前回は、“安心できる老後の財産管理”と“円満円滑な資産承継”を実現するため、『家族信託』という仕組みが大きな選択肢になりうるというご案内をしました。今回は、家族信託をはじめとする施策の検討をどのように始めたらいいのか、検討過程について解説します。

 親の老後は親だけの問題ではないですし、親世代から子世代への資産承継も親世代だけで決めるべきものではありません。

遺言作成がはらむ2つの問題

 親が「遺言」を作ることの重要性については、信託銀行等の金融機関や税理士・弁護士・司法書士等の法律専門職が主催するセミナーでかねてより言われ続けており、その甲斐あってか、遺言を作られる方は着実に増えているというのが現状です。
 しかし、この現状には2つの問題点が潜んでいます。

 一つ目は、遺言書を検討・作成する工程については、専門家と相談しながらも、遺言する本人(遺言者)だけで進めるケースが圧倒的に多いということです。その工程には、配偶者すら関与しておらず、奥さんは夫がどんな遺言を作ったか相続が発生するまで知らされないということも良くあることです。財産を引き継ぐ側、いわば資産承継の主役である家族が資産承継の内容について知らされていないことが多いというのは、非常に由々しき状態と言えます。

 二つ目の問題点は、当然のことながら「遺言」は亡くなった後の資産承継の指定が主たる効果で、遺言だけでは親の生きている間(老後)のことについては一切対応できないことです。親の老後について最も中心となる問題は、「認知症対策」です。親世代が80代・90代と年齢を重ねていく中で、やはり認知症発症の可能性は想定しておかなければなりません。

 老親が自分で生活費の管理・支払いができなくなったら、火の不始末が心配で自宅で過ごすことが難しくなったら、介護費用が親の年金収入と預貯金ではまかなえず自宅を売ることになったら……。このような、長生きをすればするほど不安が現実化しかねない“長寿リスク”といえる問題が各家庭には存在します。

親の長生きを”リスク”にしないために

 この問題の解決にあたっては、支え手となる家族の存在が不可欠です。支え手となり得る家族がそもそもいるのか、いるとした場合、その家族が自分たちの仕事・家庭・生活がある中でどこまでサポートできるのか。サポートは経済的な部分も含めて考えなければならないのか……。避けては通れないけれど、本人も家族もあまり考えたくない話題について正面から向き合ってこそ、親の長生きをリスクとせず、本人も家族も安心して過ごすことができます。本人はもちろん家族も安心できる老後を実現することは、老親がいる家庭にとって最大の課題と言えるでしょう。

 以上のように、親の老後と相続は、親だけの問題ではないという大前提を踏まえますと、もっとも大切なことは、親の相続の「前」と「後」について、親本人とその支え手となる配偶者や家族を交えて、本人が元気なうちに将来に備える話し合いの場を設けることです。高齢の親世代とそれを支える子世代が団結して話し合いを重ねて、この大きな2つの課題に取り組む工程を、私は「家族会議」と呼んでおります。この家族会議こそがまず最初にやるべき第一歩であり、そこでの情報共有・課題抽出・解決策の検討・・・といった工程の中で専門家を交えて「家族信託」も含めた取り得る選択肢を検討するということになります。

次回は、その「家族会議」について、もう少し詳しくご案内したいと思います。

(記事は2019年10月1日時点の情報に基づいています)