取るまでの長期にわたるケースも多くみられます。加えて、金額ベースで百万円単位、不動産の売却が絡めば数千万もの現金を管理することもあるため、手提げ金庫での管理は現実的ではありません。

最も堅実な管理は、金融機関に預貯金として預けておくことです。この場合、信託財産であることが分かる「信託口口座」で管理するのが理想です。この「信託口口座」とは、信託契約を根拠に、信託財産である金銭が預けられている口座であり、管理を担う受託者が印鑑を届け出ている口座になります。

信託口口座の口座名義の記載例は下記のいずれかにするとわかりやすいでしょう。

委託者 山田一郎  受託者 山田太郎 信託口
委託者 山田一郎  信託受託者 山田太郎
山田一郎  信託受託者 山田太郎 信託口
山田一郎  信託受託者 山田太郎

「信託口口座」作成の一般的な流れは次の通りです。

①まず、「信託口口座」を作成したい金融機関で、事前に信託契約の文案のリーガルチェックを受けます。公正証書を作成してから金融機関に持ち込むと、金融機関からの文言の追加・修正の要請に対応する二度手間が発生します。事前のリーガルチェックが大切です。

②金融機関から事前にリーガルチェックを受けて了解をもらっていた文案をもとに、実際に信託契約公正証書を作成。その後、受託者が当該公正証書を持って金融機関に行き、この信託契約書に基づいた口座を作成します。

なお、金融機関としては、公正証書を作成することで、委託者兼受益者たる親側の意思は問題ないという判断をします。口座作成時に親側の面談をすることは通常ありません。

実際に「●●銀行で信託口口座を作れた」と耳にするケースは徐々に増えています。しかし、同じ金融機関において他の顧客でも作れるかというと、必ずしもそうとは限りません。

その顧客の預金残高や属性、金融機関とのつながりの深さ、あるいは支店長の裁量により、たまたま作ってもらえたというケースもあるのです。つまり、どこの金融機関のどの支店でも簡単に信託口口座を作れるようになるには、もうしばらく時間がかかると思われます。

「信託口口座」が作成可能な銀行・信用金庫・信用組合は、公式に発表しているもので、全国で約50金融機関になりますが、全体から見るとまだ10%程度に過ぎません。皆さんの地元の金融機関で「信託口口座」への対応ができる金融機関があるとは限らないのが現状です。

次回は、「信託口口座」での対応が難しい場合の次善の策について紹介します。

(記事は2020年3月1日時点の情報に基づいています)

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