目次

  1. 1. ショートフィルムは時代の鏡
    1. 世界の多様な価値観で今起きていることを映し出す
  2. 2. アクターは行動するひと
    1. 社会と積極的につながって仕事すると教わった
  3. 3. 「三つのお財布」という考え方
    1. 米国では社会貢献が日常の暮らしの中にある
  4. 4. まず知ることからはじまる
    1. その先に寄付などいろいろな行動がある
  5. 5. 遺贈――何を社会に残すか
    1. 応援したいことを日頃から見つけておくことが大事
  6. 6. SSFF & ASIAは来年25周年
    1. 世界の社会課題解決の「未来予想地図」にしたい

――映画、テレビ、舞台、ラジオで活躍を続けられるなか、国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 」(SSFF & ASIA)を主宰し、社会貢献活動や被災地支援にも積極的に取り組まれています。

SSFF & ASIAは来年25周年を迎えます。アカデミー賞公認で、アジア最大級の国際短編映画祭に成長しました。世界中から25分間以内のショートフィルムを集めて、毎年6月に開催しています。今年も126の国・地域から5720点の応募がありました。コロナ下でリアルとオンラインの両方のハイブリッド開催にしました。観客数はリアル会場、オンライン会場で32万人以上だと思います。

――映画祭のグランプリには「スター・ウォーズ」で知られるジョージ・ルーカス監督の名前を冠しています。

1999年の第1回のときに、若き日の彼が大学生時代に撮った短編フィルムを僕たちが発見して公開して以来、ずっとルーカスが応援してくれたからこそ、今のかたちの映画祭があります。

――地球環境をテーマにした部門やアワードも設立されてきました。2008年からですが、何かきっかけがあったのでしょうか。

アメリカのアル・ゴア元副大統領が主演した長編ドキュメンタリー映画「不都合な真実」(2006年)がきっかけでした。その後、映画祭に集まるショートフィルムの中で、特に海外からの作品に環境問題がものすごく多くなり、こんなにたくさん世界の人々が地球温暖化や環境を考えているのか、と。そういう潮流の中で「ストップ!温暖化部門」が生まれ、現在では、優秀な作品に「地球を救え!環境大臣賞」や「同J-WAVEアワード」を授与しています。

――「ショートフィルムは時代の鏡」と著書の中で書いておられます。

ショートフィルムは長さが短く、準備期間も短い。いわば燃費が良いので、個人の考え方が反映されやすく、今起きていることをすぐに映し出します。たとえばニューヨークで9・11同時多発テロが起きたとき、テロや世界の人たちがお互いを信じあえないということをテーマにした作品がすごく増えた。あるいは代理母の問題や、環境のような大きな問題もそうですし、人間がいま目の前で、生活の中で感じていることを、世界中の様々な価値観で即座に映し出していく。そういう意味を含めてです。

――寄付やボランティアといった社会活動にいつごろから関心を持つようになったのでしょう。

静岡県立藤枝東高校時代のバレーボール部の先輩に、お父さんが事故で亡くなった交通遺児の方がおられたんです。仲間を助けようと寄付活動をする友達や先輩が身近にいました。東京に出てきて慶應義塾大学のESS(英会話クラブ)で英語劇をしている中でも徐々に理解が深まったと思います。

――俳優になってからは。

僕は1990年にハリウッドで映画デビューしたのですが、アメリカの演劇学校でいちばん最初に教わったのは、アクター(俳優)というのは演技をする人ではなく、行動(アクト)する人であり、アクティビスト(活動家)につながっているので、積極的に社会とつながって仕事をするべきだということでした。

――アメリカの映画人は社会貢献活動に熱心だと聞きますが、どうしてでしょう。

アメリカを見ていると、ロールモデルといわれる人たちがいます。芸能人、スポーツ選手、政治家、実業家らで成功した人は必ず、母校や応援したいところに寄付などをして支援しています。映画界だと、監督であればジョージ・ルーカスやスティーブン・スピルバーグ、俳優ではトム・クルーズやジョディ・フォスター、レオナルド・ディカプリオもブラッド・ピットも社会貢献について自分の考えを持っています。彼らの活動をメディアもよく取り上げるので広く知られています。

――社会貢献が一般の暮らしの中で特別なことではなくなっているのでしょうか。

そうですね。アメリカでは子どものときから「三つのお財布」という考え方を教育しています。自分のお金を「使う」「貯蓄する」そして「寄付する」の三つです。お小遣いをもらったり、お手伝いをしてお金をもらったりしたら、この三つの財布に分ける。選択肢に必ず、困っている人たちのための寄付が入っているんです。このマインドはとてもいいなと思いますね。僕の妻は日系4世のアメリカ人で、13歳の娘がいます。娘はインターナショナルスクールに通っていますが、ウクライナ支援のためにマカロンを焼いて売ったりとか、そういうことをごく普通に、友達と一緒にやっています。

――今年の8月には開発途上国支援機関と協力し、南スーダンの社会や文化を知らせるオンラインイベントを開きました。

映画祭にかかわる映像作家たちは、いま起きている社会の課題にとても敏感なんです。それが紛争であったり孤児であったりする。一方で、国際的な人道支援団体や途上国支援機関といった、僕たちと一緒にやってくださる人たちがメッセージを伝える手段として、ショートフィルムというストーリーテリングはとても有効なんです。たとえば、セリフのないアニメーションにすれば子どもにもわかる。

――毎週、朝の番組のナビゲーターを担当しているFMラジオで、昨年12月から今年2月にかけて、コロナ禍で困窮する親子を支援するキャンペーンに参加されていました。経緯を聞かせてください。

ラジオはリスナーから生活者の声が届くし、僕もそれをお伝えしています。本当に驚愕(きょうがく)したんですけど、東京のような国際的な大都市で貧困なんて、そんなに大きな問題ではないと思いこんでいたら、コロナであぶり出された。子どもたちが食事できない、給食をその日唯一の食事として楽しみにしている、食べるのに一日一日苦労しているといったことを聞きました。ショックというか、胸を痛めたというか、僕も娘がいるので、そんなことがこの日本であってはいけないし、地球上でもあってはいけないと思いました。一方でフードロスみたいなことも起きている。ぜひ協力できることは参加させていただきたいということで、クラウドファンディングなんですけれど、予想を超える大変多くのお金が寄せられました。

――昨年11月には、国際的医療・人道援助団体のイベントで司会をされ、しめくくりに「知る・拡散する・寄付する・参加する」と呼びかけていました。この言葉にどんな思いをこめましたか。

まず知ること。それがなければ始まらなくて、その先に寄付とかクラウドファンディングとか、いろんな行動があると思うんです。自分が行動することや伝えることもできます。「知る・拡散する・寄付する・参加する」は、そうしたことを凝縮したパターンじゃないかな。

――亡くなったあとに資産を社会貢献団体に寄付する「遺贈」について、どうお考えですか。

海外の俳優や映画監督と交流するなかで、そうしたことを考えることはあります。将来、人生の第4コーナーを回る頃や何かあった時に、家族に残すべきところと社会に残すべきところは何だろうと。もっともっと遺贈という仕組みが日本で広がったらいいと思います。遺贈する時に突然何かを考えるというよりは、まだ若いうちから自分がつながり、応援したいと思う団体や事柄を見つけていくことも、とても大事なんじゃないでしょうか。その延長に遺贈があるのではと思います。

もともと日本も「互助・共助」のコミュニティーだったと思うし、僕が子どものときはそうだったんですよね。地元のみんなで子どものことは守るし、みんなでお祭りをしたり、困った人がいれば助けて、お葬式を手伝ったり。その互助・共助の先にチャリティーとか寄付とかがあり、最終形として自分の人生が終わるときの遺贈が計画されたり考えられたりするべきだろうなと思います。

――25周年を迎えるにあたり、来年の映画祭はどんな企画を考えていますか。

周年事業なので祝祭として、コロナ禍を経た新たな世界がつながっていくうえで、その世界が分断されたり分かり合えなかったりすることを映し出し、理解し合えるようにするための映画祭をめざしています。また、僕も俳優としても、行動する人としてのアクターとしても、節目の年にしたいなと思います。周年というとどうしても振り返り型になりがちなのですが、いま構想としては、未来を映し出すというか、映像で応援できる世界の社会課題解決の「未来予想地図」になるように、さらに努めたいと考えています。

応募が126の国・地域というのは、ほんとうにうれしいことです。長編はなかなか難しいけど短編は作り続けていく、というクリエイターたちの意気込みを実感しました。作品を見ると、人間として考えている価値は同じだったり、悩んでいることは共通していたりと感じる一方で、世界で本当に僕たちがまだまだ知らないような虐げられたり、理不尽であったりということがあるんだ、ということも感じます。学校に子供が行けないとか、女の子だけは行けないとか。水を奪い合っているという現実もあります。

もちろん、胸が苦しくなるような作品ばかりではなくて、世界中のほほえましい作品もたくさんあります。

――会場はどちらでしょう。

メイン会場はやはり東京・原宿の表参道です。映画祭が生まれた場所なので、そこでの開催を続けていきます。また、分散型の様々なオンラインと連動した開催を、来年はさらにパワーアップしたいと思います。

(聞き手・橋本聡、撮影・伊藤菜々子)

別所 哲也(べっしょ・てつや)

俳優。1965年静岡県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。90年、日米合作映画「クライシス2050」でハリウッドデビュー。米俳優組合(SAG-AFTRA)会員。その後、映画・ドラマ・舞台・ラジオ等で幅広く活躍中。99年より、日本発の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」を主宰し、文化庁長官表彰を受ける。観光庁「VISIT JAPAN大使」、カタールフレンド基金親善大使、外務省「ジャパン・ハウス」有識者諮問会議メンバーを務める。内閣府「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」の一人に選出。

【PR】遺贈寄付する先をお探しならgooddo

寄付を受け入れている社会貢献団体の資料を一括お取り寄せ!

遺贈による寄付の始め方や遺言書の作成例、各団体の寄付の使い道など、失敗しない遺贈寄付の仕方がわかる、国や自治体が認めた社会貢献団体のパンフレットを無料でお届けします。

「相続会議」の弁護士検索サービス