目次

  1. 1. カギは土地が「道路に2m以上接している」か?
  2. 2. 建築基準法の「道路」を詳説
  3. 3. 古い住宅地にありがちな「路地状敷地」問題の事例紹介
    1. 3-1. コストが掛かっても「隣の土地は買うべき」?
    2. 3-2. 「路地状敷地」問題の解決法をまとめて図解!
  4. 4. 狭い道路に面する不動産を相続した際の注意
    1. 4-1. 「セットバック」を図解
    2. 4-2. 「セットバック」した場合の建物面積を計算
  5. 5. 早期に問題を知り、解決することが大切

建築基準法では、敷地と道路との関係について、「接道義務」というルールが定められています。建築基準法43条には、原則として「建築物の敷地は、道路に2メートル以上接しなければならない」とあり、これを接道義務といいます。

この条文にある「2m」と「道路」という2つのキーワードはとても重要です。まず、土地が道路に2m以上接しているかどうかが、建物が建てられるかどうかの分かれ目になります。
矩形(長方形や正方形)の土地では2mの接道義務が問題になるケースはほとんどありません。しばしば問題になるのは、旗竿地(はたざおち)とも言われる路地状敷地です。
路地状敷地とは、細い通路を通って奥の敷地に行く土地を言います。
路地状敷地では、道路に接している通路部分の間口が2m未満の場合、建物の建築許可が得られず、建て替えができません。
また、通路の最低幅は、通路の長さや建物の種類により自治体ごとに決まりがあり、一般的には2m以上必要とされています。

土地の形状ごとに接道義務を解説する図表の①
土地の形状ごとに接道義務を解説①
土地の形状ごとに接道義務を解説する図表の②
土地の形状ごとに接道義務を解説②

もうひとつのポイントですが、敷地が2m以上接するのは「道路」でなければいけません。
ここでいう「道路」とは、建築基準法によって認定されている道路(以下、建築基準法上の道路)のことをいいます。
建築基準法上の道路には、下記の図表にある種類があります。

建築基準法が定める道路の種類
建築基準法が定める道路の種類

たとえ敷地が「道」に2m以上接していたとしても、それが建築基準法上の道路でなければ、その敷地に建物を建てることができません。
一見道路のように見えても、実際には建築基準法上の道路として認定されていなかったということもあります。
また、認定道路でない場合でも、特定行政庁が避難上・交通上・安全上・防火上などで支障がないと認める「道」については建築が認められる場合があります(建築基準法43条2号2項)。
相続した土地、あるいは相続する予定の土地が、建築基準法上の道路に面しているのか、道路ではなくても建物の建築はできるのか、などは市町村の役所で調べれば分かりますので、一度確認をしておくことをおすすめします。

古くからの住宅地などでは、接道義務を満たさない路地状敷地が数多くあります。
ここでは、接道義務を満たさない路地状敷地の解決事例をご紹介します。

Aさん(80代)は、約30年前に実家を相続し、自宅として住み続けていました。先代から引き継いだ自宅の建物は相続時にすでに築60年以上が経ち、Aさんは建て替えを考えましたが、自宅の敷地はいわゆる旗竿地。しかも通路の幅は狭く1間(約1.8m)しかなく接道義務を満たしていないので建て替えができません。そこでAさんは、隣地のBさんにAさんの通路に接する部分を幅20㎝分売ってほしいと何度もお願いしましたが、Bさんは首を縦に振ってくれません。Aさんは建て替えができないまま、年月が経ちました。

その後、約1年前にBさんが亡くなり、子どものCさん(50代)が実家を相続しました。そこでAさんは、今度はCさんに土地の一部を譲ってもらいたいと話をしたところ、Cさんからは、価格が折り合い、かつ、残りの土地が有効に使えることを条件に、譲っても良いという返事をもらいました。交渉の結果、AさんはCさんの土地の一部(約1坪)を買い取ることができました。その時の周辺の地価相場は坪70万円でしたが、Aさんが購入した土地の価格は、相場の4倍以上の坪300万円でした。

通路部分を購入して、やっと土地の売却にめどが立った事例

通路部分を購入して、やっと土地の売却にめどが立った事例

この事例では、Aさんは相場よりもかなり高い金額でCさんから土地を購入しています。それでもAさんは大喜びでした。接道義務を満たしていないばかりに長い間塩漬けになっていた二束三文の問題土地が、建て替えも売却もできる「きれいな土地」に変わり、Aさんの憂いはなくなったからです。自宅は築後90年を経て、ようやく建替えができることになりました。
たとえ価格が高くても接道問題を解決したいというAさんと、近隣関係を大切にしておきたいCさんの思惑が一致したため交渉がうまく進んだ事例です。

よく「隣の土地は3倍出してでも買え」と言われますが、この事例のように、建て替えができなかった土地が、有効に活かせる土地になるのであれば、たとえ高い価格で買ったとしても、より大きなメリットを得ることができるのです。

この事例の他にも接道義務を満たさない路地状敷地の解決方法はあります。

「路地状敷地」問題の解決法3つを図示
「路地状敷地」問題の解決法3つを図示

さまざまなケースを想定しながら、解決方法を模索し検討することが大切です。

次に狭い道路に面する不動産の問題について解説をします。

道路は、原則として幅4m以上あることが必要ですが、幅4m未満でも「セットバック」をすることにより建物を建築することができる道路があります。
それが、図表2の42条2項による道路のことで、「42条2項道路」「みなし道路」とも言います。

セットバックとは道路後退のことで、道路幅員が4m未満の場合に、道路の中心線から2mまで、敷地と道路の境界線を敷地側に後退させることにより、残りの敷地に建物を建てることができるというルールです。道路の中心線から道路後退をするので、「中心後退」「センターバック」とも言います。

「セットバック」の決まりを図説
「セットバック」の決まりを図説

42条2項道路では、原則として「中心後退」をしますが、道路の反対側に河川、水路、公園、線路、がけ地などがある場合は、こちら側が中心後退をしても、道路の反対側の土地はセットバック自体ができないので、4mの道路幅員を確保することができません。
その場合は、道路の中心線から2m後退するのではなく、道路の反対側からこちら側に4mまで下がる必要があります。
これを「一方後退」と言いますが、一方後退の場合、道路の片側の土地しか道路後退をしないため、中心後退と比べて敷地面積が大きく減ってしまいます。

また、42条2項道路に面している土地で注意しなければいけないのは、セットバック部分は建物の敷地面積から除かれるために、建物を建て替える時には、新築する建物の面積が建て替え前よりも減ってしまう可能性があることです。

たとえば、敷地面積が100㎡、容積率(※1)が100%の土地に建築できる建物の延床面積の上限は
建築可能な延床面積 = 敷地面積100㎡ × 容積率100% = 100㎡
です。
延床面積100㎡の実家を相続した後、その家を建て替える場合、仮にセットバック部分の面積が10㎡のときは、差引後の90㎡を敷地面積とするため
建築可能な延床面積 =(敷地面積100㎡ - セットバック部分10㎡) × 容積率100%=90㎡
延床面積の上限は90㎡と、建て替え前よりも小さな建物しか建てることができません。
(※1)容積率…敷地面積に対する建築可能な延べ床面積の割合のこと

また、土地を売却する際には、セットバック部分の面積は価格の対象から外れるため、その分売却価格が当初予定よりも少なくなることもあります。
なお、セットバック部分は、不動産広告では「私道負担〇〇㎡あり」というように表示されます。私道負担の面積がセットバック部分の面積になります。

相続した実家などの不動産が、狭い道路に面している場合は、どこまで敷地を後退させなければいけないかを役所で調べることにより、実際に使える敷地が把握できます。
また、自治体のなかには、セットバック部分にかかる塀の撤去工事や分筆費用などについて補助金制度がある自治体もあります。あわせて調べておきましょう。
いざという時のために、あらかじめ調査しておくことは大切です。

接道義務違反を解決するには多大な時間・労力・お金がかかる場合もあります。それでも早期に問題を把握し、解決に向けてスタートを切ることは重要です。
またセットバックは法的な問題ではありませんが、物理的・経済的にさまざまな制約が生じます。考えていた建物が建てられない、思っていたよりも安くしか売れないと言うことも、あらかじめ分かっていれば、時間的な余裕をもって対応することが可能です。

なお、解決に当たっては、総合的な判断も必要になるため、不動産に詳しいFPや不動産コンサルタント、また測量、近隣との交渉、税金などさまざまな手続きについては、測量士、弁護士、税理士など専門家のサポートが必要になる場合もあります。それぞれの専門家に相談しながらベストの解決を図ることをおすすめします。
次回以降も、問題のある不動産の相続について解説をします。

(記事は2020年9月1日時点の情報に基づいています)

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