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遺贈寄付に託す未来への想い こども食堂にみる多世代のつながりとは 心を結ぶ「むすびえ」の支援活動
自分が遺す財産を社会貢献のために寄付したいと遺贈寄付を考える人が増えています。人生の終盤にさしかかった時、自分が生きた証として社会とのつながりを持ちたいと思い始めるようです。認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ(東京都新宿区)でも、ここ数年で遺贈寄付に対する問い合わせが急増しているといいます。むすびえで広報・ファンドレイジングを担当する甲斐裕美さんに、むすびえの活動と遺贈寄付についてお話を伺いました。
全国に増え続ける「こども食堂」、その数は7,000箇所以上
――近年、テレビや新聞などでこども食堂のニュースをよく見かけるようになりました。こども食堂とむすびえの活動についてまずは教えてください。
こども食堂は、子どもが一人でも行ける無料または低額の食堂です。「こども食堂」という名前ですが、もちろん大人も利用することができます。ほかには「地域食堂」「みんな食堂」という名前のところもあります。民間発の自主的・自発的な取組みで、最初のこども食堂が立ち上がった2012年から、昨年10周年を迎えました。
運営するスタッフはほとんどが地域のボランティアの方々で、その数は全国で約7,000箇所(2022年12月発表時点)、コロナ禍においても毎年1,000箇所以上のこども食堂が生まれています。
むすびえでは、各都道府県単位でこども食堂を支援する地域ネットワーク団体(中間支援団体)と連携して、全国のこども食堂をサポートしています。また、むすびえの活動にご理解頂いている企業や団体から物質支援や資金面での援助を受け、協働事業を展開しています。こども食堂が生み出している価値を把握し、それをより多くの方々に正しく知ってもらうための調査・研究も活動のひとつです。
こども食堂には、寄付で支援をしてくださる個人の方、企業、ボランティアの運営スタッフの他にも地域のさまざまな方が関わっています。こども食堂の近隣の農家の方が「朝採れの野菜だからつかってね」と段ボールで届けてくださることもあります。地域のみんなで助けあう気持ちがあり、運営を手伝ってくれている状況です。
こども食堂ではいま8割が物価上昇の影響を受けているというデータがあり、それでもスタッフの皆さんは、メニューや食材の変更をなるべくしないようにと歯を食いしばってがんばっています。運営ができるのはこうした地域の方々の協力があってこそだと思います。
こども食堂は誰でも参加できるみんなの居場所
――こども食堂には、どんな子どもたちがやって来るのですか。
こども食堂は「ごはんを食べられない貧困家庭の子が行くところ」というイメージがまだ強いと感じます。もちろんコロナ禍で経済的に苦しいとか、お困り事を抱える家庭のお子さんが増えている面はあります。
しかし実際のこども食堂は、そうした方々も含め地域のみんなでご飯を食べ、助け合い、まるで大家族のように一緒に過ごすコミュニティの場であり、地域に根付いています。年齢や国籍を問わずに誰もが参加できる「みんなの居場所」です。
赤ちゃん連れのお母さんは、赤ちゃんを預けてゆっくり食事が取れる。育ち盛りの子どもたちは栄養バランスがとれた食事を食べ、大人から学び、同年代の子と遊んでさまざまな体験をする。こども食堂に通うようになって地域の方々と仲良くなれた、人見知りだった子が心を開くようになった、そんなうれしい報告がたくさん届いています。
――いまインターネットやコロナ禍、少子化の影響で、人々の結びつきが失われ個々の時代へと流れていく傾向にあると思います。昔ながらの大家族のように過ごせる場所があるのは、子どもたちの心身の成長にとてもいいことではないでしょうか。
子どもたちだけでなく大人にもいいことだと思います。これは先日こども食堂にいらっしゃった男性の話ですが、勉強するお子さんの鉛筆をナイフで削ってあげたところ「おじいちゃんすごい!」と言われたそうです。一躍ヒーローになったと喜ばれていました。ナイフで削った鉛筆はとても書きやすいとお子さんも大喜びだったそうです。
遺贈寄付は終わりではなく、あらたなスタート
――むすびえでは、遺贈寄付についてどのような取り組みをされていますか。
遺贈寄付に関しては、むすびえでは2021年度より遺贈寄付専門の問い合わせ窓口を設置し、またお問い合わせに対し専門的な視点で正しく素早く回答ができるよう、遺贈寄付の専門家2名とアドバイザー契約を締結し、受け入れ体制を整備しました。こども食堂への社会の注目の高まりもあり、遺贈寄付の2022年度相談件数は2021年度比約5倍増加し、また寄付実績も2022年度は2021年度比116%となっています。
遺贈寄付への関心が高まってきている手応えを感じています。またむすびえが2021年より認定NPO法人となったことにより、寄付金に税制上の優遇措置があり、寄付金控除が受けられるようになったのも弾みがついた一要因です。
遺贈寄付についての問い合わせは、専用フリーダイヤルを設けていますのでそちらにお電話いただくか、ホームページのお問い合わせフォームもご利用いただけます。今後はホームページでも遺贈寄付について詳しくお伝えしていく予定です。
遺贈寄付を考えている方からのご相談でよくあるのが、「地域を特定して寄付したい」というご希望です。寄付をするならお世話になった自分の地元へ、ということなのでしょう。「〇〇市の××町」と具体的にご相談を受けることもあります。現状では地域の特定はできないのですが、将来的にはそうしたニーズに応えられるようにしたいと思っています。
また、ゆくゆくはむすびえを介するのではなく、各地域の団体が遺贈寄付の直接の受け皿になることが望ましいと考えていますが、これはむすびえの中長期の課題です。いまはただ、どんな形でニーズに応えていくのか走りながら考えている感じですね。
――遺贈寄付はいくらからできるものなのでしょうか。
金額の指定は特に設けておりません。それこそ数万円から数千万円と幅広い金額で寄付をしていただいています。また遺贈寄付ではありませんが、個人の方の通常の寄付では1,000円から受け付けています。切手や図書券、不要になった貴重品など現物による寄付も可能です。
――遺贈寄付にまつわるエピソードがありましたら教えてください。
両親から相続した遺産をむすびえに寄付してくださった60代の女性は「本当はこども食堂に行ってみたかったのよね。作りすぎた煮物の鍋を持って行きたかったけど、コロナもあるし、体も思うように動かないから、お金で寄付をすることにしたの」とおっしゃっていました。
また、むすびえへ遺贈するという遺言書を書かれた50代の女性から「こども食堂に行ってみたい」というご要望を受け、実際にこども食堂にお連れしたところ、その後毎月ボランティアとして参加され、「自分が幼少期に遊んだ思い出がある、ぬいぐるみなどのおもちゃをプレゼントできてよかった」と喜んでいただいたケースもありました。こども食堂の様子を見て「親が遺してくれた財産を地域の貢献のために使えて良かった、親孝行になった」とお話してくださった男性もいらっしゃいます。
自分が亡くなった後、自分を覚えていてくれる人はいなくなるかもしれないとふと考えた時、遺贈寄付のことが頭に浮かぶと皆さんおっしゃいます。遺贈寄付をするということは、自分が生きた証を遺すことなのかもしれません。そして遺贈寄付は終活の一環のように思われるかもしれませんが、実はそこから寄付した先との関わりができ、新しいスタートになっていきます。私たちむすびえは、こうした皆さんの想いをつなぎ、結んでいくのが役割だと考えています。
全国に7,000箇所以上広がりつつあるこども食堂を支援する認定NPO法人。社会活動家でもある湯浅誠理事長による「誰も取りこぼさない社会をつくる」というビジョンのもと、こども食堂が全国どこにでもあり、誰もが安心して行ける場所となるよう、各地域のこども食堂ネットワーク支援に取り組むほか、企業・団体との協働事業や調査・研究にも取り組んでいる。
(記事は2023年2月1日現在の情報に基づきます)
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