世界の子どものたちの健やかな成長を目指す国際NGO

――ワールド・ビジョン・ジャパンの活動内容について教えてください。

德永:ワールド・ビジョンは、世界の子どもたちの健やかな成長のために活動する、世界最大規模の国際NGOです。1950年にアメリカで設立され、現在では世界約100カ国で活動しています。1987年にはワールド・ビジョン・ジャパンが活動を開始しました。

ワールド・ビジョン・ジャパンの活動は、「開発援助」「緊急人道支援」「アドボカシー(政府や市民社会へのはたらきかけ)」を3本柱としています。貧困や格差で苦しむ子どもたちを中長期的に支援する開発援助の中で、「チャイルド・スポンサーシップ」は核となる事業です。チャイルド・スポンサーとして支援に参加いただいた方に支援地域の子どもを紹介し、その子どもの成長報告や手紙の交流などを通じて子どもの成長を見守りながら、地域の課題解決のための支援活動をささえていただきます。2021年度はワールド・ビジョン全体で約340万人、ワールド・ビジョン・ジャパンでは6万人以上の子どもたちに支援を届けてきました。

ケニアのチャイルド・スポンサーシップ支援地域の子どもたちとワールド・ビジョン・ジャパンのスタッフ。写真はワールド・ビジョン・ジャパン提供

――ワールド・ビジョン・ジャパンへの遺贈寄付について、近年の動向を教えてください。

蘇畑:初めて遺贈寄付をお受けした2005年以来、二十年近くにわたりご寄付をお受けしてきました。近年は、終活ブームや社会状況の変化などで「遺贈寄付」という言葉が認知されてきたことも背景に、遺贈や相続財産のご寄付の件数も増加しています。

これまでは、遺贈寄付をくださったご本人もしくはご家族がチャイルド・スポンサーだったなど、生前から私たちの支援者であったケースがほとんどでした。しかしここ2、3年は、ご生前中に私たちへのご支援の履歴もお問い合わせも無かった方が、遺言書で私たちを遺贈寄付先の団体として指定してくださっていて、遺言書が執行された段階で私たちも初めて知る、というケースも増えています。

できる限り遺贈寄付の意思は生前に伝えてほしい

――遺贈寄付についての問い合わせも増加しているとのことですが、具体的にどのような相談が寄せられるのですか。

蘇畑:「準備したいとは思っているけど何から手をつけていいか全くわからない」という方から、遺言書も書いて遺言執行者も指定されていて、「送金方法を知りたい」「具体的な使途を決めたい」など寄付後のことを相談される方まで千差万別です。ご相談される方の年齢もバラバラで、最近は30〜40代の方や、相続人がいらっしゃらない方が将来のことを考えてお問い合わせいただくことも増えています。

――寄せられた相談に対してどのようなサポートをしていますか。

蘇畑:「どこから手をつけたらいいかわからない」という方の場合は、具体的に今イメージされていることをお伺いして、ご希望があれば遺贈寄付についての経験が豊富な司法書士や弁護士などの専門家をご紹介します。また、遺贈寄付の実例や遺言書の具体的な書き方などを掲載したパンフレットをお送りし、検討の参考にしていただいています。

――遺贈寄付はいくらぐらいから寄付できるのでしょうか。また、寄付金の使い道を指定することは可能ですか。

蘇畑:金額の多寡に関わらず大切にお受けして、なるべくご希望に沿った形で使わせていただきます。使途のご希望については、相続財産からのご寄付の場合は、ご相続人の方から故人や相続人ご本人のお気持ちを伺います。ご遺贈の場合は、遺言執行者の方に伺ったり、遺言書の付言事項を拝見したりして、使途の指定やヒントになるようなことがあれば参考にしています。

ワールド・ビジョン・ジャパンを遺贈先に指定してくださっている方の多くは、「子どもたちのため」にという思いが大前提にある方がほとんどです。その思いからさらに、「子どもたちの教育のために」や「食糧難で苦しんでいる子どもたちのために」など、私たちの活動分野と地域の中から関心のあるものを少しでも教えていただければ、できる限りお気持ちを尊重した使途をご提案しています。

德永:遺贈は亡くなったときに効力が生じるという意味で、実際の寄付は数年~数十年先の将来に発生します。そのため、使途の指定がお約束できないこともあります。お気持ちを尊重した上で、遺言が執行されたときの支援のニーズに沿うように活用させていただきます。

相続財産からの寄付でカンボジアの小学校に図書館が建設され、館内には故人と相続人の名前が記載されたプレートが掲げられている。写真はワールド・ビジョン・ジャパン提供

――できる限り、生前に遺贈寄付の意思はお知らせした方が良いのでしょうか。

蘇畑:ぜひお知らせしてほしいという思いがあります。寄付の使途はもちろん、ワールド・ビジョン・ジャパンを選んでくださった思いや私たちに寄せる期待など、可能な限りご本人の言葉で聞かせていただきたいなと思っています。

これまでワールド・ビジョン・ジャパンとのコンタクトが全くない方は特に、電話をかけるということ自体とてもハードルが高いことだと思います。私たちとしては、情報発信にさらに力を入れて「自分はお金持ちでないからそんなに寄付できるわけでもないし」といった誤解や情報不足を解消して、ハードルを下げていく必要があると感じています。ぜひ、遠慮なく気軽にご相談いただけるととてもありがたいです。

「顔が見える支援」だからこそ安心して託すことができる

――実際にあった遺贈寄付のケースをご紹介ください。

德永:東京都にお住まいの70代の女性は、ご生前から長年にわたってチャイルド・スポンサーとして支援をいただいていました。闘病生活に入られる前にご寄付を、また遺贈としても残された財産の一部をご寄付くださいました。ご生前の寄付については、お電話で直接お話を伺い、子どもたちの教育に強い思いをお持ちで、一定額以上のご寄付だったこともあり、教育の支援事業に特化した個別プロジェクトを立ち上げました。フィリピンでの通学路の整備や、スリランカで幼稚園の建設など、複数の国で教育支援事業を行いました。ご遺贈は、厳しい状況にある子どもたちのために実施している既存のプロジェクトに充当させていただきました。

――子どもを支援する団体は他にもある中で、遺贈者がワールド・ビジョン・ジャパンを選んだ理由はどこにあると思いますか。

德永:長年のチャイルド・スポンサーシップのご支援を通して、ご寄付による支援が「どこの誰かに行ってしまう」のではなくて、「どこの国のどこの地域の子どもたちに届いているか」を説明しようとしているワールド・ビジョン・ジャパンの姿勢を信頼していただいたからではないかと思います。よく「ワールド・ビジョン・ジャパンの支援は顔が見えますよね」とおっしゃっていただくこともあります。「安心して託せる」と選んでいただけることは本当にありがたいですね。

ワールド・ビジョン・ジャパンの蘇畑光子(左)と德永美能里さん

――最後に、遺贈寄付を考えている方にメッセージをお願いします。

蘇畑:遺贈は、ご自分の将来の「死」について考えることでもあり、そこに向き合うのは非常にチャレンジングなことだと思います。また、日本ではまだまだ浸透しているとはいえず、悩まれることも多いかもしれません。きっと私たちにお役に立てることもあると思うので、一人で悩まず気軽にご相談ください。

以前、亡くなったご主人の遺志を継いで相続財産を寄付し、アフリカでの小学校校舎建設を支援をしてくださった女性がいます。その方がご自身の経験を振り返り、遺贈や相続財産の寄付は「故人の目線で見ることができる、とても温かな美しい世界です」とメールで伝えてくださり、とても印象に残っています。

家族を失った悲しみから立ち直っていくのは非常に大変な道のりですが、遺贈や相続財産の寄付は、残された者たちが立ち直っていくための力を与える一つになるのかもしれない。そのように考えさせられた言葉でした。途上国の子どもたちにも故人の方の温かく美しい思いは伝わっていくと信じていますし、そうした思いは子どもたちの中にも育まれていくはず。「託した思いが続いていく」ことを、ご本人や残されたご家族にも感じていただけるように、私たちもサポートをさせていただきたいと思っています。

ワールド・ビジョン・ジャパン

ワールド・ビジョンは第二次世界大戦後の1950年9月、キリスト教宣教師ボブ・ピアスによってアメリカ・オレゴン州で設立。朝鮮戦争によって両親を亡くした子どもや夫を亡くした女性たちへの支援から始まった。1987年10月にはワールド・ビジョン・ジャパンが設立され、独自の理事会を持つ組織として活動を開始した。本部・東京都中野区。2002年5月から認定NPO法人の認定を受けており、同団体への寄付金は税制上の優遇措置を受けられる。

(記事は2023年2月1日現在の情報に基づきます)

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