ここ数年、不動産投資=賃貸経営をされる方が増えたといわれています。
それはなぜなのでしょうか?
見通しの立たないと言われる世の中で、みなさんが同じ行動をするのには理由があります。今回は本当に賃貸経営をされる方が増えているのか? その理由は何か? そして、そうだとすれば、今後、どのように対応したら良いか? を考えます。
1. 賃貸経営する人は増えている?
まず、ここ30年の住宅の建築戸数を見てみましょう。国土交通省が発表している「平成30年度分建築着工統計調査報告」を見ると、長らく年間100万戸という住宅大量供給の期間が続いていました。ただ、2007年のサブプライムローン問題、2008年のリーマンショックの影響から住宅供給は大幅な減少になり、以降は100万戸に戻っていません。
そんな中、2014年頃より低迷していた貸家の割合が増加、住宅市場全体を牽引していました。
その理由は2015年1月1日より相続税が改正されたためです。
具体的には、基礎控除の改正(減額)が大きく影響しています。それまで5000万円+1000万円×法定相続分であった「基礎控除」が3000万円+600万円×法定相続分と6割に減り、資産価値が高い、立地条件の良い都市部などの不動産保有者にとっては、相続税負担がさらに大きくなりました。
このタイミングで改正されたのは、国の財政の問題が影響しています。
財務省の説明によると、相続税の基礎控除はバブル期の土地価格の上昇に伴い引き上げられてきましたが、バブル崩壊による地価下落の際には逆に見直されず、税率も少しずつ引き下げられてきました。
そのため、相続税の課税割合は亡くなられた方の4%程度に過ぎず、相続税の本来の目的である社会全体で資産の再分配を図るという効力が弱くなってしまいました。そこで、「社会保障と税の一体改革」の一環として、平成25年度(2013年度)税制改正で消費税の改定(5%➝8%)と共に、相続税の見直しが行われたということです。
この結果、相続税の税収も徐々に増えています。平成27年度(2015年度)以降、負担割合はさほど変わっていませんが、課税される方の割合(課税件数割合)は8%へ倍増していますから、今後、多くの相続が発生する際に相続税の課税対象者を増やす=徐々に税収を増やすことが目的の改正であったと言えます。
2. 不動産を使った相続税の節税対策
相続税の節税対策は、相続税がかかる財産評価を減らすこと、そして、税額計算上の控除や特例を活用することで実現します。
例えば、土地の相続税評価は公示価格の8割となっており、公示価格が市場価格と同額だとすると、それだけで2割ディスカウントされることになります。さらに賃貸アパートやマンション用地として使用すると貸家建付地という概念になり、自分の土地であるにも関わらず一定割合ディスカウントが増えます。
また、賃貸用の建物も100%自分自身で使えないため借家権分(一般的に30%)のディスカウントがあるので、結果として、相続税を計算する際の財産評価を下げることができます。さらに、通常、賃貸アパートやマンションを建てる際に融資を受ける=借金をすることになりますから、この借金も債務控除として税金の計算上差し引け、納税額を軽減することができます。
一方、家賃収入が入るので、この収入から必要経費を引いた収益分を納税資金として計画的に確保することができます。
このように実物不動産投資を行うことで、相続税の節税対策と納税資金準備対策を同時に行うことが出来るため、多くの方が賃貸物件の建設を行ったというのがここ数年の状況です。
3. 人口減少社会と空き家の増加
ただ、日本の総人口は、2010年(平成22年)を境に減少に転じ、本格的な人口減少社会に入っています。
国立社会問題人口問題研究所や総務省の統計データによると、2015年から2030年までに65歳以上の高齢人口は約369万人増加する一方、15~64歳までの生産年齢人口は約754万人、年少人口は268万人減少する見通しです。
外国人労働者の受け入れが進んでいますが、人口減少に見合うだけの人口流入がなければ、家賃収入の源泉である入居者数が減り続けることになります。
実際、2019年4月に発表された「住宅土地統計調査(総務省)」を見ても、空き家率は13.6%と過去最高値を更新しています。10年前の数値と比べた売却・賃貸用住宅の空き家率の伸び(1.03倍)は、いわゆる実家の空き家であるその他空き家の伸び率(1.29倍)に比べ低いのですが、実数としては賃貸住宅の空き家は431万戸と、依然最も多いカテゴリーになっています。
不動産投資=賃貸経営は一度始めると、なかなか辞められない息の長い投資になります。
ただ、変化の激しい世の中で、臨機応変に対応できる状況を作っておく必要があります。
そのためには、ある程度の知識を持ちながら、常にフレッシュで、自分にとって質の高い情報を得ることが大切です。専門家などから優良(有料)なコンサルを受けるなどして、適切な対応ができるよう環境を整理しておきましょう。
例えば、日本人の人口が減っている状況の中で、今後、外国人や(特に単身)高齢者等の入居への対応も求められてきそうです。また、2020年4月以降民法改正により契約関連のルール変更が行われました。この様な法や税などの制度改正が、長い投資期間中に行われることも考えられます。
繰り返しになりますが、その対応のためにも、自分自身がどの程度まで知識を得て賃貸経営に携わるか?スタンスを決めつつ、保有する不動産物件がそもそも投資に向いているのかどうか?を確認した上で、自分自身のライフプランに合った事業計画を立て、不動産投資をしていきましょう。
(記事は2022年9月1日時点の情報に基づいています)