相続における直系尊属とは 相続できるケースや相続分を紹介
相続に関する法律では、親や祖父母といった「直系尊属」が相続人となる場合があります。ただし、常に親が相続するわけではなく、子どもや配偶者がいない場合など、特定の条件を満たす必要があります。直系尊属が相続人となるケースや相続分の考え方、税制上の注意点、贈与に関するルールまで、わかりやすく解説します。
相続に関する法律では、親や祖父母といった「直系尊属」が相続人となる場合があります。ただし、常に親が相続するわけではなく、子どもや配偶者がいない場合など、特定の条件を満たす必要があります。直系尊属が相続人となるケースや相続分の考え方、税制上の注意点、贈与に関するルールまで、わかりやすく解説します。
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相続の仕組みを理解するうえで、「直系尊属(ちょっけいそんぞく)」という言葉が登場します。あまり耳なじみのない表現かもしれませんが、法的な相続の場面では重要な位置づけとなる概念です。ここでは、「直系尊属」の定義と、法定相続人との違い、相続順位の全体像についてわかりやすく解説します。
「直系尊属」とは、民法第725条で規定される「親族」のなかでも、自分から見て「上の世代」にあたる血縁者を指します。具体的には、父母・祖父母・曾祖父母などがこれに該当します。直系尊属の反対は「直系卑属」で、こちらは子・孫など「下の世代」にあたる血縁者です。
民法第725条では、親族とは「六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族」とされており、このうち「直系尊属」は六親等内の血族の一部です。
なお、配偶者の父母(義父母)などは「姻族」にあたり、たとえ家族同然に接していても「直系尊属」には含まれません。ただし、養子縁組をしている場合の養父母は、法律上の「血族」として直系尊属にあたります。
「直系尊属」と「法定相続人」は、似ているようでまったく異なる概念です。
直系尊属は、あくまで親族関係の分類であり、相続権の有無を意味するものではありません。一方、「法定相続人」とは、民法で「相続の権利がある」と認められている人のことです。誰が法定相続人になるかは、被相続人(亡くなった方)との関係性や、他の相続人の有無によって決まります。
たとえば、親は直系尊属にあたりますが、被相続人の子どもが健在であれば親には相続権がありません。逆に、被相続人に子どもがいない場合には、親が法定相続人になります。このように、「直系尊属」だからといって、常に相続人になるとは限らない点に注意が必要です。
相続人となる順番(法定相続順位)は、以下のとおりです。
このように、直系尊属は第2順位に位置づけられており、子ども(直系卑属)がいない場合に初めて相続人となります。なお、配偶者は常に相続人となる点も押さえておきましょう。
相続において、親や祖父母などの「直系尊属」が相続人となるのは、ある特定の条件を満たしたときに限られます。基本的には、直系尊属よりも「子ども」などの直系卑属が優先されるため、親が相続するのは例外的なケースです。
ここでは、直系尊属が法定相続人となる典型的なパターンについて説明します。なお、被相続人に配偶者がいた場合、配偶者は常に相続人となります(民法第890条)。以下では「直系尊属が配偶者とともに」あるいは「直系尊属のみ」が相続人となるパターンを見ていきます。
子ども(代襲相続人を含む直系卑属)や配偶者が存在しない場合は、直系尊属が単独で法定相続人となります。この場合、法定相続分は「父母が健在なら父母が均等に」「父母の一方のみ健在であればその親が全額」という形で分けられます。
子(代襲相続人を含む直系卑属)がいない、またはすでに被相続人より前に亡くなっている場合は、直系尊属が法定相続人となります。このとき配偶者がいれば、配偶者と直系尊属で相続することになります。
たとえば、「被相続人である夫が亡くなり、子どもがいない。親が存命である」場合、配偶者と親が共同相続人になります。
相続欠格とは、相続人に重大な非行があった場合に、法律によって相続権を失う制度です(民法第891条)。たとえば、被相続人を故意に死亡させた、詐欺や脅迫で遺言を作成・取消させたなどの行為が該当します。
子どもがいても全員が欠格により相続権を失い、かつ代襲相続人もいない場合は、その次の順位である配偶者と直系尊属が相続人となります。そして、配偶者がいない場合に限り、直系尊属だけが相続人になります。
相続廃除とは、被相続人の生前の申し立てなどにより、家庭裁判所の審判を経て相続人の資格を取り消す制度です(民法第892条)。虐待や重大な侮辱などが理由として認められます。
すべての子が廃除により相続権を失い、かつ代襲相続人もいない場合も、上記と同様に、配偶者と直系尊属が相続人として繰り上がります。
相続放棄は、相続人が財産や負債を一切引き継がないことを家庭裁判所に申し立てる手続きです(民法第915条)。全員が放棄した場合、他に直系卑属がいないときは次順位の相続人に権利が移ります。
この場合、直系尊属が相続人に繰り上がる形となります。直系尊属が複数いる場合は、相続分に応じて遺産が分けられます。
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相続の相談が出来る弁護士を探す相続では、誰がどれだけ財産を受け取るかが問題となります。被相続人(亡くなった方)が遺言を残していれば、原則としてその内容に従って分けられますが、遺言がない場合は「法定相続分」に従って相続されます。
法定相続分とは、民法で定められた各相続人の取り分の割合です。直系尊属が相続人になるケースはそう多くはありませんが、子がいない場合などには親や祖父母が相続することになります。そのとき、どのような割合で財産が分けられるのか、典型的な2つのケースを見ていきましょう。
被相続人に配偶者も子もおらず、父母が健在というケースです。たとえば、被相続人の遺産が3,000万円で、相続人が父と母の2人だけという場合、直系尊属である父母が法定相続人となり、遺産は均等に2分の1ずつ分けられます。
父:1,500万円(3,000万円×1/2)
母:1,500万円(3,000万円×1/2)
なお、父母の一方がすでに亡くなっている場合は、生存している親が全額を相続します。祖父母は通常、父母よりも相続順位が後になるため、父母が存命であれば相続人にはなりません。
また、被相続人が遺言を残しており、相続分を指定していた場合は、その遺言が優先されます。
子がいない場合、被相続人の配偶者と直系尊属(通常は父母)が相続人となるケースもあります。このときの法定相続分は、以下のように定められています。
配偶者:3分の2
直系尊属:3分の1(人数で均等分割)
たとえば、被相続人に3,000万円の遺産があり、相続人が配偶者・父・母の3人だった場合の内訳は次のとおりです。
配偶者:2,000万円(3,000万円×2/3)
父:500万円(3,000万円×1/3×1/2)
母:500万円(3,000万円×1/3×1/2)
この場合も、父母の一方がすでに亡くなっていれば、もう一方が3分の1すべてを相続することになります。もし両親がすでに亡くなっており、祖父母が存命であれば、祖父母が同じように3分の1を分け合う形になります。
ここでも遺言があれば、遺言の内容が法定相続分より優先される点には注意が必要です。遺言がない場合は、民法のルールに従って相続が進められることになります。
遺言によって「すべての財産を第三者に譲る」などとされた場合でも、一定の相続人には最低限の取り分が法律で保障されています。これを「遺留分(いりゅうぶん)」といいます。
直系尊属が相続人となる場合にも、遺留分を請求することが可能です。ただし、配偶者や子どもに比べて割合は少なくなります。
【ケース① 子や配偶者がいない被相続人が死亡し、父母が唯一の相続人であるケース】
この場合、法定相続人は直系尊属のみであるため、全体の遺産のうち3分の1が遺留分として認められます。父母が2人とも存命であれば、それぞれに6分の1ずつ(遺産3,000万円なら各500万円)の遺留分があります。
【ケース② 配偶者と直系尊属が相続人になるケース】
法定相続分は、配偶者が3分の2、父母が3分の1となります。このとき、父母の遺留分は法定相続分の2分の1となるため、全体の6分の1が遺留分とされます。父母2人が健在の場合は、それぞれに12分の1(遺産3,000万円なら各250万円)ずつの遺留分があることになります。
遺留分を侵害された直系尊属は、「遺留分侵害額請求権」を行使することで、自身の取り分を取り戻すことができます。ただし、この請求には時効(相続があったこと及び遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知ったときから1年または相続開始の時から10年)もあるため、早めの対応が重要です。
「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」とは、子ども(直系卑属)が被相続人よりも先に死亡していたり、相続欠格や相続廃除によって相続権を失っていた場合に、その子(たとえば孫)が代わりに相続する制度です。
また、兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっていた場合には、兄弟姉妹の子(甥・姪)が代襲相続人になることもあります。
ただし、この制度は直系卑属および兄弟姉妹の子に限定されており、直系尊属(親や祖父母)には適用されません。
つまり、たとえ親が高齢や病気であっても、父母のいずれかが存命であれば、祖父母が相続人になることはありません。法定相続人としての順位が低く、父母よりも後の順位とされているためです。
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相続の相談が出来る弁護士を探す親や祖父母といった直系尊属が相続人となる場合には、一般的な相続とは異なる税制上の扱いがあるため、事前に確認しておくことが大切です。特に「相続税の2割加算」や「小規模宅地等の特例」の可否は、誤解されやすいポイントです。
相続税には、相続人の関係性によって加算される制度があります。具体的には、被相続人の「配偶者」および「一親等の血族(父母・子)」以外の人が相続する場合、通常の相続税額に2割が上乗せされる仕組みです(相続税法18条)。
そのため、被相続人の父母ではなく「祖父母」が相続人となるケースでは、法的には二親等に該当するため、この2割加算の対象となります。直系尊属であっても、相続税の優遇対象とは限らない点に注意が必要です。
相続税の節税策として知られる「小規模宅地等の特例」は、一定の要件を満たすことで、被相続人の親(直系尊属)が相続人となる場合にも適用されることがあります。
たとえば、亡くなった子と同居していた親が、その自宅を相続し、引き続きそこに住み続けるようなケースでは、同居親族としての要件を満たす可能性があります。
また、子が「自己所有の不動産を持たない独立した子(いわゆる家なき子)」として親の自宅に同居していた場合など、親子の立場が逆であっても、特例の適用が認められることがあります。ただし、この制度には「生計を一にしていたこと」や「被相続人以外の親族が所有する不動産に住んでいなかったこと」など、厳格な条件があります。
なお、「配偶者控除」のような大幅な控除は配偶者のみに認められる制度であり、直系尊属には適用されません。小規模宅地等の特例は要件が細かく、適用の可否は事例ごとに異なるため、税理士など専門家に確認することをおすすめします。
相続だけでなく、生前に財産を譲り渡す「贈与」にも、直系尊属(親や祖父母など)ならではの制度や注意点があります。特に、子や孫への教育費や住宅資金などの援助を考えている場合は、税制上の特例を上手に活用することで、贈与税の負担を軽減できることがあります。
通常、贈与税は年間110万円を超える財産を受け取ると課税対象になります。ただし、贈与者が直系尊属であり、受贈者がその年の1月1日時点で20歳以上(2022年4月以降は18歳以上)かつ、贈与者の子や孫である場合には、「特例税率」が適用されます。
これは、一般の税率に比べて税額が抑えられる制度で、たとえば親や祖父母から子や孫へ教育費や住宅取得資金などの支援を行う際に、大きなメリットがあります。
なお、特例税率を適用するには、贈与を受けた年の贈与税申告が必要です。申告を怠ると、通常の税率が適用されてしまう可能性があるため、注意しましょう。
以下は、2024年時点の特例税率(直系尊属からの贈与に限る)の一覧です。
| 基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% | 0円 |
| 400万円以下 | 15% | 10万円 |
| 600万円以下 | 20% | 30万円 |
| 1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
| 1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
| 3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
| 4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
| 4,500万円超 | 55% | 640万円 |
この特例税率は、贈与を受けた人が直系尊属(父母や祖父母など)から贈与を受け、かつその年の1月1日時点で18歳以上(2022年4月以降)である場合に適用されます。
適用を受けるには、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までに、贈与税の申告書を提出する必要があります。申告を怠ると、特例税率ではなく一般税率が適用される可能性があるため、忘れずに手続きを行いましょう。
直系尊属からの贈与には、特定の目的であれば一定額まで非課税になる制度もあります。代表的なものは次のとおりです。
【住宅取得等資金の贈与】
子や孫が住宅を購入・新築する際に、一定の条件を満たせば省エネ等住宅は最大1000万円、それ以外の住宅は最大500万円まで非課税となる制度です(※2024年1月1日〜2026年12月31日)。
【教育資金の一括贈与】
祖父母が孫の教育費を支援するために、最大1500万円まで非課税で贈与できる制度です。専用の口座開設や領収書の提出が必要です(※2026年3月31日まで)。
【結婚・子育て資金の一括贈与】
結婚や出産・育児にかかる費用について、一定の条件のもとで最大1000万円まで非課税となる制度です(※2027年3月31日まで)。
これらの非課税制度は、制度の適用要件や期間に制限があるため、利用を検討する場合は税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。
普通養子縁組の場合、養父母は法律上の親にあたり、直系尊属として相続人になり得ます。この場合、実の父母との親子関係も継続しているため、実父母と養父母の双方が相続人になる可能性があります。
一方で、特別養子縁組の場合は事情が異なります。特別養子縁組では、実父母との法的な親子関係が終了するため、実の親は相続人にはなりません。養父母のみが直系尊属として扱われる点に注意が必要です。
義父母(配偶者の親)などの姻族関係は、直系尊属には含まれません。たとえ長年同居し扶養していたとしても、法的には血族や養親でなければ直系尊属とはならないため、相続人にもなりません。
扶養していたかどうかは、法定相続分そのものには影響しません。ただし、被相続人の財産形成などに特別の寄与があったと認められる場合は、「寄与分」として相続分に加算される可能性があります。これは家庭裁判所などでの調停・審判によって認められる必要があります。
普通養子縁組では、実父母との親子関係も存続し、養父母とも親子関係が生じます。このため、子や配偶者がいない等で直系尊属が相続人となる場面では、実父母と養父母が同順位の直系尊属として相続人となり得ます。
直系尊属であっても、相続放棄は可能です。相続放棄をすると、初めから相続人でなかったものと見なされ、同順位の他の直系尊属が相続するか、それもいない場合はさらに上の世代(例:祖父母)に相続権が移ることになります。放棄する際は、原則として「相続を知った日から3カ月以内」に家庭裁判所へ申述する必要があります。
全国47都道府県対応
相続の相談が出来る弁護士を探す直系尊属(親・祖父母など)が相続人となるのは、配偶者や子(直系卑属)がいない、あるいは相続権を失ったときなど、限られたケースに限られます。法定相続分や税制上の注意点も、一般的な相続とは異なるため、誤解のないよう正確な理解が大切です。特に養子縁組や遺留分、贈与に関する制度も複雑化しているため、判断に迷う場合は早めに専門家へ相談することをおすすめします。
(記事は2026年3月1日時点の情報に基づいています)