不動産鑑定士は土地の「フェアバリュー」を出すことが仕事

――不動産鑑定士といえば、路線価や公示地価などが発表される際などに、評価に関わる専門家という印象がありますが、実際に個人が依頼するケースも多いのでしょうか。

不動産鑑定士は、中立な第三者の立場から不動産の鑑定評価を行い、フェアバリューつまり公平な価値を出すことが仕事です。業務としては、国や都道府県が行う「地価公示」や「都道府県地価調査」のほか、「相続税標準地の鑑定評価」「固定資産税標準宅地の鑑定評価」があります。そのほかにも不動産の証券化、会社合併時の資産評価など、公的機関や民間企業から依頼を受けて鑑定を行っています。

個人を対象とした業務では、鑑定評価の依頼数はやはり少ないのが実情です。それは、鑑定評価1件当たりの報酬が数十万円~100万円となるため、個人の方では鑑定評価を取得してもなおコストパフォーマンスに見合う局面がかなり限定されるからでしょう。一方で、不動産のエキスパートとして、不動産の有効活用などの相談にのりコンサルティングをすることはよくあります。

「相続税の申告に携わる税理士は、一般的には不動産については知識が豊富だとは限りません。申告に使われる土地の画一的な評価が、妥当な評価かどうかを見極めるには専門的な知識が必要です。不動産鑑定士という専門家なら土地のフェアバリューを鑑定することができます」と合田さんはいいます
「相続税の申告に携わる税理士は、一般的には不動産については知識が豊富だとは限りません。申告に使われる土地の画一的な評価が、妥当な評価かどうかを見極めるには専門的な知識が必要です。不動産鑑定士という専門家なら土地のフェアバリューを鑑定することができます」と合田さんはいいます

専門家として相続税路線価や固定資産税の評価の知識があることが強み

――相続の場面で不動産鑑定士に依頼するケースはあると思いますが、一般的に相続では不動産を路線価で評価すると決まっています。それでも相続で不動産鑑定士に依頼されるのはどんなケースでしょうか。

まず、相続が発生する前と相続が発生した後の2パターンに分けてお話します。

相続の発生前における対策は「争いを防ぐ」「節税」「納税資金の対策」の3つが挙げられます。まず「争いを防ぐ」では、自分の死後、紛争を防ぐためにどのように相続人に分けるべきなのか。そのために現在の不動産の価格を把握したいという相談や鑑定依頼を受けます。また、「負の不動産」を持っている人は、子どもたちに迷惑をかけないように整理する際にも評価が必要となります。

「節税」では、収益力のある不動産を個人から法人に移すことで節税をすることができます。その際に鑑定を依頼されるケースもあります。

「納税資金の対策」は、鑑定よりも相談の方が多い領域です。「相続税の試算をしてみたところ、これだけの税額が出てきてしまった。実際に売却するときはどの不動産をどのぐらいの価格で売ったらいいのか」と悩む人は多いです。その際に、不動産仲介業者に相談に行くと、取引する方に誘導してしまうような業者もいます。そうではなく、あくまでもフェアな価格を知りたいということで鑑定士に相談に来られるケースです。

――相続発生後にはどんな依頼がありますか。

相続税の申告で使用する相続税評価額(路線価)は、財産評価基本通達という国税庁の定めた取扱基準によって定められます。相続税の申告に携わる税理士は、一般的には不動産について知識が豊富にあるわけではありません。相続税の申告のために、ある程度画一的な評価が必要となるため、財産評価基本通達が定められているのです。

しかし、その画一的な評価が妥当な時価であるかどうかは見極めが難しいところです。そこで、申告をする段階でフェアバリューを見極めるために、不動産鑑定士に依頼するケースもあります。

不動産鑑定士は、国や自治体からの依頼で、路線価や固定資産税の評価額の鑑定にも携わっています。そのため「その土地がどういう理由でその評価を付けられているのか」という知識があります。不動産が自分の相続財産の中でかなりのウェイトを占める場合は、土地の評価に強い税理士や、不動産鑑定士と連携している税理士に依頼することで納税額を下げることができるでしょう。

以上のように、相続発生前後の様々な領域で、不動産鑑定士に依頼・相談するケースは考えられます。不動産鑑定士は、フェアな時価を出せることと、不動産仲介業者のように取引に誘導するようなことがないこと、そして財産評価のベースとなる、相続税路線価や固定資産税の評価の知識を持っていることが大きな強みです。

合田理事が代表を務めるJBAアセットマネジメント&コンサルティング(東京・千代田区)で取材しました
合田理事が代表を務めるJBAアセットマネジメント&コンサルティング(東京・千代田区)で取材しました

路線価による評価額が時価よりも高くなってしまう場合は鑑定士に依頼を

――不動産鑑定士に依頼する可能性があるのはどのような人でしょうか。

最も依頼を受けるのは、不動産をたくさん持っている人です。不動産の分け方にしても、将来の節税を考えるにしても、不動産の価格が与えるインパクトは非常に大きいので時価を把握しておくことをおすすめします。

また、賃貸不動産など収益がある不動産を持っている人も、事前に価格を把握することで節税対策を考える入り口になると思います。収益物件をいくつも持っている地主でなくても、1億~2億円ほどの物件を持っている方は鑑定士に依頼をするメリットはあるのではないかと思います。また、一方で「負の不動産」を多く所有する人も、誰が相続するのかを考えるうえでも時価を把握しておくとよいでしょう。

相続発生後に、不動産鑑定士に相談しなくてはいけない局面は2つあります。1つは、財産評価基本通達で評価すると時価よりも高くなってしまうため、鑑定評価によって納税者が納得できる時価で評価し、節税のパフォーマンスを図るときです。

不動産は相続税評価額で課税されますが、路線価は毎年発表される公示価格の水準よりも、低く設定されています。しかし、条件が悪い土地などで路線価による評価額が時価よりも高くなってしまう場合、不動産鑑定評価書を税務署に提出すれば、評価額を下げられる可能性があります。

もう一つは遺産分割協議で揉めてしまっている場合です。遺産分割において、土地の価格は原則として相続税の評価額ではなく、遺産分割時の時価とされます。時価ベースの価格を知りたいというときには、不動産鑑定士の領域となります。

――相続する不動産を評価してほしい場合など、不動産鑑定士に依頼する場合、どのように選べばよいでしょうか。また、不動産鑑定士と連携している税理士事務所の見つけ方は。

各都道府県の不動産鑑定士協会のホームページで、それぞれの地域の不動産鑑定士の名前や事務所の住所を検索することができます。

また私が不動産鑑定士協会で講師を務めている「相続専門性研修プログラム」を受講している鑑定士であれば、より相続についての知識を深めている鑑定士といえます。そのプログラムの修了者は、日本不動産鑑定士協会連合会のホームページで閲覧できます。
【不動産鑑定士への依頼を検討されている方へ】│日本不動産鑑定士協会連合会

また税理士に依頼する場合、不動産鑑定事務所と連携しているどうか、または依頼する税理士事務所の税理士の中に不動産鑑定士の資格を保有している人がいるかどうかにも注目していただければと思います。

税理士への相続相談お考え方へ

  • 初回
    無料相談
  • 相続が
    得意な税理士
  • エリアで
    探せる

全国47都道府県対応

不動産評価に強い税理士を探す

相続税の申告件数を税理士の数で割ると1人あたりに2、3件ほどです。その中でさらに不動産に強い税理士、ないしは不動産鑑定士と連携可能な税理士となると、かなりそのシェアは下がると考えられます。依頼しようとする税理士が相続に詳しく、不動産評価にも強いかどうかを確認して依頼することをおすすめします。

【日本不動産鑑定教協会連合会】
昭和30~40年代の地価高騰に伴い、1964年に新たに創設された「不動産鑑定評価制度」と時を同じくして、不動産鑑定士の組織として発足した公益法人団体。その歴史は半世紀以上となり、前身は1965年に設立された「社団法人日本不動産鑑定協会」であるが2012年に現在の組織へと移行。会員数5,068人(令和4年8月現在)。不動産鑑定士の品位の保持及び資質の向上を図ることなどを目的としており、不動産鑑定士向けに相続などさまざまな実務修習(講習会)も開催している。
日本不動産鑑定士協会連合会 

(記事は2023年1月1日現在の情報に基づきます)